選ばれる道
———ヒカリノ大陸
朝日がヒカリノの街を照らす。
その光は優しいはずなのに——
どこか、冷たかった。
———ビルの屋上
「やっと見つけた....」
いつきは膝に手をつく。
その額からは汗が流れる。
「ずっとどこにいたの?」
いつきはアルゴスに問いかける。
「.......」
アルゴスからの返答はない。
「まぁいいや。」
「聞きたい事があったんだ。」
いつきが一歩踏み出す。
「俺の力の代償。」
「知ってるんだろ?」
アルゴスは静かに言う。
「お前の選択は——」
「因果を壊す。」
「そして——」
「必ず、別の何かを壊す。」
「.......どういうこと?」
いつきは首を傾げる。
「お前の"力"は、在るべき未来を変える。」
「その選択によって、」
「"力"が大きければ、未来も大きく変わる。」
「だから、人が死ぬの?」
「それは、可能性だ。」
「確定事項ではない。」
「じゃあ、使っても大丈夫ってこと?」
「俺は使うなとは言ってないぞ。」
「そうだけど....」
「自分で選択することだ。」
「みんな、同じようなこと言うんだな。」
「.....モイラ....か」
アルゴスから声が漏れる。
「見てたの?」
「モイラは今どこ?」
「話したいことあるんだ!」
いつきの表情が明るくなる。
「彼女はもういない。」
屋上にアルゴスの重い声が響く。
「どういうこと?」
「六柱神第六席・アレスによって殺された。」
「っ.......⁉︎」
「嘘だっ!」
いつきがアルゴスに駆け寄る。
「なんで⁉︎」
アルゴスの服を掴むいつき。
「禁忌を犯したからな。」
「禁忌って.....」
「......"神"は人間だって、ただそれだけだろ?」
「それが禁忌なのだ。」
いつきと反対にアルゴスは冷静だった。
「そんな.....」
いつきが俯く。
「......何が神だよ.....」
「神なら人の命を奪っていいのか?」
「ふざけてる。」
その一言が、屋上に落ちた。
風が吹く。
だが——
いつきの中では、何かが止まっていた。
俯いたまま、拳を握る。
その拳が、震える。
「……言ってくれたんだよ。」
小さな声。
「俺は一人じゃないって。」
「好きだって。」
歯が軋む。
「それなのに——」
いつきの顔が上げる。
その目は、怒りで濁っていた。
「なんで、死ななきゃいけないんだよ。」
沈黙するアルゴスは、
ただ、静かに見ている。
いつきを。
その中にある歪みを。
「神ってなんだよ。」
「人間なんだろ?」
「だったら——」
一歩、前に出る。
「死ぬよな。」
空気が、僅かに歪む。
アルゴスの視線が変わる。
「……いつき。」
低く呼ぶ。
「その思考は危険だ。」
だが、いつきは止まらない。
「危険?」
「何が?」
「もう遅いよ。」
拳を握る。
その周囲の空気が、わずかに削れる。
「俺はもう、“神”に手を出してる。」
「天照も止めた。」
「だったら——」
その目が、決まる。
「最後までやる。」
沈黙。
アルゴスはゆっくりと口を開く。
「……お前は、“神”をどうする気だ。」
短い問い。
だが、本質だった。
いつきは少しだけ考える。
そして——
答える。
「壊す。」
その言葉に、迷いはない。
「全部。」
風が強い。
街の音が遠くに聞こえる。
祭りの準備の声。
笑い声。
平和な日常。
そのすべてを背にして——
少年は言った。
「神なんていらない。」
その言葉に、
空がわずかに軋む。
アルゴスは静かに目を細める。
「……そうか。」
「なら、覚悟しろ。」
一歩、いつきに近づく。
「お前のその選択は——」
「世界を壊す。」
「そして、必ず——」
「何かを奪う。」
いつきは笑う。
はっきりと。
「知ってるよ。」
母の記憶がよぎる。
モイラの言葉がよぎる。
ハザエルの死。
ペイモンの血。
全部が、頭の中で混ざる。
「だから選ぶんだろ。」
その目が、真っ直ぐアルゴスを見る。
「俺の選択が——」
「未来を変える。」
「.......。」
アルゴスは、わずかに息を吐く。
「……いいんだな?」
「守るにはそれしかない。」
いつきの声は真っ直ぐ届く。
「世界が壊れてもか?」
「守りたい世界じゃない。」
そして、空を見上げる。
青く広がる空。
だが、その向こうには——
「なぁ、アルゴス。」
「どうやったら、"神"に辿り着ける?」
その問いに、
アルゴスの瞳がわずかに揺れた。
「……行く気か。」
「当たり前だろ。」
即答だった。
「どうしたらいい?」
風が止まる。
そして——
アルゴスは静かに答える。
「方法はある。」
「だが——」
少し間を置く。
「サタン。」
「あいつらが必要だ。」
いつきの眼が開く。
「サタン?近づきたくない。」
「だが今は、それが一番早い。」
その瞬間——
屋上の空気が、僅かに歪む。
見えない何かが、動き出した。
———
遠く、神域。
“何か”が目を開く。
———
ヒカリノの街では、
祭りの準備が進んでいる。
誰も知らない。
その裏では、
世界が壊れ始めていることを。




