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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第三夢
26/37

~夢の中で鬼ごっこ15〜

美緒の両親に連絡をしてから一時間後、慌てた様子で病室を開ける音がした。


「美緒!!美緒ー!!」


「美緒…あぁ…美緒が起きてる…起きてるわ…!!」


そこには病室で会った母親と、スーツ姿の男性…美緒の父親であろう男が息を切らして入ってきた。


「パパ…ママ…おはよう。」


美緒は両親の顔を見て微笑むと、母親は美緒を強く抱きしめて頭を撫でた。

千奈美が冷たいと思ったのは勘違いだった、そう思わせる様子だった。

しかし、母親はその後、誰もが信じられない言葉を口にした。


「これでようやくピアノのレッスンに行けるわね…!みんなの遅れを取り戻すのよ…。」


「…え?」


母親のセリフに千奈美は思わず声が漏れた。長い眠りについていた娘に対して最初に掛ける言葉に千奈美どころか、その場にいる全員が固まった。


「何を言ってるんだ、おまえ…!」


そう言って父親は母親を制する。その様子に父親が仲裁する、誰もがそう思ってホッと安堵した。


「美緒には将来、プロのフィギュアスケーターになってもらうんだ!これからの時代はフィギュアだって前から言ってるだろう!?」


しかし、その周りの予想を覆して母親と同じような言葉を口にし、再び周りが固まってしまった。信じられないが、両親は、どちらも本気でそう言っている口ぶりだ。


「何を言ってるの?!情緒や感情が豊かになるから絶対にピアニストよ!!」


「それを言うなら、それこそフィギュアスケートだろ!!お前は何も分かってない!!」


母親は金切声を上げて叫ぶと、その声に負けないように声を荒げて言い返し、ついには激しく口喧嘩を始めた。


「お前ら…いい加減に…。」


「いい加減にしなよ!!!」


そんな二人の様子に珍しく険しい顔をして止めようとする漠を押しのけて大きい声を出して割って入ったのは千奈美だった。


「あんたら!!子供を何だと思ってるのよ!!!子供はね、子供はね…親の物じゃないのよ!!?美緒ちゃんの気持ちは無視なの?!バカじゃないの!!」


怒りを露わにして怒鳴る千奈美に言い合いをしていた二人は面を食らって喧嘩をやめた。


「あ、あなたに、美緒には関係ないじゃない!?」


驚いた顔をして一瞬、怯んだ母親ではあるが、怒る千奈美に言い返す。しかし、そんな母親に気圧されずに千奈美も睨む。


「えぇ、関係ないわよ!!でもね、私だって子供よ!!私は美緒ちゃんの気持ちを考えたら、そんな両親なんて嫌よ!!でも子供は親を頼らないと生きていけない!!頼るしかない!!そんな子供の気持ちを利用するなんて間違ってる!!」


言葉をしていく内に、千奈美の目には涙が浮かんでいた。

しかし、何に泣いているのか千奈美自身も分からなかった。怒りに対してなのか、悲しみに対してなのか…だが、両親の考えは許せない、それは千奈美が唯一、今分かっている感情だった。


「千奈美、人の家庭に首を突っ込むな。」


そう言って間に入ってきたのは、ソムリュだった。


「ソムリュさん…でも…。」


まだ納得出来ない千奈美は涙も拭わずにソムリュを見る。しかし、ソムリュは、だがな、と言って両親に腕を組んでズイッと歩み寄ると二人を見下ろして言葉を続けた。


「将来を決めるのは、その子だ。お前達は親だ。子供を育てる、人の道を踏み外さないように育てる義務がお前達にはある。だが、将来を決める道は子供のすべき事であってお前達ではない。」


そう言ってソムリュは険しい顔を更に険しくして睨むと、両親は思わず萎縮した。


「この子の道は、この子が選ぶんだ。この子の将来を決める道は誰も止められない。たとえそれが、神であってもだ!!」


そう言ってソムリュは両親を見ると、二人は言葉を失って何も言えなくなった。


「美緒ちゃーん?美緒ちゃんは、大きくなったら何がしたい?」


いつの間にか美緒のそばに来ていた漠は、美緒の目線までしゃがみ込むと優しい声で尋ねた。すると、その場にいる全員が美緒を見て言葉を待った。


「えっと…美緒は、美緒はね…。」


一斉に注目された美緒は緊張しながら皆を見て次第に俯いていった。そんな美緒を隣で、頑張って、と漠が声を掛けると、しばらく考えた後、何かを決心したのか顔を上げて叫んだ。


「美緒は…お菓子屋さんになって、パパとママがニコニコするケーキを焼いてあげたい…前みたいに、ニコニコなパパとママがいい!!」


そう言って美緒は両親を見る。その瞳の奥には美緒の、子供ながらの決意の色が滲んでいた。


「美緒…。」



両親は共に我が娘の名前を呼ぶが、その先の言葉が見つからず、その瞳をただ見つめるしかなかったのだった。


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