止める者
場面は変わり、高層ビルの屋上に立つ少女。
ショートカットの髪の毛が風になびく。
背丈は大きくないが佇まいと不思議なオーラが彼女を大きくみせる。
フードを深くかぶりなおし、彼女の大きな瞳が夕暮れの街を見下ろす。赤みを帯びた光が、ビルの谷間を染めていた。
ふと彼女は自分の右手を見る。
――触れたものの思い、矢印を読む。
街の人々、自分の体、感情の流れが視覚化され、方向を把握できる。
さらに、自分の意思で既存の矢印を固定することも可能だ。
だが、矢印を生み出すことはできない。
そして、長時間使えば、精神に負荷がかかる。
右手を見た彼女は幼い頃のことを思い出す。
母親の手を握った瞬間、胸の奥に母の緊張や恐怖が流れ込み、同時に方向が止まった感覚を覚えた。
――干渉することの重さと責任を知った瞬間だった。
今、この街を見下ろす右手にも、同じ感覚がある。
触れるだけで、人の意思を一瞬だけ止めたり安定させたりできる。
感傷に浸っていた彼女は背後に気配を感じる。
すると屋上のドアが開き、
観測者――アルゴスが現れた。
見た目は20代後半、高身長でしっかりとした身体付き。だが、その顔には複数の目。
「ましろ、例の少年だ」
街全体の情報を把握し、見た者の行動を解析する男がその少女に言葉をかける。
アルゴスのひとつの視線は真白を確認しつつ、また別の視線は遠くの街にいる"右手"の少年――いつき――にも注がれる。
胸の奥で、決意が固まる。
――この力には責任がある。
街を危険にさらすわけにはいかない。
そして、街を変えた存在――右手の少年――を見逃すこともできない。
私は彼に触れ、止めなくてはならない。
フードを深くかぶり直し、真白は屋上から降りる。
――あの少年を止めるべく。




