表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイシスト  作者: 翔陽
15/39

交差する想い、血の女神


廃工場の空気が、張りつめていた。


イニュオは一歩、前に出る。

その足取りは重くない。

だが床が、わずかに軋んだ。


「……逃げないのか」


低いイニュオの声。


ましろは一歩、いつきの前に出た。

白いフードの影に表情を隠したまま。


「逃げないわ」


イニュオは少しだけ首を傾げる。

「面白い。人間にしては……覚悟がある」


いつきはましろに言う。

「離れて。」


その瞬間。


イニュオの槍が消えた。


——否、転移ではない。

純粋な速度。


空気が裂ける音が遅れて届く。


「いつき!」


ましろが叫ぶより早く、

いつきは"右手"を目に当てた。


瞬間、世界が“見える”。


矢印。

無数の意思の向き。

だが、イニュオの殺意は、一直線。


「……来る!」


槍が迫る。


いつきは一歩、ずらした


廃工場の床に、イニュオの足音が落ちた瞬間。

空気が裂けた。


イニュオの槍は空を切る。


「……速い!」


ましろの声と同時に、いつきは次の準備をする。

"右手"を自分の脚に叩きつける。

運動エネルギーの統一。

視界が一段階、研ぎ澄まされた。


——見える。いつきは感動していた。


イニュオの身体からは"無数の矢印"が伸びていた。

それは直線ではない。

殺意と戦意が絡み合い、何度も分岐する複雑な流れ。

ただ他の矢印とは明らかに違うその一本は、

まっすぐにいつきを向いていた。


いつきは気付く。

抗わなければならない。

...でなければ————



「へぇ...」


「もう、“見えてる”のか。

この時間でそこまで届くとはね」


次の瞬間、地面がぜた。


イニュオの踏み込みは、破壊そのものだった。

床が砕け、粉塵ふんじんが舞う。


いつきは反射的に横へ跳ぶ。

——いや、跳ぶ前に"右手"が動いた。


自分の腰に触れ、矢印を“一本”削る。


「……っ!」


本来なら遅れていたはずの回避。

だが、身体は矢印の修正に従い、最短の逃走線を描いた。


「いい反応だ」

イニュオの声が、背後から降る。


振り下ろされた槍。

空気が悲鳴を上げる。


いつきは左腕で受ける——直前、"右手"で前腕に触れた。


衝撃が“散らされる”。


「ぐっ……!」


吹き飛ばされながらも、骨は折れていない。

ましろが息を呑む。


「……防いだ?」


「いや」

イニュオは槍を肩に担ぐ。

「耐えただけだ。防御じゃない」


次の瞬間、盾が唸る。


イニュオは突進と同時に盾を叩きつけた。

壁のような圧力。


だが——


いつきの視界には、盾の裏側に伸びる一本の矢印が見えた。


(そこだ……!)


右手を地面につき、力を脚へ集中。

爆発的な加速。


盾を“避ける”のではない。

盾の意志が届かない位置へ滑り込む。


いつきの拳が、イニュオの脇腹を捉えた。


鈍い衝撃音。


「……っ!」


イニュオの身体がわずかに揺れる。

初めて、彼女の表情が変わった。


「なるほど……」

口角が上がる。

「これは“偶然”じゃないな」


イニュオは一歩下がり、槍を構え直す。

その全身から、圧倒的な戦意の矢印が"噴き上がった"。


「認めよう、少年」

「君はもう、“観察対象”じゃない」


空気が沈む。


「——敵だ」


次の瞬間。

イニュオの姿が、三つに"増えた"。


残像ではない。

それぞれに“矢印”がある。


「なっ……!」


いつきの視界が追いつかない。


「これはな」

イニュオの声が、同時に三方向から響く。

「戦場の選択肢を全部使う技だ」


槍、盾、拳。

三方向からの同時攻撃。


いつきは歯を食いしばり、"右手"を自分の胸に当てた。


——全部は無理だ。


だから。


一本だけ、消す。


最も“致命的”な矢印を削除。


槍の軌道がわずかに逸れ、致命傷を免れる。

だが——


盾が直撃した。


「がっ……!」


いつきは壁に叩きつけられ、床を転がる。


ましろが叫ぶ。

「いつき!!」


イニュオは歩み寄り、見下ろす。

「いい判断だ。だが——」


槍の切っ先が、いつきの喉元に止まる。


「まだ足りない」


沈黙。


いつきは荒い息の中で、笑った。


「……でもさ」

右手を、ゆっくりと地面につく。

「最初より……ずっと見えてる」


イニュオは一瞬、目を細めた。


その背後。

遠くで、因果が静かに歪む。


——アルゴスが、見ていた。


戦いは、まだ終わらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ