神に反逆する者達
——反逆者について六柱神が会合を開く中。
いつきの住む街から、そう遠くない荒野——。
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その荒野の中心に、
ひとつの礼拝堂が立っていた。
十字架は折れ、
天井は崩れ、
祈りの場だった面影はない。
そこは、もはや廃墟だった。
だが——
"重力"だけが、異様なほど安定していた。
礼拝堂の中央に立つ男。
オリエント。
明るい短髪。
すらりとした体躯。
軽い口調。
まるで散歩の途中のような顔で、彼は言った。
「ねえ君。
“神”って、役に立った?」
床に跪かされているのは、
地方で“神の声を聞く”と称していた預言者。
震えながら、答える。
「か、神は……我々を……」
どこか気怠そうなオリエント。
彼はため息をつくと、
左手を伸ばし、掌を開いた。
次の瞬間——
"重力"が、反転した。
預言者の身体が天井へ叩きつけられ、
骨が砕ける音が礼拝堂に響く。
だが、死なない。
「死なせないよ」
オリエントは淡々と言う。
「“失敗例”だから」
背後から、低い声。
「……もう十分だ」
腕を組んだペイモンが言う。
「長引かせると、逃げられる可能性が出る」
預言者は必死に逃げようと足掻く。
だが——
ペイモンが一歩、踏み出した。
空間が、"遅く"なる。
恐怖が、形を持つ。
「……っ」
呼吸が、
思考が、
動作が——
すべて、"鈍る"。
「"畏怖"は便利だ」
ペイモンは静かに言った。
「人は“逃げる判断”を、最初に失う」
その横で。
黒い長髪の男、アリトンが壁にもたれかかる。
「……"拒絶"」
たった一言。
それだけで、
預言者の“祈り”が消えた。
声は出ている。
「……どうか……」
「……神よ...お救いください……」
だが、それは意味を持たない。
信仰そのものが、"拒絶"された。
「祈れない……?」
オリエントは楽しそうに笑う。
「可哀想だね」
彼は左手を握った。
途端、預言者の身体が"落下"する。
「仕上げだな」
舌を出しながら近づく、ハザエル。
その手にはナイフが光る。
「安心しろ」
「命令されれば、人は従う」
預言者を見て嬉しそうに話しかけた。
「どうか...見逃して下さい...」
怯えた声の預言者。
その言葉は彼らには届かない。
刃が、喉元に触れる。
「——"動くな"よ」
ハザエルが澄ました声で呟く。
その一言で、
預言者の震えが止まった。
礼拝堂は、沈黙する。
そこに、情けはない。
刃が横に走る。
血が床を染める。
ハザエルはナイフについた血を舐めた。
オリエントは、その様子を見下ろして言う。
「ね?」
「“神”、いらないでしょ」
ペイモンが問う。
「……次は?」
オリエントは崩れた天井を見上げる。
「——“神”はどこにいる?」
ハザエルが笑う。
「祭りはどうだ?」
「あぁ...いいねぇ……」
オリエントも笑った。
「壊すか。」
アリトンが、ぽつりと言う。
「……それなら、神は動く」
「動けばいい」
オリエントは即答する。
その瞬間——
"重力"が礼拝堂全体を歪ませた。
「神は“特別”じゃなくなる」
ハザエルが歓喜する。
「最高じゃん!」
ペイモンは目を伏せた。
「……世界が壊れるぞ」
オリエントはペイモンの方を振り返り、
挑発的に笑う。
「違うっ」
「作り替えるんだ!」
⸻
その瞬間。
街中の高層ビルの屋上。
アルゴスは"観測"していた。
——無数の瞳が一斉に瞬く。
「……秩序が乱れる。」
想いが交錯する因果。
世界は——
少しずつ、戻れない方向へ進み続けていた。




