タクトの報告
タクト視点です。
サエたちと別れて、俺たちは大通りを北上した。向かうのは、昨日の旧教会だ。
地道に聞き込みをすれば、何か情報を得られるかもしれない。望みは薄くても、やってみようと思っての行動だった。俺の独断だけど。
クラークはそういう情報収集とか得意ではないし、ギアは全く興味がないようだったから。
そういう理由で、俺を中心に教会周辺の聞き込みを行った。・・・やってたのは主に俺だけだったけど。
成果は芳しくなかった。一日経ってしまったこともあるが、そもそもその辺りを通る人自体が少なかったんだ。
昨日はジンの手勢が人払いしていたようだし・・・。俺の計画は、いきなり躓いてしまったことになる。
どうしようかと相談したけど、2人が有効な案を出してくれることもなくて、途方に暮れてしまった。
そこへ、彼女は現れた。初めて会った時と同じく、フードを目深に被ったその女性は、ネイビスと共に逃げた彼女だった。
「あ、あの・・」
「君は・・・」
なんて言って、お互い言葉に詰まってしまった。こんな所で会えるとは思っていなかったから、しばらく本題に入れなかったよ。
それでも混乱を抑えて、彼女の話を聞いた。
彼女の名前は、ユウ。ユウはネイビスの居場所と、今まで行ってきたことを教えてくれた。
ユウはネイビスに召喚された人間だった。アヤメと同じで、彼に召喚され、従ってきたと言っていた。
彼女の能力は、植物の成長を自在に操ること。それは例え枯れてしまった植物でも、有効らしい。まあ、あの時実際見せてもらったし、嘘じゃないことは分かっている。
でも信じられないことに、彼女はその能力を他人に譲渡できるらしいんだ。
『救世術』の正体は、それだ。
もちろん全て明け渡すことも、不特定多数に渡すことも出来ないそうだ。それでも一度に十数人に渡せると言っていた。それが、今まで『救世術』が広まらなかった原因だ。
広められない、と言った方が正しいかもしれない。ユウが居なかったら、誰にも使うことが出来ない術だから。
ネイビスは、彼女の能力を使って『救世の使者』を集めた。集めた彼らは、生きるために必死な貧困層の出だった。だから特に疑問を訴えることもなく、ネイビスの言葉に従ったらしい。
集められた内、ごく一握りを彼女の部下として、能力を渡しておく。残りの大多数を資金集めに使っていたそうだ。
ユウはそちらには関与していなかったらしいが、随分と悪どいやり方をしていたようだ。
彼らが集めた資金は、半分以上ネイビスの懐に入る。残ったものを彼らに配る。そうして私腹を肥やしていたらしい。ネイビスには後ろ盾もあって、そちらにも大分金は流れているみたいだと言っていた。
ネイビスの活動は、広まる一方だったらしい。その一部は、俺たちに関係している。
サエが攫われたあの事件がそうだ。
ネイビスは召喚された人間を集めていた。人間を召喚するのは大変な作業になる。確実に成功する、という保証もない。実際、ネイビス自身が召喚出来た人間は、アヤメとユウの2人だけらしい。
それ以外の人間は、余所から攫って来たんだ。自ら望んでやってきた者も居るらしいけど、ほとんどはわけも分からず連れて来られたんだそうだ。
連れて来られた彼らには、アヤメが言うことを聞かせていた。どうやってかは分からないが、彼らの性格は個性的らしいから、そこを利用したのかもしれない。
ユウは臆病な性格で、逆らうことが怖くて従っていただけだ、と言っていた。だから重要なことには、一切触れさせてもらえなかったらしい。
単純な作業の方が、何も考えなくていいって本人も言ってたよ。
要は、信用されてなかったんだな。だからこれ以上の詳しいことは分からなかった。
ただ自分たちの行いが、悪いことだとは分かっていたんだ。いつも罪悪感を感じていたらしい。それでも何もしてこなかったのは、怖かったからだと言っていた。
でもその恐怖も、アヤメが居なくなってからは、感じなくなっていたらしい。それどころではなかったんだって。
アヤメは実質的なネイビスの右腕だったのに、突然姿を見なくなったのだから、その穴を埋めるために四苦八苦する羽目になった、と言っていた。そして最近、情報収集の得意な仲間が「アヤメは元の世界に還ったらしい」と教えてくれたそうだ。
ユウは、もうずっと前から還りたかったらしい。でも、それは不可能だと教えられていたから諦めていた。
今でも、還れるものなら還りたいと思っているそうだ。そして、そのために動き出そうと決意した。
その一歩が、俺たちに情報を流すことだった。俺たちがネイビスたちを追っているのが分かったから。
『救世の使者』という組織が捕まれば、ユウもただでは済まない。それでも、組織に属している限り行動に自由はない。
アヤメが還った方法を捜すためにも、彼女は組織を抜けたかったんだ。
俺たちを利用して組織を瓦解させ、その隙に逃げるつもりなんだろう。こっちに筒抜けだったけど、本人は隠しているつもりみたいだった。
だから余計に、彼女の言葉は信じられた。
最後に、今居る所・・・出入りに制限が掛って、直ぐに帰らなければならないと言っていたが、その場所だけははっきり教えてくれた。
そこがさっき言った、領主の屋敷だ。
どうやら此処の領主は、ネイビスの後ろ盾の一人らしい。
そっちの情報は・・・、カーディナルに聞いた。
驚いたと思うけど、カーディナルは少し前から、この街に来ていたらしい。
え?知ってた?・・・そっか、会ってたなんて、カーディナルは何も言ってなかったけどな。
まあ良いや。とにかく、カーディナルに会って・・・会ったのは偶然なんだけど・・彼女に領主の話を聞いたんだ。
えーっと、ユイジィンは知らないよな。カーディナルっていうのは・・・、情報屋、みたいなことをやっている女性なんだ。
・・・・実は俺も、彼女の仕事の正確な名称とかは知らないんだ。ただ、「情報が命」って言ってた。事実、彼女の情報網は広大で、全貌が分からないくらいなんだ。
それに、彼女の情報に間違いはない。信頼できる情報を、格安で売ってくれることもある。
今回は無償で教えてくれた。
曰く、「あの娘の選んだ道を応援したいから」だって。誰のことなのかな?タイミングを考えると・・・・ユウ?
うーん、分からないけど、とりあえずカーディナルから聞いたことを教えるよ。
この領地は、領主の屋敷を中心に広がっている。領主の居るこの街が一番活気があって、大きい。此処から外側へ行くにつれて、田舎になっていくらしい。
で、問題は、その変化が急激だってことだ。領主は分かりやすいほど利己的で、自分の居るこの街を第一に考えているんだって。
だから、干ばつの対策や災害なんかの補修も、田舎の方はほとんど手つかずになっているらしい。そのせいで、遠くの村々の人たちは貧困にあえいでいるんだ。
『救世術』が流行るのも無理はないと思うよ。彼らは、今の生活を少しでも良くしようと、必死なんだ。そこに目を付けたネイビスが、領主に取り入った。
地方を見捨てることで、ネイビスの手勢は増える。手勢が増えれば、それだけ調達できる資金も増える。その金の一部を領主に渡すことで、自分たちを見逃してもらう。状況によっては、匿ってもらう。
そうやって、自分たちだけ良い思いをしようと持ち掛けたんだろう。
領主はそれに同意した。
領主自ら情報規制をしていたんだ。俺たちやジンが苦戦するのも分かるよ。
それに、カーディナルが言うには、今ネイビスの元に居る召喚された人間は、全部で5人らしい。その情報も貰えた。
一人はユウ。彼女は問題ないって話だ。植物を成長させる以外に何も出来ないから。性格も、攻撃的じゃなかったしな。
後一人、ケイっていう名前の男の子。この子が情報統制をしているらしい。情報収集・隠蔽をする能力があるって。ただ、頭の中を見れるわけじゃないから、思考を読まれたり、記憶を覗かれたりはしないらしい。
紙とかにメモしたら、そのメモの内容を読むことは出来るって話だ。
彼はこれ以外は何もしないらしい。情報収集も、ほとんど趣味、というか遊び感覚らしい。ネイビスの手勢の中では一番幼いらしいし、事の重大性もあまり分かっていないんじゃないかな。
更にケイに指示を出している男が居るらしい。
ケイとペアを組んで、その行動をコントロールしているようだ。名前は、シドウ。眼鏡を掛けた生真面目そうな青年らしい。
彼の情報はあまりない。でもケイと常に一緒に居るらしい。
此処からは、戦闘に関わる能力を持つ人間だ。
一人は、ザクロという女性。話を聞く限り、アヤメと似たような性格らしい。つまり悪事に対して躊躇がない。
それに、最近は少し荒れ気味らしい。能力は、速さに関係しているものらしいけど、流石に詳しいことまではカーディナルでも分からなかったって。
残りの一人は、ユキと呼ばれている男。この男のことはもっと分からない。カーディナルが言うには、上手くすれば闘わずに無力化出来るらしいけど、方法は教えてくれなかった。
能力も分からないのに、どうやってやれって言ってるのか・・・。たまにカーディナルは厳しいことを言うんだよな・・・・。
以上が、俺たちが聞いた話だ。
で、敵情視察ってことで見てきた領主邸の様子を教えるよ。
と言っても、大したことは分からなかったけどね。何と言っても、警備が厳重すぎる。領主の屋敷だからっていうのもあるだろうけど、何だか物々しすぎるっていうか・・。
警戒が強すぎるんだよな。ギアが侵入しようとして、すぐ見つかったから詳しく見れなかった。でも隙が限りなく少ないのは分かったよ。
あそこに本当にネイビスが居るなら・・・、容易くはいかないよ。
今回はタクトが話している内容を地の文としています。
なので聞いている皆の相槌や質問は全てカットしてあります。まあ、ほとんどタクトが喋りっぱなしなので問題ないです。
タクトお疲れ回でした。




