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思わぬ再会 2


 ジン。

 かつて誘拐された私を、更に誘拐した男。クラークと戦って、傷を負って逃げたんだったっけ。あの時のことを思い出す。そしてあることを思った。

 クラークが魔族で、かなりの戦闘能力を持っていることを知った今、余計にその考えが頭に浮かんでしまう。

 クラークと対等に戦ったジンは異常だ、ということが。


 そんな異常な戦闘能力を持つジンと、街中でばったり出くわしてしまった。

 タクトは彼と直接会っていない。だからか、緊張する私とクラークを見て首を傾げるだけだ。あの時の私たちが、その存在すら知らなかったギアとユイジィンに至っては、再び昼食のことで口論を始めていた。

 バラバラだなぁ・・・。今更だけど。



 空気読まない2人のおかげで、気持ちが落ち着いた。

 ジンの方も立て直したのか、表面上は冷静になっていた。そして、もう一度さっきの質問を繰り返す。


「何でお前らがこの街にいる?」

「・・・・」


 いやクラークさん、貴方まで同じ返しをしなくて良いんですよ?

 ちゃんと答えるとは思っていなかったけど。予想通り過ぎて呆れてしまう。正面のジンも呆れたような顔である。

 そう言えば、短い間とは言え彼もクラークと会話を試みようとしたこともあったな。成功はしなかったけど。

 クラーク相手に、会話のキャッチボールは期待するだけ無駄だ。私の考えではあるが、ジンもそう思ったのか、特に返事を促しはしなかった。


「まあ良いさ。俺たちの邪魔さえしなければ、な」

「邪魔?」

「余計なことはするなってことだ」


 詳しいことも知らないのに、邪魔するなとか余計なことするなとか言われても・・・。どうにもしようがないから気にしなくても良いかな。

 思ったことを口にする前にジンが背を向ける。もう行くらしい。引き留める必要もないのだから、見送る。が、すぐにあることに気付いて呼び止める。


「ジン!」

「・・何だよ?」


 迷惑そうに振り返る。それでも私の話を聞いてくれるらしい。律義な性格なのだろうか。律義なジンは想像できないけど。

 何にしても、聞いてくれるのは有難ありがたい。彼の気が変わらないうちに用事を済ませてしまおう。

 そう、ここで再会したのも何かのえん。彼に『救世術』のことを訊いてみよう。

 知らないなら知らないで良いし、何か聞けたらラッキーだ。


「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

「・・・・何だ」

「『救世術』って知ってる?」

「!!」


 過剰なまでの反応に驚く。しかしジンの方がもっと驚いたようだ。私たちと遭遇そうぐうした時よりも大きな驚き具合である。

 予想外、完全に思考の範疇外はんちゅうがいだった。驚きのあまり私は硬直してしまった。でも、ジンの驚きは一瞬だった。驚き顔が、すぐにけわしい顔に変わる。少し開いていた距離が縮められる。

 鬼気迫る。そんな様子のジンに、恐怖を感じた。一気に緊張感が戻ってくる。迫ってくるジンと私の間に入ったクラークも、警戒をあらわにしている。

 ぴりぴりした空気が流れた。


「お前、それを何処どこで知った?」

「それって・・、『救世術』のこと?」


 にらまれている。ジンの瞳が怖くて、クラークの背中に隠れる。親に助けを求める子供のようだな、とか思ったけど、すぐに思考を戻す。

 どうやらジンは『救世術』のことを知っているらしい。まさか、彼は『救世術』を使う者の仲間とかなのだろうか?


 タクトも同じ考えに至ったようだ。私の隣に並んだタクトの表情も堅い。

 お互い武器を持っているわけではないが、かなり危険な空気だ。見えないが、ギアとユイジィンもこちらに注目しているようである。私たちの後ろに居る気配がある。



 暫し睨み合いが続く。

 そこでふと思った。ひょっとして彼も、私たちと同じことを思っているのではないのだろうか、と。

 私たちが『救世術』と繋がっている。そう考えて警戒しているなら、彼も私たちと同じものを追っていることになる。

 そう考えると、彼の様子も、探し求めた手掛かりを見つけたゆえのものであると見えなくもない。


 違う可能性も、もちろんあるが・・・、このまま睨み合っていても何も進まない。とにかく彼の目的を明確にするべきだろう。

 私がその考えに到達する頃には、ジンも同じような結論を出したようだ。



 とりあえず臨戦態勢を解いた私たちは、先程ジンが出てきた酒場へと場所を移した。

 さすがにあのまま路上で話して良い内容ではない。何処で関係者が聞いているとも分からない。

 と言うか、私も迂闊うかつだった。『救世術』がどれだけ普及しているのかは分からないが、往来おうらいで口にするのは避けるべきだったのだ。

 何か、仲間内だけで伝わる言葉に変えた方が良いだろう。


 今後の課題を頭に書きこんでから、店の中を見回す。

 酒場の中はやはり誰も居なかった。厨房には仕込みをしている従業員が居るようだが、その人たちはジンの仲間であるらしい。

 あの時もそうだったし、ジンの仲間はごく自然に、街のあちこちに潜んでいるのだろう。それとも、街の住人を仲間に引き込んでいるのだろうか。

 まあどっちでも良いのだが。とにかく、この酒場でなら『救世術』の話をしても問題ないらしい。



 丸いテーブルを囲って時計回りに、私・ユイジィン・ジン・タクトの順で座っている。4人しか座っていないけど、ユイジィンとタクトは私寄りに座った。そして、ちょうど私の正面にジンが居る。

 元々6人くらい座れるテーブルだから、いやにジンの周りが空いているように見える。まるで私たちとジンが敵対しているみたいだ。

 いや、まだ敵かどうかは定まっていないのだけれど。いつ敵対しても大丈夫って感じだ。


 席に着いていないクラークは、例の如く立ちっぱなしだ。位置は、私とタクトの間である。少し離れているとは言え、これは護ってくれていると思って良いのだろうか。

 彼の運動能力なら、確かにこんな距離有ってなきがごとしだろう。ちょっと安心である。左隣りはユイジィンだし、これなら例えジンが襲い掛かってきても何とかなるだろう。


 クラークと同じく、席に着いていないギアは、ジンの背後にあるカウンターに腰かけていた。

 間違いがないように言うなら、カウンターに備え付けられた椅子ではなく、カウンターの上に尻を乗っけている。

 彼の中には、椅子に座るという単語が存在しないのだろうか?そして、勝手に店のお酒を、ボトルで一気飲みとかしているが、あれは良いのだろうか・・・。

 いや駄目なのだろうが、怒るのは別の人にお任せしたい。逆ギレとかされたら困るし。


 見なかったことにして、正面のジンに目を向ける。ジンも私を真っ直ぐに見返す。お互い準備は良いようだ。

 いつもならこういうのは、タクトが話をしてくれる。でも今は位置的に私が話さなければいけないような気がする。

 いつまで経ってもタクトに頼りっぱなしって言うのも駄目だろうし、ここは頑張ってみよう。

 さて、まずは何から訊いたら良いものか・・・。


「早速で悪いが『救世術』について、知っていることを全て話してもらおうか」


 先手を取られてた。

 別に先手を取られたからって、何が変わるわけではないが。そんなことより、質問内容である。

 知っていること。そんなに多くはないが、話すとなると神様のこととか世界のことに触れずにはいられないだろう。と言うか、メインであるその部分を抜かすと、残りは「『救世術』という便利な術の噂を聞いた」しか言えることがないのだが。


 とりあえずその部分だけ教えた。

 ちらりとユイジィンをうかがう。表情に変化はないし、多分大丈夫だろう。うっかり神様に触れでもしたら、ユイジィンに怒られそうだからね。・・・怒られるだけでなく、殺気とか向けられそうでもあるけど。殺されるなんて冗談ではない。

 言葉は慎重に選ばなくては。


 次いでタクトを見る。タクトは「大丈夫」って言う風に頷いてくれた。

 どうやら間違ってはいないらしい。おー、良かった。

 ジンはまだ疑いの目をしていたが、私の言葉を否定したりはしなかった。


「ジンは、何を知っているの?」

「・・・別に。噂になっていることぐらいだ。お前らと一緒だ」


 嘘だ。これは明らかに嘘である。私たちが信じていないのは、ジンも分かっている。分かっていて言ったのだ。多分、「詳しくは話さない」という意思表示だろう。

 でもそれでは困るのだ。折角具体的なことが聞けそうな相手と出会えたのだから、何とかして情報を引き出したい。


 では、どうすれば良いか。

 こういう場では、こちらが黙っていても情報は手に入らない。喋らせたかったら、こちらも喋るしかない。

 問題は何処から何処までを話し、何処からを秘密にするか、である。



 一番話してはいけないことは?

 世界うんぬん々のことだろうか。これを話して良いのなら、始めから事実を公表すれば良いのだから、これは秘密にするべきだということだ。

 後は、神様のこと。これも話せない。話せば世界の話もしなくてはいけないし、依頼主とは言え、『救世術』に直接関与しているわけではない。

 そもそも、これらのことをちゃんと説明できる自信がない。そういう意味では、秘密というより話したくないと言った方が正しい。


 では話して良いのは・・・となると、さっきの部分に戻ってしまう。こうなったら、世界とか神様とかはぼかして、こちらの目的だけ伝えてみようかな。

 こっそりユイジィンとタクトを見る。2人とも私に任せているのか、口を開く様子がない。相談したいが、目の前にジンが居るとそれもしづらい。

 充分に考えたいが、あまり黙っているとこの場自体がお開きになりそうだ。仕方ない。失敗しちゃったらごめんなさい。


「えっと、私たちが『救世術』について調べているのは、とある噂を聞いたからなんだよ」

「噂、ね。それは?」

「ええっと、『救世術』を使いすぎると・・・・・、良くないことが起こる!的な・・・」

「・・・へぇ」


 失敗しました。ていうかさ、噂レベルの話ってことにするなら、多少大きなこと言っても大丈夫だったかも。それこそ、「『救世術』を使うと世界が滅びるらしいよ!」ぐらい言っても何とかなりそうな気がする。

 失敗したー。ユイジィンもさー、やれやれって顔しないでよ。傷付くよ。へこみそうだ。


 撃沈げきちんした私は、ジンの顔がまともに見れなかった。

 呆れてるだろうなぁ。そりゃそうだ。小学生みたいなこと言ったからね、私。

 ひきこもりたい。今猛烈もうれつにひきこもりたい。「話しかけないでください、傷口が広がるんで・・」って感じだ。


「・・・まあ、お前らみたいなのが調べられる範囲なんて、せいぜい噂レベルだろうな」

「・・う?」

「何が力になるか分からないしな」

「??」


 突然何を言い出したのだろうか。呟き・・ではない。確かに私たちに向けて言っている。そう思う。

 しかし、この言い方では都合の良いように解釈してしまいそうになるんだけど。

 期待を持たせおいて・・・とかだったら、怒ってやろう。勝手に勘違いして、逆ギレするとかやられる方は堪ったものじゃないだろう。私はやる方だから気にしないけど。


「俺の知っていることを教えてやる。但し、一つ条件がある」

「じょ、条件?」

「そうだ。お前たちは『救世術』に関わってどうするつもりなんだ?」

「どうするって・・・」


 タクトに助けを求める。タクトは、一瞬迷ったように視線を動かしたが、すぐに頷いた。次いでユイジィンへと目を動かす。彼も、小さく頷いた。

 なんとなく、ジンの向こうでだらけているギアに目を向けて、最後にクラークを振り返る。

 クラークはいつも変わらない。無表情・無反応。でも、意見があったら何かアクションを起こす人だ。きっと皆と同意見なのだろう。

 前へ向き直る。


「私たちは、『救世術』を使わせたくないの。だから、『救世術』を広めている人を見つけたい」


 正直は美徳である。私はそう思う。

 何も考えずに、何でも言えるような関係が一番望ましいよ。・・頭は馬鹿になりそうだけど。

 どうでもいい思考を流しつつ、ジンの言葉を待つ。

 私は正直に言ったよ。さてさて、彼の望む答えだったろうか。表情からは読み取れないけど、後悔はしていない。

 まあ、皆が良いって言ったんだからって言い訳が成り立つしね。さっきよりは気楽だ。一人じゃないって最高だ。


 だらだらと浮かぶ思考は、動揺を抑えるため。大丈夫って言い聞かせるため。

 きっと大丈夫。そう思った時、ジンの表情が動いた。口角がゆっくり上がり、不敵な笑みが現れた。




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