魔都、そして魔王 3
魔王ってさ、なんだか黒いイメージがあるよね。
いや、他の人がどういうイメージを持っているのかは分からないんだけどね。
とにかく私は、とにかく黒いってイメージがあった。・・・クラークも黒いけど、彼は何故だか魔王って感じはしないんだよね。
これでもかっていうくらい黒いけど。
そんなことより、魔王である。この世界の魔王も、やっぱり黒かった。黒いけど・・・、なんか違う。
だって丸いもん。球体だもん。人の形してないし。
謁見の間に設置された祭壇のような台座。その上に『魔王』は鎮座していた。
真っ黒い球。そして、その周りを黒い光が輪を描いている。
『有限会社 魔界』のロゴマークが思い出される。というか、十中八九魔王の姿をそのままロゴマークにしたのだろう。
安直な・・・、そう思ってしまったのは秘密だ。まあ、象徴としては分かりやすいからそういう意味では良いのだろうが。
と言うか、球体って・・・。なんかテンションがあっという間に下がった。自覚できるくらい一気に。
これなら、「実はクラークが魔王でした」って言われた方が良かった。
いや、それはそれで何か違うって思うけど。
この場で唯一の人間であるタクトを見てみる。ひょっとしたら、これがこの世界の普通なのかもしれない。そう思ったのだ。
「・・・・・」
普通にびっくりしてた。
そうだよね。それが当たり前の反応だよね。
「おう、魔王ちょっと良いか?」
球体魔王に戸惑う私やタクトと違って、ギアはいつも通りに声を掛けている。と言うか、さすがに不敬な態度じゃないか?仮にも王に対してそれはないだろう。
そして、この球体は喋るのか?当然のように声を掛けているけど。
『ギアか。何用だ』
喋ったね、当然のように。
いや、予想通りだよ。なんか喋りそうだなぁって思ってた。口なんてもの、見当たらないけど。
耳が音を拾っているのだから、何処かしらから声を発しているはずだ。けど、スピーカー越しに聞いているような聞こえ方だ。
しかしこの声、不思議な響きだ。男のような、女のような・・・どっちつかずな声である。それに、合成音声みたいにちょっと滑らかさに欠ける。
感情がこもってないとも言える。今まで聞いたことのない類の声質である。
『そうか、其の者が此処まで来たのか』
見た目通り、感情の読めない声は、ギアが何か言う前に、再び響いた。
意味が分からないことを呟いている。・・・多分、呟いている。さっきと音量が変わっていないので、呟くと言うより「独白した」の方が正しいかもしれない。
とにかく何か言っていたのだ。
「魔王様、御忙しい所、申し訳御座いません。少々宜しいでしょうか」
魔王の独り言には触れずに、レオンハルトが臣下の礼をとる。
それを見て、「こういうの似合うな、この人」と、今更ながら思ってみた。今の状況には全く関係ないけど。
『うむ、申せ』
球体が言う。別に動いたわけではないのだが、頷いたように見えた。
何処が首で、何処が顔なのか。考えるだけ無駄なのは分かるが、目の錯覚につい首を傾げてしまう。球体で、声には感情がなくて、でもちょっとした仕草があるような気がしてしまうのだ。
そういう点だけは、この球体が生きているように感じられる部分だ。
死んではいないだろうが、生きているという表現も何か違う気がする。
球体だし。
「はい。実はこの者たち、特に『黒』に付いて行きたいと、ギアが言っておりまして。役柄上簡単に許可できなく、魔王様の御考えを拝したく来ました」
頭を下げたままなのに、澱みなく答えるレオンハルト。
これで球体相手じゃなければ、私もそれなりに緊張して見てられただろうな・・・。今は無理だ。まだ魔王=球体のショックが残っている。
『・・・・』
しかも魔王黙っちゃったよ。そんなに難しいことなのかな?もしかして・・・、ギアは実はかなり上の立場の人だった、とか。
有り得そうだけど・・・。と言うか魔王に直接窺わなきゃいけないぐらいだから、それなりの立場なのだろう。でも、だったらばっさり断っちゃって良いんだけどなぁ。
むしろ「駄目だ」って、はっきり言ってやってほしい。そうしたら、ギアも諦めるだろう。
いや、別にギアが付いて来ることが嫌なわけではないのだけど。でも、なんか余計なトラブルとか諍いとか、起こしそうだからな。
出来れば遠慮してほしい。そう思う。
『汝の目的は何だ』
黙っていた魔王が急に言葉を発した。しかも、レオンハルトをすっ飛ばして直接こちらに話し掛けてきた。
どう答えたら良いのだろうか?
事情を他人に説明するって言うのは、難しい。少なくとも私は、「説明する」という行為が苦手だ。
破滅的に下手くそなのだ。いつも、自分が思ったように伝えられない。全く違う意味に取られることすらあるくらいだ。
もちろん、意味自体はちゃんと伝わることも多い。しかし、それが私の伝えたかったことかと言われると、微妙に違うのである。
ニュアンスの違い、と言うべきか。あるいは感性の違いである。
だから、私は人に説明するのが苦手なのだ。間違って取られることが嫌、なのである。もっと言ってしまえば、怖いのだ。勘違いからくる認識の差が、時に酷い誤解を生みかねないから。
・・・別に、関係修復が不可能なほどの誤解を受けたことは、かつて一度もないのだけれど。
しかし、人は経験したことより、未知なものに怯える生き物だ。私はそう感じる。だって私自身がそうだから。
で、何が言いたいかと言うと・・・、つまり、「私は誤解が怖いから説明したくない。だから、誰か代わりに説明してくれ」ということだ。
まあこの場合、説明役は言わずもがなである。
クラークは口を開くことすら稀な生物だから。
「俺たちの、目的・・・ですか。えっと・・・」
ごめん、タクト。嫌なことを押しつけて。
後で謝っておこう。そして、出来るだけの恩返しをしよう。そう心に誓った。
でも私が言うのもなんだけど、タクトも説明上手ではないと思うんだよね。上手く私たちの現状を伝えられるように祈っておこう。
『そなたではない。クラークよ。何故此の地を去り、そして、何故舞い戻ってきた。答えよ』
タクトの努力を一蹴して、魔王はクラークに声を向けた。クラーク自身は・・・、何も答える気がないみたいだ。
口を開こうとすらしていない。
でも、クラークが魔界を出た理由、か・・・。考えたことなかったけど、言われてみると、ちょっと気になる。
クラークが魔界を出てこなかったら、私は彼と出会うことすらなかったんだし。そういう、ちょっとした偶然の積み重ねで私たちはここに居るんだなぁって、思える。
その訳のない不思議が、何だか胸にぐっときた。
本当に訳が分からないけど。
「なあなあ、そんなことより、俺の話はどうなったんだよ。俺、仕事辞めて良いだろ?『黒』と行って良いよな?」
皆がクラークの返答を待つ中、ギアが声を上げた。手にした紙の束を、意味なく上下に振っている。
バサバサと煩い。でも振っている本人は気にしていない。手持無沙汰なのは分かるが、もう少し静かにしていてほしいと思うのは、私の我儘だろうか。
「・・ギア、少し静かにしていて下さい」
「え~」
見かねたレオンハルトの言葉にも、ギアは不満を返すだけだ。
紙を振る手こそ止めたが、明らかに集中を欠いている。今度は紙を細かく千切り始めた。
そんなギアを叱ろうと、レオンハルトが口を開いた時、魔王の声が謁見の間に降りた。
『良かろう。では、汝の望むモノを我が視てやろう。汝の憂いを晴らせば、我の元へと帰ってくるであろう?』
一応疑問形だったが、一方的に決めつけてしまったようだ。
クラークの返事を待たずに、魔王は何かしようとその体を光らせ始めた。まあ、クラークが答えるとも思えなかったから、それは仕方ないのかもしれないけど。
でも、「視る」とはどういうことだろうか?どう見ても、魔王(球体)に目なんて付いていない。何を、どうやって「視る」のだろうか。
未知のことにドキドキしてしまう。
これではギアのことを責められない。落ち着きがなくなった私に、頭の冷静な部分がツッコミを入れる。
魔王の輝きが強くなっていく。それに伴い、部屋の壁に光が反射する。
それは、黒くて明るい光。黒い可視光線なんて、初めて見た。
いやそもそも、黒い光自体見たことないのだが・・・。
とても幻想的だ。
そんな感想を抱いた次の瞬間、光がいきなり強くなった。同時に、視界一杯に様々な風景が広がる。
緑一色の大地。田畑を耕す人々。青い海と白い帆船。雪以外何も見えない極寒の地。人で埋め尽くされた戦いの場。動物の骨が見え隠れする砂漠。
目にも止まらぬ速さで次々と通り過ぎていく。
私はその時気付いていなかった。
その場に居た私以外の人は、この光景を見ていないことを。
私自身が今、どういう状況にあるのかを。
お待たせしました。
ちょっと短いですが、キリが良いので一旦切ります。
今回はもう一つ投稿しました。続きをお楽しみください。




