表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイシスト  作者: 翔陽
38/38

下される神罰


アレスの眼が細くなる。


「どういうことだ?」


順風耳は静かに、だが確実に言葉を落とす。


「——“神は人間である”という認識が、」


「人間に伝わりました。」


その瞬間、闘技場の空気が固まる。


金属音が止まる。


イニュオの槍が止まる。


それから、

アレスはゆっくりと、順風耳を見た。


「……誰だ。」


低い声。


重い圧。


順風耳は答える。


「“神殺し”の少年——いつき。」


「そして、それを伝えたのは——」


わずかに間を置く。


「———モイラ。」


その瞬間、アレスの足元の石が砕ける。


「……あいつか。」


口元が歪む。


「余計なことを。」


イニュオが口を開く。


「まずいな。」


「人間に知られるのは——」


順風耳が続ける。


「はい。」


「“信仰”の根幹が揺らぎます。」


「"神"が絶対でなくなる。」


「恐れではなく、“理解”に変わる可能性がある。」


アレスは笑った。


だが、その笑いは荒い。


「面白ぇじゃねぇか。」


順風耳の眼が、わずかに揺れる。


「……本気で仰っているのですか。」


アレスは肩を回す。


骨が鳴る。


「人間が"神"を理解する?」


「そんなもん——」


拳を握る。


「ぶっ壊せば済む話だ。」


順風耳は、首を横に振る。


「違います。」


その一言で、空気が締まる。


「それは——」


「“戦い”ではなく、“崩壊”です。」


その言葉に、アレスの動きが止まる。

順風耳は続ける。


「信仰が崩れれば、」

「"神"は弱体化する。」


「存在そのものが揺らぐ可能性すらある。」


アレスの表情が、少しだけ変わる。


「……つまり?」


順風耳は言う。


「“神の時代”が終わる可能性があります。」


その言葉に、闘技場の空気が凍る。


イニュオが小さく呟く。


「ばかな……」


だが——アレスは笑った。


今度は、はっきりと。


「最高じゃねぇか。」


順風耳の眉がわずかに動く。


「退屈が終わる。」


「"神"も、人間も——」


「全部ひっくるめて、潰し合いだ。」


その瞳は完全に戦場を見ていた。


順風耳は静かに目を閉じる。


「…....そうですか。」


アレスは振り返る。


「で?」


「モイラはどこに居る?」


「行かれるのですか?」


順風耳の静かな問い。

その眼の奥は暗い。


「当たり前だ。」


その声は、揺れない。


「禁忌を犯す者には、神罰を下さなきゃな。」


「——モイラはヒカリノ、中央の街。」


アレスは笑う。


「だったら、連れてくるか。」


「イニュオ。」

「ヘルメスを連れてこい。」


闘技場に、再び金属音が響く。


「——了解。」


そう言うと、イニュオは闘技場を出る。


ただ——

その音は、もうただの鍛錬ではない。


下される神罰。


その時を待つのみ。



———ヒカリノの街


屋上に立ついつき。


夕焼けが、街を赤く染めている。


「……"神"が人間。」


その言葉が、頭から離れない。


拳を握る。


「だったら——」


小さく呟く。


「神って何なんだ……?」


風が吹く。


遠くで、祭りの準備の音。


笑い声。


灯り。


そのすべてが、


これから崩れるかもしれない世界。


今はまだ、平和な街。


———ヒカリノの街。

裏路地にある、崩れたビル。

その一室。


その部屋では、モイラが腰を休めていた。


「そろそろ、くる頃かしら。」


その瞬間、空間が"歪む"。


そこには、一つの影。

軽やかな足音。その靴には羽根飾り。

現れたのは———ヘルメス。


「どうしてこんな馬鹿なことを?」

ヘルメスが静かに問う。


モイラは微笑む。

「そんなの単純よ。」


「愛に理由なんてないわ。」


「そうか。」


「俺を恨むなよ。」


その会話が終わると同時に、

二つの影が姿を消す。



———神の社、闘技場。


そこには、荒い呼吸の音が響く。

———アレスだ。


仁王立ちで、その時を、今かと待ち侘びる。


その背後にはイニュオ。


「そろそろかと。」


その時、二人の前で空間が"歪む"。


そこに現れたのは、ヘルメスとモイラ。


「お待たせしました。」

ヘルメスは、そう言うと"姿を消す"。


辺りを見渡すモイラ。


「懐かしい空気——」


「久しぶりだな。」

アレスが笑う。


「あなたも変わらないわね。」

モイラは、軽く微笑む


「聞いたぞ。」

アレスの口調は鋭い。


「あのババアでしょ?」

「あいつ、昔から嫌いなのよね。」

モイラが鼻で笑う。


「分かってるな?」


「えぇ.....」

「ただ、抗うわ。」


言葉が終わると同時に、モイラは眼を瞑る。


その刹那———


闘技場に血飛沫ちしぶきが舞う。


アレスの視界が"歪む"。


そして、吐血するモイラ。


モイラの身体には、腕が突き刺さる。


その眼は閉じたまま、口角が上がる。


(——さすがね——)


アレスはモイラの耳元で、静かに伝える。


「これは———神罰だ。」


その瞬間、


モイラの身体が、“存在ごと押し潰される”。


骨ではない。

肉でもない。


——存在そのものが、歪む。


そして、腕が、身体から抜かれる。


モイラは微笑む。

そして、声が漏れる。


「....ダサい...男...」


言葉が終わると同時に、

身体が地面に倒れ込む。


呼吸が止まる。


アレスは、その身体を見下ろしながら言う。


「敵うはずがない。」


そう言うと、モイラに背を向け、歩き出す。


アレスはイニュオに伝える。

「——後は任せた。」


それだけ伝えると、

腕の血を振り払い、闘技場を後にする。


「了解。」


倒れたモイラの身体。


血が、静かに広がっていく。


イニュオは一歩、近づく。


しゃがみ込み、モイラを見下ろす。


「……終わりか。」

感情のない声。


「禁忌を犯した代償だ。」


そして、身体に手を伸ばす。


だが、その時。


ピクリと、モイラの指が、わずかに動く。


イニュオの目が細くなる。

「……まだ、生きているのか。」


かすかな呼吸。


かすかな命。


モイラの唇が、わずかに動く。


「……ふふ……」


血を吐きながら、


それでも笑っていた。


「やっぱり……」


「"神"って……最低ね……」


イニュオの眉が動く。


「……何がおかしい。」


モイラは答えない。


ただ、どこか遠くを見るように、

静かに呟く。


「でも……」


「.....これでいい……」


その視線は、

ここではないどこかを見ていた。


———ヒカリノの街。


夕焼けの中に立つ、一人の少年。


「……あの子なら……」

「......きっと———」


言葉は、そこで途切れる。


呼吸が止まる。


完全な沈黙。


イニュオはしばらく動かなかった。


そして、小さく息を吐く。


「……理解できないな。」


手を伸ばし、その体を抱え、立ち上がる。


「これで、終わりだ。」


そう言いながら、


闘技場を後にする。


その時———


———とある、簡素な部屋。


そこには、アルゴスの姿。


そして、誰にも聞こえない声で呟く。


「……やがて始まる——」


静かに落ちる声。

その眼は、世界を見渡す。


———


神域には、再び静寂が戻る。



———ヒカリノの街


夜が、ゆっくりと降りる。


提灯の灯り。


人々の笑い声。


祭りの準備は、順調に進んでいた。


だが——


その空気の中に、


わずかな違和感が混じる。


風が止まる。


空気が、重い。


いつきは、屋上に立ったまま、


空を見上げていた。


「……なんだ。」


胸がざわつく。


理由は分からない。


だが、確かに感じる。


「……何か、消えた。」


その言葉は、誰にも届かない。


風が吹く。


冷たい風。


まるで——


誰かの最期を運んできたような。


いつきは目を閉じる。


そして、小さく呟く。


「……気のせいか。」


だが、その胸から違和感は消えない。


———


その夜。


一つの命が消えた。


そして同時に——


一つの“歯車”が、静かに回り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ