第09話 息子を英雄にしてみよう
今日は職場で忘れ物に気が付き、原付で取りに帰った。
全面的に危険より、ところどころ危険が危険だ。
山道の下り坂のカーブが凍結って罠だろ。
異世界の扉ってどこにでもあるんだね。行きたくないけど。
考えてみれば、俺はずっと飢えていたのかもしれない。
食料にではなく、「まともな人間との会話」にだ。
北の村の村長とは、ぐっと距離が近くなった。
やはり同年代(精神年齢)の会話は落ち着く。
俺は村長を本店の前にある畑に招待してアドバイスをもらったり、会長(古龍ソルビトール)に
引き合わせたりした。
ついには、村長のボロ家を【収納建築術】でリフォームし、さらにファミマ(龍形態)を使って
大規模な土木工事まで手伝ってやった。
そして何より、村長の息子である「パラレル」のことだ。
彼は病弱で寝たきりだったが、俺が習得したばかりの【光魔法】を試すと、嘘のように回復した。
彼は賢かった。
スポンジが水を吸うように知識を吸収する。
俺は彼をたまに龍の里(本店)に呼び出し、前世の知識――土木、地政学、複式簿記などを叩き込んだ。
「……なるほど。村の特産として酒と羊毛、毛織物をブランド化し、観光資源として
温泉を整備するわけですね」
眼鏡をかけたパラレルが、真剣な顔でノートを取っている。
「その通りだ。村の発展が見えてきたな。パラレル、ここから先は君が紡ぐ物語だ。
思うがままに励んでくれ」
「師匠……! ありがとうございます!」
俺は爽やかに笑って、全ての責任と労力を次期村長に丸投げした。
もちろん、裏からのサポート(口出し)はするけれど。
◇
秋になり、酒の原酒ができた。
だが、龍たちが「早く飲ませろ」「熟成まで待てん」とうるさい。
仕方がないので、俺は魔法で解決することにした。
「確か、発酵ってのは菌の働きで……要は『腐る直前』だよな?」
試行錯誤の末、俺は【黒魔法】のスキルを習得した。
本来は相手を弱らせたり腐食させたりする物騒な魔法だが、調整して【発酵】として使う。
樽に手をかざし、時間を進めるイメージで魔力を送る。
……成功だ。芳醇な香りが漂う。
また、街へ買い出しに行く際、ファミマ(絶世の美少女)を連れていると目立って仕方がない。
商人たちに怪しまれ、根掘り葉掘り聞かれるのが面倒なので、
俺は無属性魔法の【隠蔽(HIDING)】を習得した。
これで気配を消し、必要なものを仕入れるだけ……のはずだった。
生活が豊かになり、地域での商売なのに莫大な利益が出てしまった。
まずい。
目立つ。
このままでは、「あの山には何かある」と国に勘づかれ、俺の平穏なスローライフが
脅かされる予感がする。
◇
「……よし。木を隠すなら森の中だ」
俺は決断した。
北の村を発展させ、そちらに世間の注目を集める。
そうすれば、俺の山(本店)はただの「仕入れ先」として埋没できるはずだ。
名付けて『パラレル英雄化計画』。
俺はシムシティをプレイする感覚で、パラレルに知恵と魔法を貸した。
1.上下水道の完備。
スライムを使った汚水処理槽を設置し、衛生環境を劇的に改善。
2.治水とインフラ。
氾濫しがちな川を工事し、貯水池を作成。水車を動力に。
3.都市計画。
工業区、農地、商業区、住宅地を明確に区分けし、効率化。
4.行政改革。
治安維持のための堀の建設、公正な税制、そして教育の義務化。
俺は楽しかった。
自分の手で街が育っていくのは、ゲームのようで面白かったのだ。
――数年後。
気がつけば、パラレルは王都から功績を認められて「子爵」になり、
北の村は巨大な城塞都市になっていた。
全ての功績はパラレルのものとされている。計画通りだ。
ただ一つ、誤算があった。
「……おいパラレル。領地の名前、なんだこれ」
「はい! 師匠への感謝を込めて『ショウタウン』と命名し、王家に登録しました!」
地図に刻まれた文字を見て、俺は膝から崩れ落ちた。
やりすぎた。
自分の名前がついた都市なんて、恥ずかしくて直視できない。
ゲーム気分だったが、リアルで見ると引くレベルだ。
◇
俺は反省し、もう月一回ショウタウンに顔を出す程度にして、
山での畑仕事と酒造りに専念することにした。
パラレルに家督を譲って引退した「元・村長」は、今では俺の商会に入り浸っている。
商会とパラレルの城を【転移門】で繋げたため、いつでも来れるからだ。
「いやぁショウ殿、この酒はたまらんのぉ」 「カッカッカ! 人間にしては味が分かるではないか」
縁側で、元村長と前龍王ソルビトールが酒を酌み交わしている。
酒の味なんて17歳には分からないし、ファミマは下戸だ。
結局、最後はこの二人の爺さんと俺とで宴会になり、朝まで雑魚寝する。
囲炉裏の火を見つめながら、俺は思う。
街は発展しすぎたし、名前は黒歴史確定だが……こうして気の合う友と酒を飲む時間。
これこそが、俺が求めていた「異世界生活」なのかもしれない。
投稿の行ぞろえ中に、パラレルが12歳だってことに気が付いた。
12歳だったから、17歳に変更しておいた。あぶない。
酷なことをさせていた。
せめて高校生で領土を立て直してね




