集まる視線
———神域、円卓の間。
光も影も存在しない空間。
その中心には、円卓。
そこに座すのは、世界を統べる存在。
———六柱神。
静寂が広がっていた。
やがて、空間が歪む。
そこに、二つの影が現れる。
一つは天照。
もう一つは——ヘルメス。
「——落ち着きましたか?」
円卓に座る、"神々"の視線が向く。
最初に口を開いたのは、ロキ。
椅子にだらしなく座る。
「おかえり。」
軽い笑み。
「ヒカリノ、消す気だった?」
天照は少し黙った後に、低く言う。
「必要な罰だった。」
次に発したのは、重い声。
——オーディン。
「度が過ぎる。」
片目の"神"は、静かに続ける。
「祈りを、民を、」
「消されては困る。」
天照は冷たく言う。
「人間が増えすぎた。」
その時、
静かな声が入る———アテナ。
「違う。」
全員の視線が向く。
アテナは続ける。
「今回の問題は、天照でもサタンでもない。」
「一人の少年。」
円卓に沈黙が落ちる。
ロキが笑う。
「"神殺し"?」
天照の瞳が、わずかに動く。
「……あれは異常だ。」
ヘルメスが補足する。
「"神の力"を止めた。」
「いや......」
少しの時間が空く。
「そうではない。」
「そう.....。"削った"。」
オーディンの眉がわずかに動く。
「"削る"?」
アテナが言う。
「干渉しているのか。」
「想いに....」
ロキが口笛を吹く。
「へぇ....それは——」
楽しそうに言う。
「"神"にとって、最悪だ。」
天照が低く言う。
「あれは危険だ。」
「放置すべきではない。」
それを聞いたアテナの言葉は、静かだった。
「消すか?」
円卓に、沈黙が落ちる。
その時。
笑い声と共に、足音が近づく。
空間が軋む。
そこに現れたのは
———アレス。
その目は鋭い。
「面白い。」
拳を鳴らす。
「"神"を脅かす"力"?」
大きな笑い声が、円卓に広がる。
「最高じゃないか。」
オーディンが言う。
「遊びではない。」
アレスは肩をすくめる。
「退屈なんだよ。」
「......おい、天照。」
「次は、邪魔するなよ。」
天照が答える。
「奴は......」
わずかに、言葉を止める。
「……恐ろしい。」
円卓の空気が変わる。
ロキが笑う。
「今、なんて?」
天照の表情は暗い。
「"太陽"を、止めた....」
「人間が。」
その言葉に、
今までとは異なる空気が、流れる。
「観察する。」
「まだ動かない。」
アテナが結論を出す。
アレスの舌打ち。
「またそれかよ。」
オーディンは、頷く。
「賛成だ。」
「サタン....だっけか、あいつらはどうする?」
アレスが聞く。
「あれだけの神罰が下ったんだ。」
「しばらく大人しくしてるだろ。」
そう答えたのは、アテナ。
「いいね。」
「物語が面白くなってきた。」
ロキの口角は上がったまま。
その時——
ヘルメスが小さく呟く。
「もう始まってる。」
"神々"の視線が集まる。
「.....失礼。」
言葉と共に、姿が消えた。
———
時空の狭間。
ヘルメスは呟く。
「"神"の時代は——」
その表情には、
少しの笑みが浮かぶ。
「終わるかもしれない。」
———
円卓の間には、静寂が落ちる。
六柱神が初めて、一人の人間を認識した。
その人間とは——いつき。
世界を変える存在。
———異界
光の届かない世界。
黒い空間に、歪んだ建物。
それは、教会とも礼拝堂とも異なるが、
どこか似通っている。
その名は———堕神の社。
柱は傾き、床には古い血の跡。
社の中に、突如、"黒い裂け目"が開く。
裂け目からは、四つの影。
サタン。
オリエント。
アリトン。
そして、瀕死のペイモン。
オリエントが叫ぶ。
「アリトン!」
「寝かせろ!」
アリトンが慌てて、ペイモンを床へ横たえる。
ペイモンの呼吸は浅い。
胸の傷が、まだ焼けている。
「……俺は....大丈夫だ。」
かすれた声。
「.....簡単には....死なない。」
オリエントが舌打ちする。
「くそ.....」
「こんなはずじゃ.....」
その掌は強く握られる。
その時———
社の奥から足音が響く。
ゆっくり、静かな歩み。
暗闇から、一人の男が現れた。
長い髪、ゆがんだ笑み。
細く、猫背な男。
「見てやってくれ。」
サタンが、その男に言う。
「あぁ、わかった。」
そう言うと男は、ペイモンの傷を見る。
オリエントがサタンを睨む。
「サタン、お前、」
「見てたなら助けろよ。」
サタンは肩をすくめる。
「無理だ。」
「あれは"神"の本気だ。」
ペイモンが、かすれた声で言う。
「……祈神。」
その名前に、サタンの口角が上がる。
「そう。」
「世界で最も、傲慢な"神"の一人、名を天照。」
オリエントが聞く。
「天照?」
「おや、知らなかったか。」
「祈神、奴の名だぞ。」
サタンが軽く答える。
「で?」
「これから、どうする?」
オリエントの視線が落ちる。
「このままじゃ、"神"に勝てない。」
少し黙るサタン。
そして、口を開く。
「その通り。」
社の空気が静まる。
「だから———」
ゆっくり続ける。
「人間を使う。」
アリトンが顔を上げる。
「……人間?」
オリエントの目が、細くなる。
「あいつか?」
サタンが笑う。
「そうだ。」
「"神殺し"の少年、かな?」
社の空気が変わる。
ペイモンが目を開く。
「……奴は....」
サタンが口を挟む。
「そう、奴は特別だ。」
「"神"の"力"を削る。」
「見たかな?」
「あの時の、"神"の眼を———」
サタンの両腕が上がる。
「素晴らしい。」
その言葉に、舌打ちするオリエント。
「気に入らねぇ。」
「ガキ頼みか?」
サタンは首を振る。
「違う。」
「利用する。」
漏れるような笑い声。
「祭りが、あるだろう?」
「……祈神祭。」
そう答えたのは、アリトン。
サタンは頷く。
「そう。」
「"神"を地上に、引きずり出す。」
「そう、言ってたよな?」
オリエントの口調が鋭くなる。
「だったら?」
拳を握る。
オリエントを見るサタン。
「そこで"神"を殺す。」
サタンが微笑む。
「いや。」
そして、首を横に振る。
「そこで———」
「"神"を堕とす。」
社の空気が重くなる。
ペイモンが呟く。
「……神を....」
「堕とす?」
サタンは楽しそうに語る。
「"神"を殺すより、面白い。」
笑みが深くなる。
「"神"が....」
「"神"ではなくなる。」
「それは、この世界で最も美しい堕落だ。」
オリエントが聞く。
「ガキは?」
サタンの目が細くなる。
「彼は———」
「———鍵だ。」
社の外には、暗い空が広がる。
サタンは呟く。
「物語は動いている。」
「"神"も。」
「人間も。」
「君達も。」
ゆっくりとした笑い。
「皆、舞台に立った。」
社に、静寂が落ちる。
その時、オリエントが言った。
「だったら———」
ナイフを握る———ハザエルのナイフ。
「......次は.....」
目が暗く光る。
「俺が"神"を殺す。」
サタンは笑う。
「その為には、信仰が必要だ。」
その夜、サタンは計画する。
——神堕とし。
その中心にいるのは、
一人の少年。
———"神殺し"のいつき。




