裁かれるのは人か神か
———東の荒野
夜の荒野は、まだ戦場だった。
焼けた砂の匂い。
地面には無数の穴。
漂う血の香り。
照らす光。
隠す闇。
その中心で——
ペイモンが両手を広げる。
同時に、"黒い靄"が、荒野へ広がった。
ゆっくり。
静かに。
だが、確実に——
その"靄"は、"光"を侵食する。
そして、"神"を覆う。
———天照の、"光"が揺らぐ。
"黒い靄"が、天照の身体へ絡みつく。
ペイモンの声が、低く響く。
「……"力"の干渉は、」
"靄"が渦を巻く。
「"神"でも、例外じゃない。」
その瞬間——
"光"が爆発した。
"黒い靄"が弾け飛ぶ。
ペイモンが、目を見開く。
「……!」
天照の瞳は、静かにペイモンを見ていた。
そこに怒りはない。
ただ———裁き。
「愚かさは、罪だ。」
天照の掌の前に、"光"が集まる。
まるで、小さな太陽。
一瞬で放たれる"光"。
———"閃光"。
それは、ペイモンの身体を貫く。
同時に、吹き飛ぶ巨躯。
地面を転がり、砂の上で止まる。
「ペイモン!」
オリエントが叫ぶ。
アリトンの顔が青ざめる。
ペイモンの胸は、焼けていた。
「っ……」
呼吸が浅い。
血が、砂へ落ちる。
それは、———人体にとっての、致命傷。
天照は静かに言う。
「これが"神"だ。」
"光"がさらに、強くなる。
荒野の空気が焼ける。
オリエントの手は、
ナイフを握りしめていた。
ハザエルのナイフ。
その刃に、左手で触れる。
だが、その時だった。
背後から声が響く。
「やめておけ。」
低く、ゆっくりした声。
三人の視線が向く。
そこに立っていたのは——サタン。
オリエントを見つめる。
「今のお前じゃ——」
軽く笑う。
「"神"は、殺せない。」
オリエントの眼が、揺れる。
「……黙れ。」
サタンは肩をすくめて言う。
「事実だ。」
そして、天照へ視線を向ける。
空に浮かぶ"神"———天照。
サタンの口角がわずかに上がる。
「相変わらずだな。」
荒野の空気が歪む。
その言葉に、天照はサタンを睨む。
その時だった。
風が吹く。
近づく足音。
砂を踏む音。
それは次第に大きくなる。
光と闇の狭間で——
その足音は、止まった。
その音は、迷いなく、荒野の砂を踏み締める。
全員の視線が向く。
荒野の闇の中から、一人の少年が現れた。
黒い服。
静かな瞳。
その少年は、戦場の中心を見渡す。
倒れたペイモン。
地に伏せたハザエル。
光を放つ"神"。
そして——オリエント。
少年は、小さく呟いた。
「……何してるの?」
その姿を見て、サタンが笑う。
「———ほう。」
目が細くなる。
「お前は...」
アリトンが呟く。
興味深そうに、少年を見るサタン。
オリエントが振り返る。
「"神殺し"の少年。」
「……お前、何しに来た。」
いつきは、訳も分からず答える。
「光が見えたから。」
「それに——」
視線を動かす。
「お前達の、居場所だろ?」
その視線は定まらない。
天照の瞳が、初めて変わる。
今までとは異なり、
その瞳が、わずかに曇る。
視線は、いつきへ向く。
そして、静かに、言葉を放つ。
「貴様は……」
"光"が揺らぐ。
「危険だ———」
その言葉を聞き、サタンは楽しそうに笑う。
「なるほど。」
「面白いじゃないか。」
少年——いつきを見ながら、
低く呟く。
「これは……」
「本当に"神"が、死ぬかもしれないな。」
荒野の夜。
神。
堕神。
そして——
神殺しの少年。
すべての視線が
いつきへ集まっていた。




