灰色の空
———ヒカリノ大陸
大陸の中心に位置する丘の上。
そこには、白い石で造られた巨大な社が建っていた。
空へ伸びるように立ち並ぶ柱。
その奥に鎮座しているのは——
全ての民を包み込むような雰囲気を纏った、女神の像だった。
穏やかな表情。
まるで大陸そのものを見守っているかのようだ。
社の前の広場では、祭りの準備が進められていた。
「おい!もっと縄引っ張れ!傾いてるぞ!」
男たちの怒鳴り声が響く。
広場の中央には——
巨大な神輿が据えられていた。
普通の神輿とは比べ物にならない大きさ。
五十人が一斉に担げるほどの巨大な神輿だった。
太い柱。
豪華な金の装飾。
そして頂上には、小さな女神像が祀られている。
「今年も派手になりそうだな。」
若い男が笑う。
その隣で、年配の男が木槌を振るいながら言った。
「当たり前だ。
ヒカリノの祈神祭は、千年以上続く祭りだからな。」
———
———祈神祭。
またの名を、天園祭。
百人以上の男たちが巨大な神輿を担ぎ、街を練り歩く。
女神を祀りながら。
———
広場では子供たちが走り回り、
女たちは屋台の準備をしている。
焼けた肉の匂い。
甘い菓子の香り。
祭りの空気が、街全体を包んでいた。
その時——
社の階段の上から、一人の巫女が神輿を見下ろしていた。
「今年も……無事に終わるといいですね。」
巫女の視線は、女神像へ向けられている。
女神は静かに微笑んでいた。
まるで——
民の祈りを喜んでいるかのように。
そして広場の端。
人混みの中に、一人だけ
この空気とは明らかに異質な男がいた。
フードを深く被った青年。
彼は、神輿をじっと見つめていた。
「……あれが、“神”を運ぶ神輿か。」
小さく呟く。
その瞳には、
興味とも警戒ともつかない光が宿っていた。
この祭りが——
この大陸の運命を
大きく動かすことになるとは、
まだ、誰も知らなかった。
⸻
———荒野の隣に続く山道。
街へ向かう、ましろの足取りは重い。
(遅かった……)
(あの男たちは、もう止まらない……)
息を整えながら、ましろは前を見据える。
(せめて……)
(いつきだけでも——)
ましろの思考は、止まることがなかった。
⸻
———荒野の中心
壊れた礼拝堂。
ハザエルが不満そうな顔でペイモンを睨む。
「あの女に手を出したらどうなるってんだよ。」
ペイモンはため息のように言った。
「……分からないのか?」
「俺たちが欲しいのは、あの少年だ。」
「だな……。」
ペイモンは静かに続ける。
「さっきの様子で確信した。」
「ただの知り合いじゃない。」
そして、ハザエルを見て言った。
「お前、自分の女に手を出されたらどうする?」
ハザエルはニヤリと笑う。
「そりゃあ——八つ裂きだな。」
「そういうことだ。」
ペイモンは淡々と言った。
「あの少年が手に入らなくなる。」
「下手すれば——」
その時、オリエントが口を挟んだ。
「なぁ、ペイモン。」
「祭りの前に、あのガキ攫うか?」
ペイモンは少し考える。
「……いや。」
「連携が取れないまま増えても邪魔だ。」
「確かにな。」
オリエントは肩を回す。
「じゃあ、あのガキの気が乗ればいいんだよな?」
「それなら、まだマシだ。」
オリエントはくるりと背を向けた。
「行ってくるわ。」
頭の後ろで手を組みながら、礼拝堂を出ていく。
ハザエルがペイモンを見る。
「おい、一人で行かせるのか?」
ペイモンは肩をすくめた。
「一人の方が都合がいいんだろ。」
⸻
———廃工場
天井の隙間から空が見える。
照りつける日差しとは裏腹に、
空はどんよりとした灰色に覆われていた。
その空を、鳥が横切る。
いつきは床に寝転び、空を見上げていた。
「ましろに……言いすぎたかな。」
小さく呟く。
「でも——」
「“神”が狙ってくるなら……」
その時。
背後から足音が響いた。
コツ……コツ……
そして、女の声。
「久しぶりね。」
いつきが振り向く。
「あ……」
「あんたは——」
⸻
———混ざり合う運命。
それぞれの想いが交錯し、
混沌が、静かに姿を現す。




