ギア的考え 1
ギア視点です。そしてとっても短い。
女が倒れた。その体が床に落ちる前に、『黒』が支えたけど。
いきなり倒れるなんて、人間はやっぱり貧弱だ。それとも、すごく眠かっただけだろうか?
どっちでもいい。それにしても、つまらないな。
倒れた女を囲んで、『黒』と案内人と、人間の男が何か話している。
暇だな。
見るともなしに『魔王』を眺める。いつ見ても不思議な物体だ。何でこんなものが上司なのか。強そうには見えない。全然見えない。でも、何処か従わなきゃいけないような気にさせるのだ。
いつだったか、上から目線がムカついて斬りかかったことがあった。その時は、目が潰れそうなほどの光と同時に、体がバラバラになったみたいな衝撃を受けた。気が付いたらベッドの上で、案内人にこっぴどく怒られたっけ。
しかもあの人、怪我人にも容赦なくて、「動けないのでしたらちょうど良いです。反省文、書きましょうか」とか言って、食事と睡眠以外はひたすら文字を書かされた。
・・・・何を書いたのかは、もう覚えてないけど。
ああ、暇だな。そもそも、戦士である俺が、何でこんな所にぼんやり立ってないといけないんだ?戦士なんだから、戦いが本分だろ。
しかし魔物退治も飽きたしなぁ。魔物ってすげぇ弱いし。
つまらない・・・。
「ふあ・・・」
おっと、思わず欠伸が出ちまった。案内人に怒られる。あの人、いろいろうるさいから。特に俺は、何でだかよく小言を言われるんだよな。何がそんなに気に入らないんだろうか。
絶対怒られる。そう思ったのに、何も言われなかった。俺の方を見てもいない。まさか存在を忘れたわけではないだろう。あの人がそんなアホみたいな真似、するわけない。でも見てないなら、この紙処分してもバレないな。
持ってた紙を柱の陰に隠す。これで良し。
他の奴らを窺う。見られてないよな・・?
全員、倒れた女に群がったままだ。どうやら、何で倒れたのか分からないらしい。もう適当に、そこら辺に転がしておけばいいんじゃないか?多分すぐ起きるだろ。知らないけど。
俺の考えとは裏腹に、『黒』が女を抱え上げた。何処かに連れていくらしい。
俺の知る『黒』に似合わない行動だ。俺が唯一、背中を預けてもいいと思ったあいつには。
でも、それは再会した時にとっくに気付いていた。あいつは変わった。だって、前のあいつだったら、あの女を助けたりしない。俺が挨拶代わりに襲いかかっても、防御に徹したりしない。戦いたがる俺に、言葉で反対することなんて、前は一回もしなかった。
前のあいつは、無口で、何を考えているのか分からなくて、他人なんかどうでもよくて、そして言うより先に手が出る奴だった。
再会の時、前の『黒』だったら、まず女は見殺しにして俺の隙を突こうとするだろう。でもそれをしなかった。見捨てず、護った。
別にそれが悪いとは言わない。だってそれは個人の自由だから。
俺だって、自分のすることを否定されれば、それなりに不機嫌にもなるのだ。あいつが変わったことに文句を言っても仕方ない。変わってしまったものはどうしようもない。
どうしようもないが・・・、気になることがある。だから、一緒に行こうとしているんだけど、でも、今ちょっと確認しても罰は当たらないよな。
女が倒れて、ちょうどいいし。
「なあ」
「・・・・」
女を抱える『黒』の前に立つ。感情の見えない目がこっちを向く。
こういうところは変わってない。でも、重要なのはそこではない。俺にとって大切なのは・・・。
「殺し合い、しようぜ」
「・・・・」
「ギア、今はそれどころではないです。退いて下さい」
横から案内人が口を挟む。俺がその程度で退くなんて、そんなことないだろ。
俺の相棒、紅い槍『ゲイルアート』を召喚する。それを『黒』へと向ける。
「ギア」
「やだね。俺は、今、こいつと戦いたい」
『黒』から目を離さずに、答える。まあ、無視しても良かったんだけどな。後で煩そうだし、答えておいた方がいいだろうってだけだ。
俺の本気が分かったのか、『黒』が無言で腕の中の女を、そばに居た人間の男に押し付ける。
それでいいんだ。俺は、お前の力を確かめたいんだから。
合図もなく、前振りもなしで斬りかかる。そんな俺を、手にした黒い剣(確か『エクスウェイブ』とか言う魔剣だ)で受け流す。
視界の隅で、案内人が何か言っていたがもう答えない。今この場には、俺とこいつしかいない。それぐらい集中しているのだ。
今度は本気だ。俺を失望させるなよ?
短くてすみません。
ここで切るのが一番いいかなと思ったので・・・。
次回もギア視点です。今回よりは長くなる、予定です。




