第四話 二年後 後編
私は急いで持っていた荷物を手に取ると走っている凪ちゃんの手に引かれ広場を抜けた。
「ちょっと、何処に行くのよ?」
走りながら聞いてみるが彼女は何も答えない。
駅前を通り駅裏の商店街を抜けていく。
商店街を抜けても未だ走り続けていたが、商店街より少し離れた公園で私の手を引いていた凪ちゃんが止まった。
何処かで見た風景なのだが思い出せない。
だが、今は凪ちゃんについていくため全速力で走ったのがいけなかったのか体力は限界に近くそんなことを考えている余裕はなかった。
私は息を切らせながらも凪ちゃんのほうを向き直る。
「どうかしたの?凪ちゃん」
私の問いに対し、凪ちゃんは唇に人差し指を当てた。
静かにしておけという意味らしい。
凪ちゃんが向いている方向を見るとそこには二年後の私と柚樹が二人っきりに立っていた。
話しているが此処からでは遠すぎて何を言っているのか分からない。
ふと横を見ると凪ちゃんがイヤホンらしきものをつけている。
その手には凪ちゃんがつけているものと同じものが握られていた。
これをつけろということなのだろうか。
私は凪ちゃんからイヤホンのようなものを受け取り耳につけた。
ただのイヤホンに見えるが、これもまた未来の便利機器の一つなのだろうか。
まあ、それはまた後から詳しく聞けばいい話だ。イヤホンから聞こえる二人の会話に耳を澄ませる。
「柚樹こんなところへ来てどうしたの?」
「実はさ、ミサトに渡したいものがあって」
「私に?」
「目を瞑って」
二年後の私は柚樹に言われるままに目を瞑っている。
すると柚樹はポケットから何かを取り出し未来の私の首にそれを掛けた。
「目を開けて」
「これって……」
「昔、君にプレゼントするって約束したネックレス。今更だけれど……」
少し恥ずかしいのか柚樹は顔を伏せている。
未来の私の首には銀色のハートのネックレスが掛かっていた。
あのネックレスは、昔、小さいごろの私がほしいと言っていたネックレスだった。
シンプルなデザインで今にしてみれば値段もバイトをしていれば買えなくはない金額だが、当時の私たちのお小遣いでは買えない値段だった。
嬉しさのあまり未来の私は涙を流している。
「柚樹、ありがとう。でも何で此処で……?」
それは現在の私も不思議に思う。
普通にネックレスを渡すのであればこんなに人気のない場所ではなくてもいいはずだ。
「俺、イギリスに行くことになったんだ」
「えっ?」
未来の私は突然の事に驚きを隠せない。
「本当はミサトと同じ大学に行きたかったけど、親の都合で向こうに行くことになってさ。だから……、昔よく遊んだこの場所でけじめをつけたかったんだ」
そういえばこの公園は小さい頃二人でよく遊んでいた場所だ。
「で、でも!」
当然のごとく未来の私は納得がいかない様子だ。
それを見てか柚樹は少し悲しい表情を浮かべている。
「今まで黙ってて本当にごめん……。絶対に、向こうから帰って来て一番にミサトと会うから。その時は……一緒になろう?」
「……ちゃんと帰ってきてよ?」
「分かってる。約束は必ず守るよ」
未だに未来の私は少し泣いてはいたものの、その表情には「絶対に守ってね?」というのが目に見えている。
そんな表情に柚樹は苦笑いしながらも未来の私の頭をそっと撫でて暫く未来の私を抱きしめていたのだった。
◇◆◇
建物の影から見ていた私は何とも言えない気分になってしまった。
「約束……か」
これが未来の私を探すために重要な手がかりになるかもしれない。
隣にいる凪ちゃんにそう伝えると彼女も同じことを思っていたらしい。
しかし、現状としては数十年後の未来の私を見つけてないし今はまったく分からない。
「もう少し先の時代に行けば何か分かるかも知れませんね」
「どうしてそう思うの?この時代にもまだ手がかりが残されていると思うよ?」
すると凪ちゃん鮮明に記憶を思い出すかのように胸に手を当て始めた。
「前にお母さんが言っていたのを思い出したんです。私はずっと『約束』を待っていたんだって」
「……どうしてそのことを早く言わないの?」
「いや、お母さんが言ってた『約束』の意味が良く分からなかったもので……」
少しバツの悪い表情を浮かべている。
「まったく……もう」
凪ちゃんの姿を見ていたら自然と笑みが零れてしまう。
「じゃあ……、次はこの先の二年後の未来へ行きますね」
「えっ?いきなり?」
「それじゃ、また私に掴まっててくださいね?」
私の発言を無視して、凪ちゃんはクラシックテレポーションの操作を始めた。
あの時とまた同じ風景に変わっていく。
そして今度はジェットコースターの数倍の力に加えて、重力に逆らい体が引っ張られるような感じに襲われる。
……もう時空移動は嫌いだ。




