祈神・天照降臨
———東の荒野
崩れた礼拝堂。
夜の風が、荒野を吹き抜ける。
礼拝堂の中では、
四人の影がそれぞれ時間を潰していた。
ハザエルは柱にもたれ、ナイフを回している。
ペイモンは床に座り、地図を眺めていた。
アリトンは崩れた壁の隙間から、
外の闇を見ている。
そして——
オリエントは椅子に腰掛けたまま、
天井を見上げていた。
「祭りまで三日か。」
小さく呟く。
ハザエルが笑う。
「待ちきれねぇな。」
「神輿ぶっ壊して、社燃やして——」
「"神"の顔、拝みてぇ。」
ペイモンがため息をつく。
「少しは静かにしろ。」
その時だった。
———風が止まる。
荒野の音が、
突然消えた。
アリトンが眉をひそめる。
「……あれ?」
ペイモンも顔を上げる。
「なんだ?」
礼拝堂の外。
空が——
明るくなっていた。
夜のはずの荒野が、
まるで朝日のような"光"に、照らされている。
ハザエルが立ち上がる。
「おい……」
「なんだよこれ。」
オリエントはゆっくり椅子から立ち上がる。
「……外か。」
四人は礼拝堂の外へ出る。
荒野。
崩れた石。
乾いた砂。
そして——
空に浮かぶ"光"。
それは太陽のように輝きながら、
ゆっくりと地面へ降りてくる。
アリトンの声が震える。
「……嘘。」
"光"が、地面に触れる。
砂が焼け、荒野が静まり返る。
その中心から、
一人の女が、姿を現した。
長い黒髪。
白と朱の神衣。
その周囲には、
揺らめく"光"が、熱を帯びている。
荒野が、静まり返る。
ペイモンが低く呟く。
「もしや……」
ハザエルが口角を上げる。
「マジかよ。」
オリエントは少しだけ笑った。
「早かったな。」
女の瞳が、四人を見据える。
その視線だけで、
空気が焼けるようだった。
「貴様らか。」
静かな声。
だが——
荒野そのものが震える。
「私の祭りを、
穢そうとしているのは。」
ペイモンが小さく息を吐く。
「———祈神か。」
オリエントは笑ったまま。
「ご本人登場だ。」
ゆっくり一歩前に出る。
「祭り前に挨拶とは、律儀だな。」
天照の瞳が細くなる。
「愚かな人間。」
その瞬間——
"光"が広がる。
砂が焼ける。
空気が歪む。
荒野が、まるで太陽の下のように、熱くなる。
ハザエルの額に、汗が流れる。
「……やべぇな。」
「これ。」
だが、オリエントの反応は違った。
「いいじゃねぇか。」
その目が輝く。
「"神"ってのは——」
「こうでなくちゃな。」
天照は静かに言う。
「貴様らに、希望はないぞ。」
オリエントは肩をすくめる。
「何言ってんだ?」
左手を伸ばす。
「絶望は——」
「救いだ。」
荒野の夜。
神と反逆者が、
初めて真正面から向き合う。
その時、天照は静かに手を上げる。
すると、
空に太陽のような"光球"が生まれた。
荒野が昼になる。
「ここで終わらせる。」
言葉が終わると、
その"光球"が、オリエント達へ向かい出す。
———その刹那。
天照の"光球"が、
砂の地面に"落下"する。
オリエントに目を向けると、
左手が、握りしめられていた。
歪んだ笑み。
「おいおい。」
「祭り前に始める気か?」
その姿を見て、
ペイモンが微笑む。
「……やるのか。」
オリエントは笑った。
「当たり前だ。」
天照を見据える四人。
「こんなもんなのか?」
その問いに、天照の声が低くなる。
「貴様……」
ペイモンが肩を回す。
そして、一歩踏み出す。
「———怯えろ。」
言葉と同時に、ペイモンから、
恐怖を形取る"黒い靄"が、
溢れ出る。
「"神"様を堕とす祭りなんだ。」
"黒い靄"が周囲に広がる。
夜と昼がぶつかる。
光と闇が空を裂く。
オリエントは楽しそうに言った。
「始めようぜ。」
「祈神様。」
天照の瞳が燃える。
次の瞬間——
"光"が爆発した。
巨大な"光柱"が空へ伸びる。
「おいおい、大丈夫かよ。」
オリエントが笑う。
轟音。
荒野が揺れる。
礼拝堂の壁が崩れ落ちる。
ハザエルが叫ぶ。
「おいおい!」
「壊す気かよ!」
ハザエルの言葉を、気にも留めない天照。
神と反逆者が。
光と闇が。
ぶつかる。
その衝撃で
雲が消え、夜空が割れる。
天照は言う。
「貴様は"神"になれない。」
オリエントは笑った。
「違うな。」
靄が渦を巻く。
「"神"を消すんだ。」
荒野の空で——
神と反逆者の戦争が始まった。




