静寂と喧騒
ましろは倒れたいつきを支え、背中を押す。
「……しっかりして、いつき!」
いつきは息を荒げ、右手を押さえながらかすかに目を開ける。
「……ましろ……まだ……戦える……」
「落ち着いて。あいつは消えたわ。
今は回復が先よ」
ましろは静かにいつきの体勢を整える。
しかし、路地の先にはまだ不穏な気配が残る。
ヘルメスが消えたとはいえ、戦いの“ズレ”が世界に微細な変化を生んでいた。
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傍らではアルゴスの無数の瞳が
静かに街を見渡し、
戦いの因果の行方を読み取る。
「……次に動く者は、神か……それとも世界か」
彼の声は低く、重く、空間に響く。
ましろが問いかける。
「……アルゴス、あいつは?」
「もう"神"のもとへ帰った」
アルゴスは路地を俯瞰し、今いつきたちが住むヒカリノ大陸全体の因果の乱れを目に映す。
「交わるはずの因果が、すれ違い始めている……」
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いつきとヘルメスの戦いの直後、街中では微細な異変が起きていた。
出会うはずの人が出会うこともなく。
止まるはずの車が止まらない。
テレビに少しのノイズが走る。
アルゴスはすべてを予測する。
「この後の世界……均衡は一時的に乱れる。だが、修正されるかは誰にも分からない」
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場面は変わり、
ここは光のない円卓の間
——概念だけが形を持った空間。
ヘルメスは神の領域に戻り、静かに報告を行う。
「……少年の力を確認した」
「交わるはずの因果が、すれ違っている」
「次の干渉は……必要だろう」
神の声は応えず、ただ静寂が広がる。
ヘルメスは柔らかく微笑む。
「理解した。今は待つだけ……だな」
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路地に残るましろといつき。
ましろはいつきを支えながら
「大丈夫?骨折れてない?」
いつきはゆっくり息を吐きながら答える
「大丈夫。ありがとう。」
「でも...本当に神なんているのかな?」
アルゴスは少し離れた場所から、
世界を観測する。
世界はまだ、静かだ——だが確実に、運命が動き始めていた。




