六柱神会合
円卓の間に、光はなかった。
天も地も存在せず、あるのは――概念だけが形を持った空間。
そこに、六つの“柱”が在った。
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沈黙を最初に破ったのは、
六柱神第六席・動神アレス。
赤黒い鎧に覆われた巨躯。
隆起した筋肉には、癒えぬ傷が幾重にも走り、
その存在からは常に血の匂いが立ちのぼっていた。
「止める力、だと?」
歪んだ笑みが浮かぶ。
「笑わせるな。
進まぬものは、壊れるだけだ」
足を踏み鳴らす。
それだけで空間が、わずかに軋んだ。
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円卓の反対側で、影が揺らぐ。
六柱神第四席・変神ロキ。
その姿は定まらない。
若者にも老人にも、男にも女にも見える。
ただ一つ変わらないのは――楽しげな表情だけだった。
「まあまあ」
指を鳴らすと、影が別の形へと変化する。
「壊れるかどうかなんて些細なことさ。
物語になるかどうか――それが大事でしょ?」
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低い咳払いが、空気を切った。
六柱神第二席・犠牲神オーディン。
片目を覆う影。
長く垂れた白髭。
老賢者の姿でありながら、その圧は誰よりも重い。
膝元に槍を立て、未来を“見続ける”唯一の眼が開かれていた。
「……その少年は」
声は静かだ。
「代価を、まだ知らぬ」
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円卓の中央。
光でも影でもない、“正しさ”がそこに座していた。
六柱神第三席・観神アテナ。
白と蒼を基調とした装束。
感情を映さぬ瞳が、全体を俯瞰する。
「だからこそ、今は試験段階よ」
「破壊も、救済も、まだ不要」
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空間が、ふっと和らいだ。
六柱神第五席・祈神天照が在るだけで、
円卓は淡い光に包まれる。
その"光"は温かく、同時に重い。
「祈りが……集まり始めています」
優しい声。
だが、逃げ場のない“中心”の声だった。
「行き先を、見誤らないように」
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最後に、影が“終わり”の形を取る。
六柱神第一席・無神ハデス。
黒衣に包まれ、表情は読み取れない。
存在感は希薄でありながら、確かに“そこにある”。
「……まだ終わらせる時ではない」
短く、断定的な言葉。
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円卓の端。
他の六柱神とは違い、
椅子ではなく“境界”に立つ者がいた。
六柱神総書記・ヘルメス。
軽装。
羽飾りのついた靴。
神とも人ともつかぬ、曖昧な佇まい。
「で、俺か」
軽い調子とは裏腹に、視線は鋭い。
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アテナが告げる。
「あなたが適任よ。
境界を渡り、観測して」
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アレスが吐き捨てる。
「殺すなよ」
一拍置き、続けた。
「止まるかどうかだけ、見ろ」
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ロキが愉快そうに笑う。
「当たらない拳。
届かない声。
いいねえ、実に面白い」
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天照が静かに言う。
「祈りが、どこへ流れるか……
それも、見てきてください」
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ハデス。
「……終わる時は、俺が呼ぶ」
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ヘルメスは肩をすくめ、手袋をはめ直した。
「了解」
「壊さず、強めず――
ただ、ずらす」
一歩、踏み出す。
その瞬間、彼の姿は消えたのではない。
ただ、位置が変わった。
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円卓に、再び沈黙が落ちる。
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オーディンが呟く。
「試金石か」
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アテナが応じた。
「ええ」
「“止める力”が、
境界に触れられるかどうか」
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その頃。
いつきの背後に、
まだ見えない“ズレ”が生まれ始めていた。
敵意でも、殺意でもない。
ただ――
交わるはずの因果が、すれ違う未来。




