表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイシスト  作者: 翔陽
1/39

神は何を救うのか?


カラスがなく。

日が落ち始める。

街の中心にある広場。

多くの民が祈りを捧げる。


「ど、どうか、お救い下さいっ。」

信者の一人は怪我した子供を抱いている。


手をかざす男。

"不思議な光"がその子供を包むと同時に、

怪我は無かったものとなる。


奇跡だった。


「おぉ...」

どよめく歓声。

「神の御心じゃ。」

群衆の中には膝を突き、

涙を流すものまで現れる。


一人の男に向かってまた信仰が増える。

"神"を名乗る男に向かって。


白いフードと装束しょうぞくに包まれているその男は癖っ毛の長い髪、髭を蓄え十字架を掲げている。


「神を信じろ。

祈りを捧げろ。

さすれば与えられん。」


穏やかな声で告げる。


その男にひざまずく人々、

手を合わせ祈る人々。

こうべを垂れる人々。


この光景は、男にとってつねであった。

だが...

街の至るところでは、

崩れた瓦礫がれき壊れたビル。

そう、破壊行為が行われていた。

それはまだ可愛いものだった。


——この男にとって。


その日、

つねであったはずの光景は、

男にとって耐えきれないものになっていた。

願えば叶う。

叶えれば人がひざまずく。

口角が上がりそうになり、

口元に力を入れる。


愉快そのもの。

優越感がこの男の欲望を刺激する。


「おぉ、神様じゃっ」

「神はここにいるっ」

群衆の声に、なお欲望は刺激される。


プツン。


その音は

欲望を爆発させた。

それと同時に

轟音がこだまする。

悲鳴が聞こえる。

人が逃げ惑う。


「ふ、ははは...」


痛快そのもの。

口角は上がり笑いが自然と込み上げてくる。



———


その少年は、その広場を通るのが日課だった。

名を"いつき"


黒のパーカーにデニム、

黒とグレーが混じった爽やかな髪に、

大きな瞳が目立つ。


いつきは神を信じていなかった。


いつも脳裏にあるのは、

病室で窓の外を眺める母。


———いつきの母は信仰深かった。


「神様はね、弱い人の味方なの。」


「いつきも一緒にお祈りしましょ。」


いつものことだった。

いつきは心配そうに聞く。

「そんなことより、身体は大丈夫なの?」


「大丈夫。神様が見てくれてるから」

笑顔で答える母は優しい空気に包まれていた。


———母との会話を思い出し歩いている。


そんな時、

その轟音はいつきにも届く。


一瞬なにが起きたか理解出来なかった。


人々は逃げ惑う。

そんな中に、

広場の中心で手を広げ、笑っているその男を見ていつきは自然と歩み寄り問いかける。


「何してるの?」

自然な疑問だった。


「祈りを集めていたのだよ。」

「お前も神に祈れ。」

柔らかい声。

だがいつきには目もくれない。


「祈るもんかっ」


その言葉で男はいつきを見る。

「なんだ神を信じないのか?」



「信じない。」


「ははは、神罰が下るぞ。」


「いないんだから、神罰もないだろ。」


「目の前にいるぞ。」

微笑む男。


「この人達は、お前を信じてたんだろ?

なんでこんな事するんだよ。」


「ははは...人であるお前には関係ない。」

人を見下し、口角をあげる。

男の笑いは止まらない。


いつきにとって、

その表情は、かつて信仰深かった母を嘲笑あざわらっているように見えた。


自然と湧き上がる怒りの感情。

それは初めての感覚だった。

右手が"熱"を帯びる。


怒りからなのか、はたまた———


いつきは"その右手"で男を叩く。


ペチン。


男の腹に当たる右手。


「ガキがなにをする。」

蹴飛ばされるいつき。


広場の周囲では、サイレンの音が聞こえる。


...?

途端とたん、男の身体が違和感を覚える。


右手を地面に当てる。

何も起きない。


"力"を込めたはずだった。


「ガキっ、何をした!?」


焦燥感しょうそうかんに駆られる男。

自然といつきの身体に乗り、暴力を加える。


それを目撃した警官によって男は取り押さえられる。


いつきは何も理解が出来なかった。

(何もしてない———ただ殴った)

———はずだった。


取り押さえられながら、男は叫ぶ。

「神は全ての民を救う!!」


「救われない者もいる。」

いつきは独り言のように呟いたはずだった。


だが、その声は男に届いた。

脳裏に幼い妹の笑顔が浮かぶ。


———

無邪気な笑顔。

いつもついてくる妹。

手品を見て喜ぶ姿。

一緒に祈りを捧げる妹

だが、

ある日帰らぬ人となる。


——葬儀の日誰かが言った。

「神の御心じゃ」

その言葉は、呪いのように男に降りかかった。


(神なんて居ない。)


その思いを抱えたまま。

時は経ち、

手品で生計を立てていた男。

その出会いはいつも通り、

劇場へ向かう途中の道端で起きた。


道路の隅で泣いている少女。


自然と手品を見せていた。


喜ぶ少女。「ありがとうお兄さん。」


その瞬間に"力"は目覚めた。


それからというもの、

手品で奇跡を起こせるようになっていた。


———いつからだろう。


男は涙を堪えきれなくなっていた。


「......違う」


涙を浮かべ連れて行かれる男を眺めるいつき。


自然と男に声をかける。

「神を信じることを否定はしないよ。」

「でも、救われなかった事実は無かったことにならない。」


男は何も言い返さない。

"力"は完全に消えていた。


こうして、"神"を名乗る男は逮捕された。


いつきは

あの言葉を聞いた時の男の顔が、

頭から離れないでいた。


「同じだったのかな。」


右手はまだほんのり"熱"を帯びている。


それは神を否定する力が初めて世界に触れた瞬間だった。


———


物陰には黒い装束に包まれた女。

その一部始終を見ていた。


「...おもしろい。」


そう言うと、

振り返り靴音を立て離れいく。


———

世界は秩序に保たれていた。

この少年の力が目覚めるまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ