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日本人の私が次期公爵夫人なんて務まるでしょうか〜恋も試練も簡単にはいかないようです〜【第二部後日談】  作者: 七宮叶歌
第2章 対面

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対面2

 何がそんなにクラウの心をざわつかせているのだろう。気にはなるのに、レオニスとキャサリンの前では聞けない。

 どうしていいか分からずに膝の上で拳を握り締める。そんな時に、ノックもなしにリビングのドアが開かれた。


「お父様、お母様。遅くなってごめんなさい」


 現れた銀髪の女性は、慌てた様子で部屋の中を見渡す。アイスブルーの瞳は私の姿を捉えて一瞬だけ止まる。それも束の間、クラウを見て目を細めた。


「クローディオ、隣のレディは誰?」


「……俺の婚約者」


「何で急にそんなことになるのぉ」


 一時は肩を落として頭を抱える女性だったけれど、再びこちらを向くと姿勢を正す。


「私はヒルダ・グリフォン。ナイトフォード侯爵夫人でクローディオの姉です」


 何度かちらりとクラウにお姉さんがいることは耳にしていた。この人がそうなのか。通りでキャサリンに似ているわけだ。

 いや、呆気に取られている場合ではない。私も自己紹介をしなくては。


「私はミエラといいます。エメラルドのハウランダー伯爵の娘です」


 気付いた時には深々と頭を下げていた。間を置いて私が上体を起こすと、ヒルダは「ふうん」と漏らす。


「事情はオッドアイで理解できるけど、まさかこんなことになるなんてねぇ」


 ヒルダは二つのソファーの間にある一人掛け用の椅子に腰を下ろし、口を尖らせる。


「私、クローディオに集る令嬢は撃ち落とすつもりだったんだけどなぁ」


「集る……?」


 まるで、令嬢を人として扱っていないかの物言いに、怖いと思ってしまった。ヒルダはくすっと笑って、大きく頷く。


「そ。クローディオって、童顔なくせに端正な顔をしてるでしょ? 言い寄ってくる令嬢はいっぱいいるんだよー」


 私の目から見ても、クラウはかっこいいと思う。でも、同じ魔導師仲間だったアレクも整った顔だったし、フレアも美人だった。だからといって、アイドル視はしていない。

 美男美女に囲まれて、私の目は肥えてしまったのかもしれない。その代償が、クラウに群がる令嬢たちのライバルになる――ということなのだろうか。

 私がごくりと唾を飲み込むと、クラウは溜め息を吐いた。


「俺はそういうのには興味ないよ」


「クローディオが興味なくても、ミエラがそうはいかないの! 女にとって、社交界は戦場なんだから」


 『戦場』という言葉だけが頭に残る。だから、先ほどはクラウがあんなに不安そうな顔をしていたのだ。花嫁修業の成功宣言は、私の考えが甘かったことの表れなのかもしれない。

 今更になって、どうしようと思ってしまう。呼吸も浅くなる。そんな私の変化をヒルダは見逃さなかった。


「ミエラ、怖くなった?」


 目を尖らせたまま、ヒルダは口角を上げる。

 今、急に怖くなったのではない。元から怖いのだ。それを頭の隅に追いやり、気付かないふりをしていただけだ。


「……最初から怖いです。知らない土地で、知らない人たちに会って、知らない未来の会話をして。怖いに決まってます」


「じゃあ、今、選ばせてあげる。エメラルドに逃げ帰るか、険しい道でも乗り越えるか。どうする?」


 今、選ぶのではない。私はもう選んでいるのだ。絶対にクラウとの幸せな生活を手に入れてみせる。この決意は何があっても変わらない。

 隣を見てみると、クラウの膝の上で拳が震えていた。その拳にそっと自分の手を重ねる。

 

「何があっても逃げ帰りません。私は、クラウの傍から離れたくないんです」


 静かに、淡々と言ってみせる。何故かクラウを除く三人の目が見開かれた。


「あ、あの……?」


 首を傾げてみせると、レオニスは咳ばらいをし、キャサリンはソファーに座り直す。


「いきなり愛称を使うから、な?」


「ええ。ちょっと驚いてしまって」


 驚く意味が分からない。でも、驚く人がいるのなら、人前で愛称呼びはしない方がいいのかもしれない。少しだけ気落ちしながら、視線を落としてしまった。


「ミエラ。特に令嬢の前では愛称は使わない方がいいよ。敵が増えるだけだから」


「分かりました……」


 こんなことになるなら、クラウも最初から教えてくれていればよかったのに。ちらりと隣を見てみると、クラウもまた不服そうに口をへの字に曲げていた。


「それでだけど、ミエラはサファイアの貴族について詳しいの?」


 ヒルダは声色を変えず、質問を重ねる。


「サファイアの貴族は……全然知らないんです」


 サファイアだけではなく、エメラルドの貴族も知らない。それを言うとややこしくなりそうなので、口には出さずにいた。


「辺境伯の令嬢だもん。ダンスはできるよね?」


「ワルツなら、ちょっと」


 魔導師だった頃に、ワルツの特訓だけはしてもらったことがある。王たちに披露したくらいなので、これだけは唯一の自信だ。

 しかし、ヒルダは顔色を青くし、頭に片手を添える。


「嘘でしょ……?」


 そして、盛大に溜め息を吐いた。


「お母様、八ヶ月だったっけ?」


「そうですよ」


「八ヶ月で足りるの?」


 ヒルダが前のめりになると、キャサリンはしばし考えた後に小さく頷いた。


「足りなければ、公爵夫人になる資質が足りないということでしょう。その時は、ミエラにはお帰りいただきます」


 先ほども、レオニスに教養が身に着かなければ婚約は白紙と言われている。それは覚悟の上だ。受験勉強よりも厳しいものになるのだろう。


「頑張ります。だから、どうかチャンスをください」


 今度はヒルダに頭を下げてみる。ヒルダも最初は浮かない顔をしていたものの、最終的にはにっこりと笑ってくれた。

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