第一話 ささやかなる私の日常
――朝。
誰かが窓のカーテンを開けたのか爽やかな光が挿し込んでくる。
私は半ばぼんやりしつつ薄らと目を開けるとそこに立っていたのは呆れた表情を浮かべている母親だった。
「ちょっと、ミサト!いつまで寝てるの!」
こんな朝から耳元で叫ばないで欲しい。
そうは思いながらも母親の問いに私は少しだるそうに答え、いつまでって朝じゃん……と言うと母親は怒りの表情へと変わっていく。
「何、寝ぼけたこといってるの!今、何時だと思ってるの?」
「今?」
時刻を聞かれ、真横にある目覚まし時計に視線を落とした。
そう、今の時刻は7時45分。
……7時45分?
「えぇぇえええ!!もうこんな時間!?」
「だからずっと起こしてたのにまったく起きなかったじゃないの!」
「引っ叩いてでも起こしてくれればよかったのに!!」
そんなぶつくさ文句を言いながらも私は壁にかけてあった制服を急いで着て、セミショートに切られた栗色の髪を軽く梳き、朝の準備をすぐにして1階に降りた。
既にテーブルにはトーストや目玉焼き、サラダなどが並んでいたがそんな朝食には目もくれず玄関へ行き、行ってきます!と声を掛け、私はローファーを履き走り出した。
◇◆◇
何故こんなときに限って信号機が赤になっているのだろうか。
細かい路地を抜けて大通りに面したとき運悪く信号が黄色から赤に変わってしまった。
私は少し寒くて身震いをする。
なんせこの季節は皆、マフラーや手袋をしており防寒具を忘れた私にとっては少しばかり寒い。
暫くの間、寒さに耐え信号を待っていると信号機が赤から青に変わり直ぐに私は走り始めた。
信号を渡って駅前の噴水広場へと走っていく。
此処を抜けると私が通っている私立・渚高校がある。
この辺の私立では進学校として有名な女子校だ。
携帯の時計を確認すると時刻は8時20分。
これなら何とか間に合いそうだ。
――が、そう思い安心したのもつかの間。
画面に表示されている時刻に気を取られているときに前方から誰かとぶつかってしまった。
「すみません!大丈夫ですか!?急いでいてよく前を見てなかったので」
目の前には私と同じ栗色の髪をしたツインテールの少女が尻餅を付いていた。
歳は私と同じ高校生ぐらいだろうか?
少女を見てみると何処かの制服を着ている。
私が今、着ているのはベージュ色のブレザーにチェックの赤いスカートと赤リボンが目立つ制服だが、少女が着ているのはグレーのブレザーに紺でチェックの色のスカートで黒のネクタイをしており、どちらかと言うとシックで大人っぽい感じの制服を着ている。
自慢じゃないが私はこの近辺の学校の制服は全て把握している。
だが、少女が着ている制服はまったく見たことが無い。
ということはこの近辺の学校の生徒では無いのだろうか?
私が色々と考えを巡らせている間、少女は尻餅をついたまま私に謝罪の言葉を述べた。
「こちらこそ、すみません。私も前をよく見てなかったので……」
少女の手にはなにやら紙が握られておりそれを見ていたときに私とぶつかった様だ。
「いえ、本当にすみません……。じゃあ、私は急ぐので先に」
私は手を差し出し少女を起き上がらせ再び走り始めようとした時、突如少女に手を掴まれた。
「どうかしました?」
まだ何かあるのかと思い、私は少女のほうを振り向いた。
少女は手に持っていた紙と私を交互に見比べている。
「あっ、やっぱりこの人です!探しましたよ!」
「えっ?どういうことですか?私はちょっと急いで……」
私の言葉が終わる前に高校のチャイムが響き渡る。
この近辺の昔ながらのチャイムを使用している学校は一つしかない。
渚高校ただひとつだけだ。
もしかしてこれって……。完璧遅刻?
ふと、少女の方に視線を向けると少しばかり困ったような表情を浮かべている。
「あの、お話だけでも聞いてくれませんか?」
「えっ……、でも……」
今から行っても間に合わないこともないが、生徒指導部で一番恐れられているあの鬼教師に絶対に捕まる。それだけは何としてでも避けたい。
こうなったらあの鬼教師がいなくなるまで何処かで時間を潰さないといけないし……。
「わかった。どっちにしても今すぐには学校に入れないみたいだし……。話だけならいいよ。あそこのベンチに座らない?」
「そうですね。立ち話もなんなので……」
そう言って私と少女は近くにあったベンチへと腰を下ろした。




