次なる舞台へ 2
『扉』って、全部こういう仕様なんだろうか。再び見ることなった地味な『扉』を前に、そんなことを思う。
案内されたのは、魔王城の庭先だった。緑の木立に隠れるようにそれはあった。
この『扉』は、木目が鮮やかだ。でも庭先にあるにも関わらず、何故かただの木戸だとは思えなかった。
存在感があるような、でも気を付けていないと目にも止まらないような、そんな感じである。
まあ、世界と世界を繋ぐのだ。不思議な感じがするのは当然だろう。
「こちらが『楽園』への『扉』です」
「あれ?」
『楽園』?私たちは天界へ行くんじゃなかったっけ?
疑問を感じたのは私だけじゃない。タクトもきょとんとした顔をしていた。
私たちの様子を見て、レオンハルトが説明を加えてくれる。
「天族は我々魔族に対しても、直接の繋がりを持ちたがりません。『扉』も、天界に繋がるものはあちらが管理されているので、使えません」
「じゃあ、どうするんだ?『楽園』っていうのは、天界じゃないんだろ?」
「ええ。『楽園』は、アディア三界の何処にも属していない空間の一つです。世界という単位を持たないのです。その性質上、誰でも出入りが可能で、且つ、どの世界へも行くことが出来るのです」
「つまりそこから天界に入るってことか」
「そうですね。正確には、『楽園』と天界の境界にて天界訪問の許可を貰う、ということです。地界・魔界、双方に対して『扉』を閉じている状態の天界と交流できるのは、『楽園』しかありません」
引きこもりの唯一の窓口が『楽園』だということらしい。
『楽園』。言葉の響き通りだったら、とっても良い所だろうな。
いや、こういうのは案外予想を裏切るほど荒れ果てた所だったり、何もない所だったりするものだ。あるいは変な人がいるとか。
想像しようと思えば、幾らでもできてしまいそうだ。
「訪問の許可って、どうやって?」
「特別なことは何もありません。『楽園』の中には天族が常駐する施設があります。そこで申請するだけです」
うーん、本当に簡単そうだ。でも、本当にそんなに上手くいくんだろうか?
と言うか引きこもっている割に、そういった外部に対する仕組みがちゃんとあることがびっくり何だが。
いやむしろ、対外的な対策がしっかり為されているからこそ、引きこもっていられるのかも。
まあ特別なことは何もいらないってことだし、心配することもないか。
楽観的な結論だけど、それでこそ私である。
そもそも考えるまでもなく、道はそれしかないのだ。なら、深く考え過ぎて頭を痛める必要もないだろう。
改めて『扉』を見る。他の皆も、黙って『扉』の前に集まる。そろそろ行くのだ。自然と気持ちが引き締まる。
『扉』を潜るのは2度目だが、今回はいきなり襲われないと良いな。
いや、あれは特殊だろう。そうじゃなきゃ、この先『扉』を潜るたびに戦々恐々しなければならなくなる。・・・また『扉』を潜るかどうかは分からないけど。
「俺、一番~!」
ギアが『扉』を開け放って、向こう側へ。
「じゃあ、次は俺で」
ちょっぴり腰が引けた様子で、タクトも『扉』の向こうへ行く。
「サエ、また来てね。その時は、もっといろいろな話をしましょう」
「は、はい。それでは・・・」
手を振るサラサさんと、静かに控えていたレオンハルトに軽く頭を下げて、『扉』に向き直る。
向こう側は、こちら側と同じく緑に包まれている。森の中なのだろうか。危険は無さそうだし、先に行ったタクトとギアも見えている。
怖くない、怖くない。
そう言い聞かせて、『扉』を通る。
初めての時は、屋内から外へ出たから違いがすぐ分かったが、今回は特に空気が変わった様子もなく、一瞬本当に移動したのか分からなかった。
あの時のように振り返る。
私のすぐ後にはクラークが居るはずだったが、彼はまだ向こう側に居た。
サラサさんと何か話している。と言うか、一方的に何か言われているようだ。微妙に困った顔である。サラサさんの前だと、表情豊かになるのかもしれない。主に困ったり呆れたりが多いようだけど。
姉弟だからなぁ。うん、新鮮で良し!って感じ。
とかなんとか思ってたら、話が終わったようだ。クラークもこちらに来る。サラサさんたちがこっちを見てるのに、振り返りもしないで『扉』を閉めてしまった。
良いのかな?サラサさん、手振ってたのに。後が怖そうな気がする。
でも今更どうしようもない。『扉』のあった場所はもう何もないんだから。
「さて、行こうか」
タクトの一声で、私たちは森の中を歩きだした。
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私が預かり知らない、真っ白な空間に『黒』と『緑』が居た。
「ねえ、良かったの?」
「何がだ?」
小さく首を傾げる『緑』に、『黒』は素っ気ない声音で応じた。
「会合のことよ。『紫』は見つからないけど、他は全員連絡できるのだから、開くことは可能よ」
「『紫』に関与することだ。本人が居ないのでは意味がない」
「・・・・そうかもしれないわね。じゃあ、あの子のことは良いの?本人は全く身に覚えはないようだったけど、『紫』の力は未だに留まっているわ」
「・・・・」
ついさっき出会った者について、懸念を抱く『緑』。しかし『黒』は反応を示さなかった。何もない空間をただ見つめている。
「危険ではないのかしら?私たちはともかく、あの子自身や彼らは、影響を受けるかもしれないわよ」
「分かっている。手は打ってある。・・・いや、保険は掛けておいた、と言うべきだな」
「保険?」
「あの者が少しでもおかしな真似をするようなら、首を刎ねよと命じておいた」
あくまで淡々と『黒』は言う。その内容に『緑』が眉を顰めても、顔色一つ変えない。
「それは・・」
「何もしなければ良いだけだ。あの娘が害を為さねば、あれも何もしない」
それ以上話すことはない。そう言うかのように、一層別な方向を見つめている。
そんな『黒』に、諦めたような溜息を吐いて、『緑』は姿を消した。
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短くてすみません。
次回は番外編を予定しています。




