その時彼らは ~2人部屋~
9話での話。
タクト視点です。
目的の街に着いて、早速『救世術』の手掛かりを見つけた。幸先の良いことに、協力者まで得られたことで、俺はとても気分が良かった。
ちょっと古い宿屋の一室。そこに俺とユイジィンは居た。ベッド2つで部屋の半分以上が占められてしまうほど小さいけど、居心地は悪くない。
そこで俺たちは今後の予定について相談していた。
と、廊下がギシギシと鳴る。誰か歩いているらしい。俺たちの部屋は階段の手前にある。階下に行くにはどうしても前を通らなくてはいけないのだ。
だから音がすること自体は特に気にならなかった。でも、その音が部屋の前で止まる。
誰か用でもあるのだろうか?
そう思ったのは俺だけじゃなかった。扉に近かったユイジィンが、立ち上がる。戸を引いて外を確認している。
部屋の入り口は狭い。俺の位置からでは誰が来たのか見えなかった。
「・・・お前は何て格好で出歩いているんだ!?せめて何か羽織れ!でなければ、今すぐ部屋に戻れ!」
聞こえた怒声に、俺の方がびっくりしてしまった。いつものユイジィンとは違う乱暴な言葉遣いに、慌てて声を掛ける。
「ど、どうした、ユイジィン?」
誰が来たのか、ユイジィンの肩越しに確認する。
サエだ。俺たちと旅する女の子。で、・・・・何で寝間着姿で居るんだろう?!
考える先に体が勝手に動いた。さっと首を引っ込めて、彷徨う視線を何とか落ち着かせようとする。
落ち着け、落ち着け、ちょっと薄くてちょっと体の線が見える服を着ているだけじゃないか、うん、落ち着け・・・。
俺の目が椅子に掛けたコートを見つける。深く考えたわけではない。でも気が付くとそのコートを引っ掴んでサエに被せていた。
小柄な彼女がコートの下に隠れて、ようやく気持ちが落ち着きを見せ始めた。
前にもこんな風に彼女の寝間着姿に慌てた気がする。そう思った途端、さっきの姿が脳裏に甦る。一瞬だったのになんでこんなに鮮明に覚えてるんだよ!?と頭を抱えたくなった。
「えっと・・・ごめん?」
サエの謝罪の言葉だ。あまり悪いとは思っていないようだが、一応俺たちの反応の原因には思い至ったらしい。被せたコートで体を隠している。
気持ちが落ち着いた俺とユイジィンはサエの話を聞いた。どうやら身分の高い人と同室で不安らしい。分からないでもない。けど、部屋数の都合上サエには我慢してもらうしかない。
本人も同じ結論に達したのか、食い下がったりはしなかった。それでも心配だったから、安心できるよう、俺は出来る限りの言葉を掛けた。
それで安心できたかどうかは分からないけど、サエはさっきより穏やかな表情になっていた。頭を下げて部屋に戻るサエを見送る。
彼女がちゃんと部屋に戻ったのを見届けてから、俺たちも部屋に入る。
「・・・しかし、彼女は前からああなのか?」
「?「ああ」って?」
「恥じらいもなくあのような格好で男の部屋を訪ねるのか、ということだ」
「いや、そんなことはないけど・・・」
「全く・・・。もう少し周囲への気配りをしてもらいたいものだな」
ユイジィンが苦々しい顔で言う。今までこういうことがなかったから、戸惑っているのもあると思う。が、大部分は怒りのようだ。
ユイジィンはとても真面目な性格をしている。だからサエの行動にあんなに怒ったのだろう。今もまだ少し苛立っているようだ。
でも多分サエは、不安のあまり格好に気を使う余裕さえなく部屋を出て来ただけなのだと思う。集中すると周りが見えなくなるタイプなのだろう。それに、自分のことには無頓着なところがあるから。
俺が女の子だからと気を使っても、大概気付かれずに終わることも少なくないのだ。彼女らしいけど、俺としては気が気じゃない時もあったりするから、少しは気にしてほしいって思わなくもない。
まあともかく、ユイジィンの主張は俺も大いに同意したいと思った。
続いてユイジィンが口を開く。
「まあ、常識云々を言い出したら、彼女よりもあいつの方がもっとタチが悪いがな」
ユイジィンの言う「あいつ」とは、ギアのことだ。ギアは、良く言えば自由で、悪く言えば自分勝手なところがある。そこがユイジィンには気に入らないのだ。
単純な捉え方の違いだと思うんだけど、ユイジィンにはギアの考え方が理解できないらしい。ギアはそもそも他人の考えなんて気にしないから、お互いすれ違う一方なのだ。
と言っても、俺もギアの考えが全て分かるわけではない。どういう意図で発しているのか分からない発言が多々あるし、理解できているとはとても言えない。
ただ俺は、それがギアの個性だと考えている。ユイジィンは根が真面目だから、相手の全てを理解しようとしてしまうのだ。そんなに気負わなくても良いと思うのだが、なかなか口に出して言えない。
ギアに対しては、ユイジィンは頑張っている方だと思う。我慢してる、とも言うけど。小言は言えども見捨てたりはしないし。
本人がそれを望んでいるんだし、もうしばらくは何も言わずに彼に手を貸そうと思っている。
間に俺かサエが入れば、2人一緒でも大きな問題は起こったりしない。そうやって少しずつ2人の距離を縮めることが出来るかもしれない。
問題はギアの方だけど・・・、多分大丈夫だろう。だってユイジィンはこんなに頑張っているんだから。
まあ、不満は溜まっているだろうから、今日はユイジィンの愚痴でも聞こうかな。
そう思ったのが運の尽きだった。
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「・・・それで、あいつは何をしたと思う?あろうことか私の皿から直接持って行ったのだぞ!有り得ない!君もそう思うだろう?!」
「あ、ああ、そうだな・・」
それとなく話題を振って、溜まった鬱憤を吐き出してもらう。そのつもりで聞き出したのだが、打ち切りたくなってきた。
自分からそういう流れにしたのだから、自分勝手だと言われても仕方のないことだけど、さすがにこっちが疲れてきた。
ユイジィンが愚痴を話し出して、もうかなりの時間が経っている。
延々と語られるのは、ギアの無神経っぷりに憤る気持ちだ。その中に時々理解しようと試みる試行錯誤の様子が覗くが、すぐに怒りに変わってしまう。どうやら相当に溜まっていたようだ。
しかも同じような話でありながら、全て場面が違う。状況自体は似たり寄ったりなのだが、彼の中では一つ一つ違うものとして扱われているらしい。
ギアの行動一つ一つに苦言を呈し始めた時は、「やってしまった」と思わず後悔してしまった。これは長くなるぞと思ったのだ。実際、とても長くて未だに終わりが見えない。
集中力はかなりある方だと自負していたが、認識を改めなくてはいけないかもしれない。
ちゃんと聞いていないと、と思えば思うほど意識が余所へ行きそうになる。
「隣の部屋は静かだな」とか、「でもその向こうはどたばたと煩いぞ」とか、関係ないことを考えているせいで、返事も御座なりになる。
そのたびに、「聞いているのか?!」と図ったかのようなタイミングで言われるので、嫌でも意識を戻さなくてはならない。
一体いつになったら眠れるかな・・・。
まだまだ愚痴を言うユイジィンに気付かれないように、そっと溜息を吐いた。
タクトは、貧乏くじを高確率で引き当てます。
ユイジィンは、自分で気付かないうちにいろいろ溜めこんでしまうので、ガス抜きする時に多大な犠牲者が出ます。
今回はタクト。『楽園』では同僚が被害に遭っていました。




