表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/89

天界の常識 7

 後ろで何かと何かがぶつかる音がした。が、音がしたことを認識する前に、衝撃に吹き飛ばされる。

 背後からの突風に押され、前へ体が動いて行く。

 目の前は、黒。


 地面にぶつかるより遥かに早く、何かにぶつかって体が止まる。

 真正面から飛び込んだのは、クラークの胸だった。私を受け止めたクラークは、地面には降ろさず小脇に抱えた。

 そのまま荷物のように持ち運びされる。


「サエ!」

「ぐえっ、ぐ・・」


 並走するタクトが何事か言っていたが、腹部の圧迫が半端なくて何も分からなかった。意味のないことを言った気もする。

 女にあるまじき声を出したような気もする。しかしそれも気にしていられない。

 そこまで酷い振動は感じなかったが、それでも辛いものは辛い。



 涙が零れる一歩手前で、私は解放された。

 魔族の男共は、私を荷物か何かと勘違いしているのではないだろうか。まあ、ギアの方がまだ余裕ある持ち方(笑)をしてはくれたけど!

 乱れた息を整え、顔を上げる。空を飛んだりはしていないので、島自体は移動していないはずだ。が、見た目はかなり変わっている。


 タクトと歩いたのは住宅地だったが、此処ここは緑に囲まれていた。

 木々に隠れるように空を見上げる面々。私も同じように上を見た。

 私たちの頭上を、大きな銀色の塊が通っていく。言わずもがなの飛行艇だ。それを追って、天族の戦士が飛んでいる。

 見た感じ、天族側が優勢のようだ。逃げるように移動する飛空挺を容赦なく追撃している。


「・・・あれ?」

「どうした?」

「うん・・、砲撃が・・・」


 飛空挺の攻撃が、ない?

 あの強大な砲撃を一切せず、逃げるだけの飛空挺。不審に思って見れば、すぐに理由が分かった。飛空挺の各所から煙が噴き出ている。しかも砲台があった辺りばかりから、である。

 どうやら砲台を中心に攻撃されたようだ。だから反撃したくても出来ないのだ。そう納得して首を戻す。

 ずっと見上げていても疲れるだけだ。自分たちに脅威が及ばないなら見ている必要もないだろう。


「あー、あの砲台は、ユキが・・・」

「ユキが?」


 タクトが戸惑いを含んだ眼差しをユキに向けている。

 自然と他の皆の視線も彼に集まる。が、見られている本人はぼんやりとした顔を見せるだけだ。


「君の、あれは何だったんだ?」


 皆を代表して、ユイジィンが訊く。

 「あれ」って何だ?ユイジィンの指すことが分からず、内心首をひねる。私以外には、「あれ」で伝わっているようで、誰も説明を求めない。

 話を聞いていれば分かるだろうか?


「あれって、何?」

「だから、さっきのだ。石を投げただけで、砲弾や飛空挺を破壊できるなんて、普通じゃない」


 私と同じで、「あれ」の意味が分かっていなかったユキ。それにユイジィンが答えたことで、私にも少し話が見え始めた。

 その現場を見ていない私としては、そんなこといつ起こったって言いたくなったけど。

 多分クラークに抱えられていた時だろう。あの時は、周りを見る余裕なんて皆無だったし。


「能力」

「能力?」


 召喚されたモノについて良く知らないユイジィンが首を傾けた。

 そうだった、と思い出したのは、私だけじゃない。タクトも思い至ったように、苦い表情を浮かべていた。


「狙った場所に当てる能力」

「・・・・だとしても、それでは砲弾や砲台を壊したことの説明がつかない」

「?投げたら壊れる。当たり前」

「いやだから・・・」


 要領を得ない会話はしばらく続く。要点だけまとめると・・、彼の能力自体は、本人が言った通り「投擲とうてき」だった。

 問題はその攻撃力だ。ただの小石を投げただけで標的を破壊できた事実。それはユキの異常な腕力によるものだった。

 今まで彼に何かを持たせたり、握らせたりしたことがなかったので気付かなかった。ユキは怪力の持ち主だったのだ。

 その腕力のせいで、ただの小石が凶器となっていたのだ。しかも必中の能力が合わさることで、常識離れした攻撃を可能とした。


 ユキ曰く、その能力と身体能力で、実動部隊に配置されていたらしい。

 まあ、彼を思い通りに動かせたことは少なかっただろうけどね。全く考えの読めない人だから。

 それはとにかく、それで私が砲撃された時の様子を知ることが出来た。


 思い出してみれば、あの時私の視界に入っていた人たちは間に合うはずがなかったのだ。彼らより先に、砲弾が私に当たる。それは誰が見ても分かることだったのだろう。だから・・・というわけではないのだろうけど、ユキは砲弾目掛けて石を投げた。

 次いで砲台自体にも攻撃をしたのだろう。おかげで私は五体満足で居られ、天族たちも有利になった。

 感謝するべきなのだろう。ユキが何故私を助けてくれたのか。それは知らないが、助けられた事実は確かにあるのだから。


「と言うわけで・・、遅くなったけど、助けてくれてありがとう」

「・・・?」


 思いっきり不思議そうな顔された。

 おいおい、会話の流れで分かるだろ、そこは。


「だからね・・・。・・ま、良いか。とにかくありがとう」

「?うん」


 説明を諦めた私に、はなから理解を放棄ほうきしているユキ。そんな私たちに抗議する者は居なかった。

 呆れた顔をした人は居たけど。当事者たちが良いと思っているのだから、良いのだ。気にしない、気にしない。

 眉間みけんに微かにしわを寄せたユイジィンが溜息ためいきを吐く。でもそれ以上何か言うことはなかった。


「む、どうやら向こうの決着が着いたようだぞ」


 ふと見上げたユイジィンがそう言った。

 目を向ければ、徐々に高度を下げて行く飛空挺が見えた。少し離れた島へ不時着するつもりらしい。

 当然か。結構な量の煙が立ち上っているのだ。あれで飛び続けられる方が恐ろしい。


「俺たちは・・、大人しくしていた方が良いんだろうな」

「ああ、そうだな。落ち着いたら『アルブス』様が御呼びなるだろう」

「何で?」


 ユイジィンの言葉が不思議で、思わず訊いてしまった。が、すぐに気付いた。

 飛空挺は人間の技術だ。つまり乗っているのは人間である。彼らとの橋渡し、あるいは関係の有無のため呼ばれるのは、当たり前のことだろう。

 案の定、ユイジィンも似たようなことを言った。

 ですよね。考え無しなこと訊いてすみませんでした。


 しかしこれで、私たち人間に対する風当たりは、ますます強くなるだろうな。

 考えただけで憂鬱ゆううつだ。今でさえ、引きこもりたくなるような嫌悪の視線と闘っているというのに・・・。

 遠い目をしたところでどうしようもない。家へと戻る皆に続いて、私も重たい足を動かした。





 ユイジィンの予想通り、『アルブス』に呼ばれたのは、次の日の朝だった。

 しかも早朝である。朝の歌が終わるや否や、というタイミングの。

 私は当然のこと、タクトやギアもまだ寝室から出てきていないような時間だった。非常識だ。

 が、天界ではよくあることだったようだ。と言うか、朝の歌が一日の始まりなのだから、それに合わせて起き出すのが常識であるらしい。

 特に朝が苦手なわけではないが、天界の早起き習慣にはついて行ける自信がないな、と思った。

 ちなみにユイジィンとクラークは起きていた。至って普通の顔をしている2人を奇異な目で見てしまったのは、私だけではなかったことに安心した。


 と余計なことに思考が流れながらも、なるべく急いで支度を整える。

 会うたびに怒らせている『アルブス』にまた会うのだ。せめて見た目だけはしっかりしておかなければ。

 そんな私の努力は、果たして実るのだろうか?




「ようこそ、とは言え歓迎はしていませんが」


 昨日と同じ部屋に通された私たち。開口一番そんなことを言う『アルブス』。

 もうちょっと友好的な言い方を心掛けては頂けないだろうか。なんて思っても表には出しませんよ。・・・心は読まれているだろうから意味ないが。

 しかし『アルブス』は疲れたように溜息を吐いただけで、何も言わなかった。

 「いちいちツッコんでられません」って言われたみたいだ。


「既に分かっているとは思いますが、昨日捕えた人間たちについて、頼みたいことがあります」

「頼みたい、こと?」


 うん?てっきりまた、皮肉とか誹謗中傷ひぼうちゅうしょうめいたことでも言うのではと思っていたが・・・。

 頼み事・・、されるような立場にあっただろうか、私たちは?


「彼らは人間です。人間の不始末は人間がつけるべきです」

「・・はい」


 有無も言わせずとはこのこと。

 いや、喜んで力を貸しましょう。何を頼もうとしているのかは知らないけど。


「貴方方にして頂きたいことは、彼らの送還です。ついでに『ホール』を閉じる手伝いもお願いします」

「『ホール』?」

「彼らが通ってきた所を、便宜上べんぎじょうそう名付けました。私の頼みたいことはその2つですが、よろしいですか?」

「はあ、良いですけど・・」

「では頼みましたよ」


 有無も言わせず状態は続行していた。

 新たな単語に首を捻ろうと、タクトが煮え切らない態度を取ろうとお構いなしである。

 しかも、このまま頼み事を片付けさせようという腹積もりのようだ。躊躇ためらう私たちを無理矢理移動させる。



 連れて来られたのは、飛空挺が不時着した島だった。

 近くで見上げる飛空挺は、先の戦いで所々壊されている。煙はもう出ていないが、これはもう飛ばないんじゃないか?


「乗っていた人間は、一部を除き捕縛ほばくして、一室に放り込んであります。無闇に彼らを解放しないよう注意してください」

「その一部の人というのは?」

「彼らが言うには、まだこれは動くそうです。ちょうど良いので、これごと地界へお帰り願おうと思いましてね。動かすことが出来る者のみ拘束していません」


 と『アルブス』が示した先に、天族の戦士に囲まれた男たちが居た。作業服と思われる、油などで汚れた上下一体の服を着た男たちは、憔悴しょうすいした様子で大人しくしていた。


「暴れたので、少々おきゅうえました」


 私の視線に気付いたのか、注釈を加える『アルブス』。

 一体どんなことをしたのか。怖くて聞けない。


「帰りはどうすれば良いのですか?」


 彼らから『アルブス』へ意識を戻したタクトが訊く。

 それは確かに重要なことだ。

 まさか、魔界や『楽園パラディス』を通って帰って来い、じゃないよね?


「そのまさかです。『ホール』は塞ぐので、それ以外に天界へ入る方法は無くなりますから」


 うわぁ、面倒くさい。

 って思ったのは、きっと私だけじゃないはずだ。




今回はちょっと短めでした。


『白』は人間嫌い。なのでお灸は相当キツイです。乗組員一同は生きた心地がしなかった、と思われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ