第一話 ことの始まり
紅魔館の完璧メイド長十六夜咲夜。いまでこそ完璧瀟洒と謳われる彼女ですが、紅魔館で働いていく上で彼女は大変な思いをしてきました。このお話は、咲夜がメイド長での仕事を完全に扱えるようになって、しばらく経ってのお話です。
紅魔館メイド規律
第一条……決められた仕事はきっちりこなす事。
第二条……定時まで私用で持ち場を離れない事。
第三条……主人の命には必ず従う事。
今回新しく制定されたメイド規律。私はそれをメイド掲示板に張り付けた。
紅魔館が昔から抱える問題。
それは、大多数の妖精メイドの仕事率があまりにも悪い、ということだ。
勿論しっかりと仕事をこなすメイドだっているにはいるのだが、如何せんその他が酷い。
前までのメイド規律は今で言う第三条の一つだけだった。私、十六夜咲夜はその状況に端を発しようと、お嬢様に掛け合って第一条と第二条を増やしたのだ。
今朝のメイド集会でのどよめきは凄かった。何せそれは、妖精だから仕事出来なくてもしょーがないじゃん、その常識というか醜悪な逃げ、意識、習慣を完全にぶっ壊すものだったのだから。
そう、今日から紅魔館は生まれ変わるのだ。仕事しない妖精メイド紅魔館から、エリート妖精養成紅魔館へ変身だ。
「さて、見回りに行きましょうか」
私は格好良く踵を返した。
今日からしばらく、私の今までの仕事(掃除、洗濯、炊事その他etc...)はお休みだ。その間は全ての妖精メイドの見回り、指揮を行う。その期間でみんなに自身の仕事をしっかりと再認識させるのだ。
そして、みんなが自分の仕事を私の様に完璧とはいかずとも、それなりに扱えるようになってから現場復帰だ。
――初めの一週間は酷かった。ほとんどの妖精メイドが自分の仕事内容すらも把握していないという事実が発覚したからだ。
紅魔館の内情がここまで酷いものだったとは。私は焦りに焦った。
幸い、仕事を扱える妖精メイドに私の仕事は与えてあるから、出来ないメイド達に集中することが出来た。
まずは適当に仕事分けしていたメイド達を正式に食事、掃除、戦闘の三隊に区分した。次に、毎晩メイドセミナーを開くことにした。日替わりで食事なら食事、戦闘なら戦闘用のセミナーを開いたのだ。
流石の私でも寝る間も惜しいほど忙しくなってきてしまったので、譲ることはないだろうと思っていたお嬢様の身の回りの世話をも、優秀なメイドに任せることにした。
それから一ヶ月経った。みんなは自分の仕事を把握してきたようだ。食事班は調理が出来るようになってきた。戦闘もほとんどの者がノーマルくらいならいけるようになった。掃除は未だにサボりが目立つが。
さらに一ヶ月過ぎた。みんな自分の仕事を理解したみたい。食事班は朝から仕込みをするようになってきたし、掃除班は言わなくても配置に付いて掃除するようになった。戦闘班は自主練に励んでいるようだ。
さらに一ヶ月。ようやくみんなはしっかりと働けるようになってきた。食事だって調達、調理、後処理まで出来るし、掃除も見回りの際にサボりが全く見受けられなくなった。ピカピカだ。戦闘に至っては、妖精メイドのみで魔理沙を(一度だけだが)撃退するという快挙まで成し遂げた。
これで、もう私は自分の仕事に戻ったって大丈夫だ。約三ヶ月ぶりで自分の仕事を覚えているか多少不安だが、身体が覚えていることだろう。それに、久しぶりにお嬢様のお世話がしたい。湯浴みできゃっきゃうふふしたい。
私は一週間後から現場復帰することをお嬢様に進言し、またメイド集会でその事を告げた。
さぁ、あと一週間。この生活ともお別れだ。