1話 ジャージ男とレッドキャップ
『神は死んだ』と、ある偉人は言葉を残した。
この言葉の意味は、神という存在が本当に消失したのではなく、当時のキリスト教を批判した言葉であることは誰もが知っていることだ。
そしてこの言葉は神を中心とした歴史や、哲学だけを否定しているわけではない。人が生きる上で理想郷とした『天国』や『天界』、『神話』や『真理』という幻想すらも打ち消したのだ。
人は自らの手で行う事ができず、自らの頭で理解が及ばないあらゆるものに恐怖を抱き、神へと祈りを捧げた。そして神はこれを受け入れて人ができない事を施すという『ギブアンドテイク』の関係を築き上げた。
だが人はやがて神から離れていった。
人が不可能であった事を可能にしてきた時、人は神の存在に疑問を覚え始めたのだ。
そしてついにある考えに辿り着いた人間がいた。
神は人類の成長を阻害する。
人が祈る限り目は曇り、現実から離れて理想へと逃避を始める。
戦場で神に祈る時間があるのならば、目の前の敵目掛けて剣を振るった方がよい。神話という歴史があるために、人類創世の歴史は否定される。人の倫理は神に害されるのではないか。
人が神離れを行った最も歴史的な言葉、神という存在から造り上げられた歴史の崩壊。
まさに新たな人類の一歩を示した言葉なのかもしれない。
ただ、この言葉を別の意味で捉えている者達もいる。
それは『神の存在の否定』である。
化学が発展したこの現代において、心から神を畏敬し敬う者達がどれほどいるのだろうか。
かつては神や仏の存在を否定すれば、その場で命を奪われてもおかしくはなかった。しかしそれは自らが及ばぬ世界を、神や仏に任せていたからこその所業である。
夜の闇を、死による恐怖を、夢による幻想を、治せぬ病を、不可解な現象を。
古代から人はそこに『理解不明な存在』がいると恐れた。解らぬからこそ恐怖したのだ。
しかし、今の人間は知っている。
夜の闇には何も無いことに。死ぬ事は生命の運命であることに。夢は人の脳が見せるまやかしだということに。治せぬ病もいずれ治る病に変わることに。不可解な現象など起こりえぬことに。
人は知ってしまっている。神という存在など、過去の歴史であることに。
■ ■ ■ ■ ■
夜もふけた丑三つ時。
怪異が最も活発になると恐れられたこの時間帯。多くの飲み屋から酒に溺れた老若男女達が、千鳥足になりながら、のれんを出てさ迷う深夜二時。
例え夜といえども、この日本の人が住む町には明かりに照らされぬ場所など無いに等しい。
だが、光に照らされた町とはいえ闇はたしかにそこに存在しているのだ。
人が行き交う中央通りから数キロ離れたとある住宅街の十字路。
元々道と道とが交差する十字路には、多くの宗教でも例外なく危険と定められている。
あの世とこの世の境界、それが十字路にあるとされていたからだ。そしてその境界において、二つの影が電灯の光により照らし出されていた。
「おいおい、ここは日本のはずだろ?ネコマタやらカマイタチならまだしも、何でこんな物騒なやつがいるんだよ……」
思わず驚きに声を漏らした男。その顔はまだ若い、恐らくまだ二十歳にもなっていないだろう顔立ちである。
しかし格好は普通から多少逸脱しているように思える。
着込んでいる服は、近所の安くて有名なチェーン店で売られているジャージ。
頭に被る帽子は近所のジャ○コで購入した某球団のマークが入った野球帽。
足に履いているサンダルは、家にあった装飾も何も無い茶色のゴムサンダル。
顎に生えた短い無精髭と片方のレンズにヒビが入った眼鏡。死んだ魚のように濁った黒い眼。
コンビニ帰りなのか、右手に持っているロゴ入りのビニール袋からは一つ百円の玉子パンと、ブラックコーヒーがそれぞれ透けて見えた。
はっきりいってさえない中年を思わせる風貌である。どこはかとなく人生に疲れた成人男性に似て無くもない。
対してそれに向かいあう存在は全身レインコートと、これまたおかしな姿であった。
光関係なのか、おかしな事に顔を確認する事ができない。見ようと目をこらすと、何故か歪んでみるせいだろう。顔の位置には二つの光点が輝くばかりである。
星が空に何万何十万と輝いている夜、そこには雨雲どころかただの雲一つとして存在はしない。
にも関わらず、雨の日に着用するはずのレインコートを着こむ目の前の存在は何か。
その手には闇夜に鈍い輝きを放つ手斧が一つ握られていた。
ゴム手袋をした手は痙攣し、目は爛々と輝いているその様は、狩りを行う明確な遺志が感じられた。何に関して行う狩りなのかは、相対するさえない男のみが知っている。
「あんた、日本の法律知っているの?六センチ以上の刃物でさえダメなのに、そんな物をおおっぴらに見せびらかしちゃダメでしょうに」
流石にここまで直線的なものは珍しいのか、目を狐のように細めて怪異を観察しているものの、男は自分のペースを崩さなかった。
目の前の異常は自らの世界を、常識を崩しさる敵だ。しかし男にとってその異常はあまりにも知りすぎている事態であり、もはや己自身にとっての常識ですらあった。
「ここまでやる気が満々なやつだと、ちょっと見逃せないな。見逃したら見逃したで後が怖い」
コンビニ帰りの自分では少し身が重いかもしれないが、ここで見逃して被害者がでてしまっては、上に何を言われるか解らない。
ただでさえ少ない給料を減らされてしまっては、明日の生活にすら関わってくる。
目の前の存在を目で捉えながら、刺激しないようにジャージのポケットへゆっくりと手を忍ばせる。
慎重に取り出したのは携帯電話。今やiPhoneが当たり前の時代にはやや珍しい、というよりも若い男性がもつのはおかしいもの。
解り易く使いやすさを追求した携帯電話。そう、『らくらくふぉん』である。
もちろん彼自身がこれを好んで使っているわけではなく、支給されたユニット型霊房装置がこれだけだった話である。
少なくともこれを初めて渡されたときは、制作者の正気を疑わざるをえなかった。
画面下にある①、②、③の短縮ボタンの内、②のボタンをプッシュ。
その瞬間、辺りの空間が重くなると共に彼と怪異の周辺にノイズが発生。
自らと怪異を平行空間へと引きずり込む。平行空間と行っても、おかしなファンタジーが取り入れられた空間ではない。あくまで世界の裏側、物理法則は変わらない現実世界とよく似た鏡の裏側のようなものだ。
さらに電子的な結界を張る事によって、目の前の怪異をこの周囲の空間に拘束。
携帯の画面には1と0の羅列が流れ出し、多くのタブが平行して展開される。
どうやら目の前の怪異に対する演算が完了したようだ。片目で携帯の画面を確認。
結界:起動……成功。平行空間14245664
対象:レインコート、手斧、怪異数値暫定7※2#@@00124
対象検索……日本データベースに適合無し。検索結果無し。日本国外の怪異を検索……西欧データベースにて怪異波長パターン適合。
検索結果:レッドキャップ
種別:妖精
霊害レベル:C
有効手段:十字架、聖句
レッドキャップ。
イングランドやスコットランドにて伝わる精霊だ。ホビットなどの妖精と同じ妖精であるのにも関わらず、極めて危険な怪異である。
名前の由来は人間を殺したあとに、流れた血を使って自らの帽子を染めるという行いから。なんともスプラッタな妖精だ。霊害レベルは早急対応が求められるCに位置づけられている。
見たところ帽子は被っていないが、もしかしたら今着こんでいるレインコートを朱く染めるのだろうか。
だとすれば使用される血の量は、帽子の比では無いだろう。どれほど自分の体は刻まれてしまうものやら、あまり考えたくはない話だ。
そして対策についてだが……。
「うん。無宗派の自分が有効手段を備えている事はないって事実はずっと前から知って……うぉ!?」
頬を引き攣らせる男に、レッドキャップは手斧を振り下ろす。
目算八メートルはあったであろう距離を、目の前の怪異は音もなく詰めり命を奪おうとしてきた。
避けられたのは彼の直感によるところが大きい。しかしこの直感こそが何よりの武器であることを、歴戦の猛者たる彼は知っている。
『スキル:徒手格闘』
手斧を振りかぶってできたレッドキャップの横腹に素早く拳を放つ。
拳を受けたレッドキャップはその視線を自らの横にいる男に向ける。
しかし男は躊躇いもなくさらに二撃、三撃と続けざまに攻撃加えると、最後の締めとばかりに上げ蹴りを繰り出してレッドキャップを蹴り飛ばした。
為す術もなく、されるがままに吹き飛ばされたレッドキャップが大地をバウンドしてコンクリートを転がる。男がレッドキャップ目掛け、追撃を加えるべく走り寄ろうとした刹那。
『スキル:死地の直感』
体全体を覆うような寒気を覚えた。
とっさに体を横に反らせば、その僅か一センチ先をレッドキャップの手斧が回転しながら通り過じてき、右手に未だ持っていたコンビニのビニール袋を切断。さらに背後にある石の塀に深々と突き刺さる。
それを好機とばかりに目の前のレッドキャップは攻性に転じるべく、そのレインコートの中に両手を引っ込める。再度その手が表れたときには、手の中には二つの手斧が存在していた。
「おいおい、最近の怪異は手品でも学んでるんですかぁ!?」
思わず額から汗を流す男へ目掛けて、レッドキャップはその二本の手斧と共に突貫。
男は足下にあるコンクリートの欠片とコーヒー缶を足止め代わりに投げつけるものの、レッドキャップはそれらをまるでハムを切るかのようにスライスしてしまう。
そう、砕くのではなく綺麗にぱっくりと二つに切り捨てたのだ。
「うっそぉ!?」
驚嘆の声を発しながらも、振り下ろした手斧を手の甲で返して、レッドキャップの顔面へと拳をたたき込む。
その際まるで皮を剥がされたチキンを殴ったようななんとも言い難い感覚が拳から伝わり、思わず男の全身に鳥肌が沸きだつ。
だが顔に一撃をもらったのにも関わらず、目の前の怪異は何度もその手斧を自分目掛けて振り下ろしきた。
その度に全て返すか躱して反撃するも、レッドキャップの動きには少しの陰りすらも感じられない。むしろその攻撃はだんだんと激しさを増していくばかりだ。
このままではじり損だと男は内心で焦り始める。
目の前の怪異は今の自分が対処できる範疇を軽く超えている。そもそもただの素手で怪異と渡り合おうというほうがおかしいのだ。
もしこれが十分な用意行い、万全な装備の下にここへと戦いに来たのなら話は違う。
今頃家でぐだぐだとネトゲをしている相棒のサポートがあれば、今すぐにでも反撃の糸口をつかめるだろう。
しかし今の自分は完全な私用による帰りだ。着こんでいるのは対魔用の服装ではなく、近所のしま○らで買った二千円一組のジャージ。
そのジャージですらも段々と避けられなくなってきた自分のせいで、所々自分の肌が露呈し始めている。
……何が悲しくて男がこんな格好せにゃならんのだ。
色気の欠片も無いどころか、目の前の怪異にも劣らぬ変質者に変わりつつある。帰りに職務質問でもされたらたまらない。あいつらは任意といいながら全然任意ではないのだ。
ある意味で怪異よりもやっかいな連中なのだから。
「ッ!」
そうしている内に怪異によって腕の皮が僅かばかり切り開かれ、血の飛沫が宙を舞った。
回し蹴りでレッドキャップを吹き飛ばすものの、やっと自らのコートを血で染めあげたことが嬉しいのだろうか。そのコートの中で不気味に輝く光点二つは陰るどころか、ますます喜色楽しげに輝き始めている。
自分が取得している『死地の直感』は、自らが危険な目に合えば合うほど効力を発揮する。ここまで戦えたのは間違いなくこのスキルのおかげであろう。しかしスキルはよくとも自分の体は限界を迎えつつある。
方やどれほど攻撃を受けても怯まぬ怪異、方やあられもない姿の疲労困憊ジャージマン一名。
「……あれ?これってもしかして相当不味い?」
落ち着け、落ち着くんだ。
こういう時はどこからともなく正義の味方が助けに来たり、危機に陥ったことで隠された自分の力が覚醒するとか。
……いかん、あまりにも危機的すぎて思考が悪い方向に向かっている!?
「誰かー、誰かー助けてくれー!?……て、結界張ってるから誰かに聞こえるわけないじゃないか!」
あまりの絶望に押しつぶされそうになるも、目の前のレッドキャップは一向に攻撃の手を弛めない。いや、むしろどんどんその攻撃速度は上がってきている。
さらには今まで受けていたこちらの攻撃を防ぎ始めていた。妖精であるレッドキャップは力と体力において人間よりも強い。
決定的手段が無い今、一歩、また一歩とレッドキャップに押されていく。
このままでは時間の問題かと思われた、その時。
男の耳に奇妙な音が聞こえ始めた。
大気を押しのけるような鈍く重い音。加えて寿司屋で使われるあぶりバーナーが吹き出すような音。
まるでロケット噴射音のような音が徐々に大きくなってきている。
いや、これは大きくなっているのではなく。
「けいぃぃすけぇぇぇさぁぁぁぁぁぁん!」
まだ幼さを残す年若い少女の絶叫と共にそれは現れた。
0と1の量子の結界を突き破り、突如姿を現したホウキ星。流星の如く飛来するその姿はさながら一発の弾道ミサイル。
背中に背負う真っ赤なランドセルに搭載されているロケットエンジンは、大量の推進剤が使われており、ランドセルの横からは飛行機のそれと同じ翼が。
羽には赤い動物をあしらった精霊言語で、『IFK'AL』と書かれている。
これには流石のレッドキャップも驚きを隠せないのか、先ほどまで振り上げていた手斧を下ろして呆然と空の少女に魅入っていた。
その隙にケイスケと呼ばれた男は、レッドキャップを蹴り飛ばして間合いを確保。
そして空から直下する少女目掛けて良く駆け付けてくれたと、親指を立ててサムズアップする。
彼にとっての女神の登場に、興奮が隠せないようだ。
だがそれに対して少女は。
「止まれませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「へ?」
涙目になりながら助けを求めた。
そのまま着陸の体勢になると、少女は住宅街の道をまるで滑走路に見立てたように徐々に低空飛行へと変化していく。
その斜線上に並んでいるのはケイスケとレッドキャップの二人。
ケイスケはここにきて目の前の存在が、自分を助けてくれる女神ではなく、おっちょこちょいで後先を考えない妖精であることに気が付いた。
だがその妖精は既に自分の百メートル先を低空飛行で接近中。
その速さ、時速200キロ。当然ながら人間が当たればミンチ確定である。
「ケイスケしゃぁぁぁぁぁぁぁん!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
受け止めてとばかりに涙を鼻水を飛ばす少女が両腕を開く。それはさながら死に神の抱擁。冥府へと引きずり込む死に神の鎌。
ケイスケはとっさに自分のスキルである『死地の直感』を限界まで行使。彼のスキルである『死地の直感』は彼自身が死の危険に近いほど大きな効力を与え、未来予知に等しい回避を可能とする。
今のケイスケはレッドキャップと相対した時以上に死の危険にさられていたらしく、神がかりな動きで横へと飛翔。その数メートル先を通り過ぎた少女の風圧によって外壁へと叩きつけられる。
それによって、死に神の鎌はその先にいるレッドキャップへと爆進。
自分が見捨てられたとようやく気が付いた少女が、目を潤ませながら後方にいるケイイチへと非難の声を上げる。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ何で避けるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「いや、死ぬだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「……!?……!?」
一瞬、今までレインコートに隠れていたレッドキャップの風貌が明らかになる。
皮膚という皮膚が垂れ下がった皺だらけの顔、魔女のように高い鼻、鋭利な歯で覆われた口腔。それはさながら人間の老人のような化け物であった。
だがそんなことはお構いなしと言わんばかりに、驚きと恐怖に彩られたレッドキャップの顔へと少女の栗色の髪に覆われた頭が着弾。
レッドキャップの鼻がひしゃげて潰れ、並んでいた鋭い牙は軒並み抜け飛んだ。
豪快な快音と共にレッドキャップをクッションにして大地に突き刺さるかのように激突。しばらく止まることなくアスファルトを豪快に数メートルに渡って深く削り取ると、ようやくそれは動きを止めたのであった。
膨大な土煙と振り上がった小石が落ちた先にいたのは、目を回しながら四肢を投げ出したランドセルロケット少女と、もはや原型が無くなって本人自身がスプラッタと化したレッドキャップと思わしき物体。
恐ろしい衝撃とGがかかっているのにも関わらず、少女はみたところ傷一つ無い。いや、頭にたんこぶが一つばかしできているのみであった。
「……し、失敗しちゃいましたぁぁぁぁぁ」
「失敗で済むかバカ妖精!俺が死ぬところだっただろうがぁ!」
吹き飛ばされ、石の壁に叩きつけられたケイスケ。
もはやその服はぼろぼろどころかはじけ飛んでおり、ほぼ全裸である。
だが命は助かった、そう思い安心して息を吐き出したのもつかの間。すぐ側に転がっていた自身のらくらくふぉんから、軽快な電子音が鳴り響いた。
なんとか地面を這って携帯の下に辿り着き、画面を開くとそこには。
異能:レッドキャップの鎮圧を確認。レッドキャップの霊子を回収。
結界:収束。フィールド損傷53%。当局より局員の派遣を検討、可決。
マスターケイスケ:邪魔、どっかへ転送。
「ちょっと待て!?邪魔って何だよ邪魔って!?」
「あ、ケイスケさんが消えて行く……」
「へ……?」
突如目の前が白いもやのようなものに包まれ、周囲の風景と自分の体が見えなくなる。
目の前の少女が慌てふためきながらも駆け寄ってくる姿を最後に、姿だけでなく声すらも聞こえなくなってしまう。
恐らくレッドキャップが存在した痕跡の掃除、そして二度とその場に復活する事がないように因子の回収が行われるのだろう。
それはもはや自分とは別分野だ。つまりもうお前は用無しだから、邪魔にならないようどっか行けと転送されてしまったのである。
しかしこれまでも何度かこのような転送はあったが、今回は雑ではないのだろうか。
いくら何でも命がけの戦いの後に邪魔呼ばわりとは、流石に心に来るものがある。攻めて労りの言葉の一つは欲しいところだ。
やがて視界が晴れて行く中、目の前に人がいることに気が付く。
見上げてみると、そこには青い制服に身を包んだ公務員の姿があった。近頃いろいろ不祥事が発生しながらも、以前高い検挙率を誇る日本警察である。
何故だろう、自分の姿を見て酷く驚いているようだ。
それはそうだろう、なんせ突然白いもやの中から現れたのだから。
転送システムもせめて隠蔽対策にもっと気を使って欲しい、そう重いながら言い訳の一つや二つ考えていると。
「……君、ちょっとお話しを聞かせて貰えないかな?」
さて、今一度ケイスケの状況を見直してみよう。レッドキャップの猛攻によってぼろぼろのジャージは穴が空きすぎて、もはや無いにも等しい。
かろうじて局部には布がかかっている姿だ。下手をすればその気のがある人間に襲われたとも見て取れる。
だが普通の人間から見れば、早い話が変態にしか見えなかった。
状況を把握したケイスケの顔が青く染まる。
建前上、自分の今の社会的立場は無職である。無職の男が警察官にこんな姿で捕まったら、いったいどうなってしまうのだろうか」
「無実ですっ!」
「ああ、そうだね。でもちょっと来てくれないか」
「俺は無実何だぁぁぁぁぁぁ!」
任意という名の強制連行によって、ケイスケは夜の闇へと消えて行ったのであった。
■ ■ ■
◇怪異データベース
《NO,124妖精レッドキャップ》
イングランドやスコットランドにて伝わる極めて危険な怪異。
その多くは皺が多く髭が長い老人の風貌で伝わっている。殺害現場や戦場跡など血なまぐさい場所を好み、影から斧や杖で殴りかかる。また、長い爪や鋭い牙で攻撃するとも伝えられている。
殺した相手の血で自らの帽子を染め上げることからその名が付いた。
苦手なものは十字架など。一節にはキリスト教のために悪とされた妖精だといわれている。
《NO,226妖精イフカル》
メキシコのとある部族に伝わる妖精。
毛むくじゃらであり、ロケットを背中に背負って飛行するまか不思議な妖精。
一見可愛らしく馬鹿げた存在であるが、実は飛行状態のまま子供を攫うというとてつもないパイロット妖精である。
主人公の相方一号。