自信の塊
「よぉっ。おれは自信のかたまり。なんでそんなに自信があるかって?そりゃあたりまえじゃん。実績があるから!!」
神様、ぼくはなにをみてるんだ?だれだ、こいつ?自信のかたまり?ぼくはたしか、あまりにもいやな事がつづくので、「上条くん、自信持って」、みたいなことを先輩に言われて、結果、自己啓発セミナーの幹事の書いた書籍を仕事帰りに買って帰ったことまでは覚えてるんだ。だけどなんだ、こいつ、だれだ?幽霊?白い綿アメみたいなボディにたらこ唇、そして丸っこい目が二つ付いてやがる。まるでむかしの漫画のオバQとかいうやつみたいだ。ぼくは帰宅後、ページを二、三ページめくったところで読むのがいやになり、途中で投げ出して、一人暮らしの一畳間に、布団を敷いて寝たんじゃなかったか?こいつだれだ?マジでだれか教えてくれ。
そんなぼくの思案もつゆ知らず自己啓発オバQはしゃべりつづける。
「君は要するに成功体験が無いってことに自信を持てない根拠がある。小さくていい、少しづつ、一つづつ、小さな目標をひとつ、ひとつこなすこと、クリアすることで小さな自信を少しづつつけていこ?……」
よくあることだ。ぼくが悟った瞬間、そいつは言った。
「なんて寝言言うかと思ったかよ!!上条!!お前はここ十数年、まるでダメダメだ!!三十越えてそれはまずいだろ!!おれは上条、お前が買った本の生魂だ。つまり作者の伝えたいことの擬人化!お前があまりに情けなく、変わらないから代わりに出てきてやった。」
こ、こいつは会話できるのか?ぼくは声を出す必要はあるのだろうか?それとも……?
「な〜〜に黙ってやがるっ。上条!か・み・じょ・うでお前の名前合ってるよな??」
ぼくは動揺しながら、その生魂に語りかけた。
「じ、自信たって、どうすりゃあ、いいんだあよ?お、おれはむかしっからスポーツも勉強もだめだめで……っ!?」
「お?」
オバQの片目がつりあがった。
「なにか、引っかかるものがあるらしいな……。それだよ、それがお前の、、実績!」
ぼくは唐突にあの頃を思い出して、何度でも何度でも思い出して、涙があふれてきた。
生魂(オバQ)は最後に一言のこしていった————
「“根拠のないところに自信はたたず”、だ。よく覚えておけっ」
ぼくは生きてきた意味を考えた。
「“実績”か………。アノヤロー、カッコ付けやがって……、はは。」
アパートの窓を開け放った。今日は闇夜が明けるのがやけにはやい。樹木の凜とした生命力が確かに感じられる。
ぼくは当たり前のことに感謝できる人間でいたかった。
そんなことさえ忘れちまってたなんてな……。笑える。くすッ–
—了—




