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事の終わり 1 ~サエ~

サエの視点です。

 タクトを捜して歩いていた私は、早くも挫折ざせつしかかっていた。屋敷の全貌ぜんぼうも知らずに闇雲に歩いたものだから、方向が全く分からなくなってしまったのだ。

 昼なら太陽の位置で場所が分かるのだが、生憎あいにく今は夜であり空は曇っている。

 こんな大きな屋敷内でうろついたら、間違いなく迷子になる。そんなこと分かっていたのに。と言うかちょっと前に思ったことをまるっと忘れていた。

 ただ歩くだけではもう無理だ。そう判断して、隣を歩くギアを見上げた。


「ね、此処ここ何処どこだか分かる?」

「さあ、何処だろうな?」


 頼りになるなんて思ってなかったから、がっかりしなかったよ。本当に。

 しかし少しくらい協力してくれても良いのでは?と思う自分も居る。戦闘大好き!なギアに探索とか頼る気はないのだが、一人でやるにも限度と言うものがあるのだ。

 ちょっとくらい気を使ってくれるとか・・・、ないよね。あった方が驚きだし。うん、ギアはこのままで良いや。



 外の様子が気になるのか、ギアはさっきからちらちら窓の外を確認している。

 私たちが居る所は、どうやら表の方ではないらしい。窓からは、綺麗な花壇が見えるばかりだ。

 これは良くないだろう。退屈したギアがいつ離脱しようとするか分からない。こんな所に一人にされたら困る。

 幾度いくど目かの角を曲がりながら、ギアの意欲を上げる方法を考える。


 いや、考えようとした。しかしそれより速く、ギアが動き出してしまった。

 曲がった先に現れた階段を、彼は何故なぜか昇り始めたのだ。それはもう軽快なリズムでひょいひょーいと。

 さて私はどうするべきか。

 なんて考えている場合ではない。あまりの唐突さに一瞬呆けてしまったが、急いで階段を駆け上った。今一番避けるべきなのは、これ以上仲間と離れないことだ。

 追う、以外の選択肢はないのだ。



 急いで追ったのが良かったのか、ギアの後ろ姿はばっちり視界に入っている。本気で追えば合流できそうだ。

 階段を上り切って、更に加速する。

 一方ギアの方は、何か目的地でもあるかのように迷いなく前へと進んでいる。

 何か見つけたのか?

 小さな光を見つけたような、ちょっとした安心感が胸に生まれた。問題ありな男だが、まるで役立たずというわけでもないのかもしれない。

 途方に暮れていたこともあって、私はとにかくギアに付いて行くと決めてしまった。

 こいつにまともな行動を期待するほど愚かなことはない、と学習するには十分な出来事が今までたくさんあったというのに。



 ギアが歩いている2階部分は、瓦礫がれきがそこかしこに落ちていた。

 どうやら此処も崩壊の危機にあるようだ。と言うか、1階まで壊れたあの影響は屋敷全体に及んでいたはずだ。此処どころか屋敷全てが危機的状況なのだろう。

 早くタクトを捜しだして、地下の彼らを助ける算段を立てなくては。

 そうはやる気持ちに気付くわけもなく、ギアは暢気のんきに歩いている。隣に並んで彼が行く方を眺めるが、廊下は1階と特に変わったところはない。


 まさか、階段に昇りたかっただけ、とかないよね・・・?

 嫌な予感に顔が引きつる。隣を見上げるが、その表情からは何の考えも読みとれない。

 訊いた方が早い。そうは思うのだが、嫌な予感が当たると重大な精神的ダメージを受けそうで出来ない。

 ドクドクと鳴る心臓をなだめるように深く呼吸する。



 代わり映えしない廊下に、また階段が現れた。また上階へと続く階段だ。そして、同じくギアは何も言わないままそれを昇る。

 私も後ろに続く。

 廊下を歩く。この屋敷は、外から見た限り3階建てだ。つまり此処が最上階。屋上はないだろうから、此処より上は存在しないはずだ。

 なのにまた上への階段があった。とは言え、今までのような豪奢ごうしゃな感じではない。廊下の突き当たりにひっそりとあったそれは、多分屋根裏部屋へと続くものだ。

 その前でギアが立ち止まるから、きっと更に上に行くのだと、そう思った。が、彼はそうしなかった。


 くるりと振り返り、私の横にあった部屋のドアに手を掛ける。

 開けるのか?と思ったら、止めてしまった。

 小さく首を傾げるギアに、おずおずと声を掛ける。


「ね、ねえ?どうしたの?」

「んー、此処に居た奴がなー、強そうだったから。でも居なくなった」


 物騒だ。物騒すぎるぐらい物騒な考えの元動いていた。

 危ないよ、私が。早くタクトと合流しよう。そしてこの危険人物と早く離れよう。

 良い感じにあおられた危機感に、胸がドキドキいっている。しかしそんな私に気付くわけがないギアは、少し考えてから目の前の扉を引き開けた。そして中へ入っていく。


 ん?居ないんじゃないのか?

 そう思ったが、今彼の行動を制限できる存在は居ない。論が通じない相手では、私は何も出来ないのと同じなのだから。

 仕方がないから私もその部屋へと入ってみる。



 室内は居たって普通だった。普通の金持ちの家だった。

 ヨーロピアンな家具にちょっと心惹かれはしたが、すぐに室内に居た人物に目を奪われることになった。

 部屋の中央に居たのは、ネイビスだった。そして、そのネイビスの前に偉そうに座っているのは、ナイスなひげの生えたおっさんだった。

 身なりからして、領主かその縁者だろう。


 驚きの表情を浮かべるそのおっさんと、余裕の顔を見せるネイビス。

 あれー?これはマズイ現場に飛び込んじゃったぽいぞー。




サエは意外とうっかり屋なので、後の祭りとか、よくよく考えてみると別の選択肢があったとかの失敗をよくやらかします。

ギアは考えながら行動する派。でも段々考えるのが面倒になって結局行動のみになったりします。

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