それぞれの想い
———街の中心にある、崩れた広場。
もう、日は落ちていた。
暗闇の中、街灯の光だけが、広場を照らす。
いつきは、自称"神"を止めた場所を眺め続けている。
街灯はそこにある何かを照らす様だった。
(あの時にはもう、"力"は発動してたんだよな。)
観測者——アルゴスとの会話を思い出した。
———
「"力"を使えば、因果が歪む」
「お前には見えない場所でな」
「その歪みが、限界を超えると……」
「誰かが、死ぬかもしれない」
———
(——誰かが、関係のない人が巻き込まれる。)
(そんなの——)
「———使えない。」
いつきは、あの日から、今日までの戦いを思い出す。
———
—自称"神"。
—モイラ。
—ましろ。
—ヘルメス。
—イニュオ。
———
「——まだ、誰も死んでないよね。」
場面は変わり。
———黄昏の荒野を、四つの影が進んでいた。
崩れた礼拝堂を背に、
沈みきらない夕日が地平を赤く染める。
「30キロか……」
オリエントは空を仰ぎながら呟いた。
「遠足気分じゃねぇな。」
「そうだな。」
ハザエルがナイフを指先で回す。
「でも、面白そうなんだろ?“神殺し”。」
「面白そうだねぇ。」
オリエントは口角を上げる。
「楽しそうだな。」
アリトンが横目で見る。
「だろ。」
「……でも、今回はハズレじゃないといいな。」
オリエントは歩調を落とさず言った。
「“神”を殺すってのは特別だぜ?」
一瞬、空気が重くなる。
「俺たちは“神”を追う側だろ?」
「追われる?冗談でも笑えねぇ。」
「だからこそだ。」
前を歩くペイモンが口を開く。
振り返らず、低い声で。
「神を殺せる存在が本当にいるなら——」
「それはもう追う側だ。」
「少年が...俺たちを理解してくれるといいが...」
「……駒にしたいだけだろ?」
ハザエルが鼻で笑う。
「否定はせん。」
ペイモンは淡々と答えた。
「だが、駒は盤面をひっくり返すこともある。」
その言葉に、オリエントは舌打ちする。
「ガキ一人に期待しすぎだ。」
「どうせ、力の使い方も知らねぇ。」
「俺もそう思う。」
アリトンが静かに言った。
ハザエルが聞く。
「でも、その自称“神”は——」
「大人しくなったんだろ?」
誰も答えない。
風が吹き、砂が舞う。
「……なぁ。」
オリエントがぽつりと聞く。
「もし、その少年が——」
言いかけて、言葉を止める。
「もし?」
ハザエルが促す。
「……もし、“神”に触れただけで、
黙らせたとしたら。」
沈黙。
「それはもう——」
オリエントは低く続けた。
「“殺し”じゃねぇ。」
「“裁き”だ。」
その瞬間。
ペイモンが初めて、はっきりと笑った。
「だから面白い。」
———「いくかっ。」
そう言うと、
オリエントが左手で3人に触れる。
途端、"身体が浮く"。
否———。
彼らの体から"重力"が減ったのだ。
——荒野を飛ぶ様に駆ける4人。
——山、畑、牧場。
——建物の屋根、ビルの屋上。
彼らに道は必要なかった。
夕日が、完全に沈む。
遠く——
街の灯りが、点り始めていた。
———神殺しの少年が待つ街で。




