第06話 あなたとコンビに
職場で女性からおやつをもらった。
抹茶ブラックサンダーだが、黒くもサンダーでもない。緑の塊だ。
ちょうどさぼってこれを書いているとき、名前を考えるが面倒になり、
成分表をみてつけているので、どういったものかはわからない。
その夜、胸ポケットに入れていたおやつは、洗濯機の中で溶けていた。
「なんだか変なことが起こっているようだな」
雲を突き抜けるほどの山頂で、巨大な龍が眼下を見下ろして呟いた。
彼の名はホエイパウダ。現・龍王である。
「異世界人の仕業のようです。……ロクでもない存在です」
傍らに控える若い龍(人化状態)が、忌々しげに吐き捨てる。
「そう言うな。150年前に来たヤツは興味深い人間だったぞ」
「その子孫が我が国の領土を荒らしたのですぞ。人間は危険です」
「ふっ。お前のその奇妙な名を付けたのも、その人間由来なのだがな。『ファミマ』よ」
「……だから嫌いなのです!」
ファミマと呼ばれた龍は、ギリと奥歯を噛み締めた。
高貴な龍族である自分に、意味もわからぬ「ファミマ」などというふざけた響きの名を。
人間など、滅ぶべきだ。
◇
その頃、眼下の麓では、大規模な環境破壊――もとい、開拓が行われていた。
「よし、次は『切土』からの『盛土』だ」
俺は【収納魔法】で山の一部をごっそりと削り取り(収納し)、それを低い谷部分へ放出(埋め立て)する。
さらに、砂利や岩、粘土質を絶妙な配合で混ぜ合わせ、水抜き穴を確保しつつ【土魔法】で圧縮プレス。
地盤沈下など起こさせない、完璧な造成地だ。
毎日こればかりやっていたおかげで、俺の【土魔法】スキルは「大学生級(建築学科)」まで上がっていた。
「……ひっろ」
出来上がった平地は、東京ドームが何個入るだろうか。とにかく広い。
村よりも広いこの土地で、俺は蕎麦と小麦、そして高原野菜を育てたいだけなのだが。
「おーいショウ、熟成肉の塩加減なんだが……って、なんだこの平地!?」
商会から出てきたコンスターチが、顎が外れそうな顔をしている。
「村より広いじゃねえか!」
「あー……やりすぎたかも」
「まあ、大きいことはいいことだ。これだけ見晴らしが良ければ、
もしドラゴンが攻めてきても戦いやすいしなぁ」
コンスターチが軽口を叩いた、その瞬間だった。
ズドォォォォォォン!!
空から巨大な質量が落下してきた。
巻き上がる土煙。
だが、俺が作った圧縮土魔法の地盤にはヒビひとつ入っていない。いい仕事をした。
「……お前が、ここに住み着いた異世界人か」
土煙が晴れると、そこには身長2メートルを超える巨漢が立っていた。
黄金の瞳。
あふれ出る覇気。
「あ、龍王様」
コンスターチが条件反射で、スライディング土下座を決める。
俺も慌てて倣う。ヤバいのが来た。
「何故、この土地に来た」
「はっ。龍族様の庇護を求めて参りました」
「庇護、だと? ならばそれに足りる力を示せ」
龍王ホエイパウダは、値踏みするように俺を見下ろす。
「それは困ります。ドラゴン族は最強の種族でございますから、私如きが」
「何か? お前はドラゴンに勝てるとでも言いたげだな」
「無礼だぞ人間がァ!」
龍王の背後にいた側近――ファミマが激昂した。
人の姿がブレて、巨大な龍の姿へと変わりながら突進してくる。
殺意の塊だ。
「……例えば、ですが」
俺は冷静に【土魔法】を発動した。
突進してくるファミマの足元、その地面を一瞬で「消失」させる。
落とし穴だ。
ズボッ、と足がハマった瞬間、穴の隙間に流動化した土を流し込み、カチカチに硬化させる。
「なっ、なんだこれは! 動けん!?」
「この通り、コンクリート詰めのように固めまして」
もがくファミマを尻目に、俺はさらに魔法を行使する。
地面から土を隆起させ、優雅なデザインの「椅子」と「テーブル」を作成。
龍王を強制的に座らせるわけにはいかないので、彼のすぐ後ろに椅子を出現させ、
「どうぞ」
と促す形をとる。
テーブルの上には、収納しておいた熱々の湯呑みをポンと置く。
「貴様……!」
穴にハマったままのファミマが、口から炎を吐こうと息を吸い込んだ。
俺は彼女の足元の地面を円盤状にくり抜き、180度回転させる。
クルッ。 ゴオオオオオッ!
ブレスはあさっての方向、誰もいない荒野へと虚しく放たれた。
「このように、地面をろくろのように回せば自在になります。なんなら高速回転させて、
バターになるまで回しましょうか?」
「き、貴様ぁぁぁ!」
さらに俺は、ファミマの四方に高い土壁を出現させる。
壁の上空に【転移ゲート】を開き、湖の水を大量に注ぎ込む。
「これは水攻めです。この標高なら一晩で凍りますし、水位を上げて窒息させてもいい」
アップアップし始めたところで、水を転移で回収し、壁を消す。
ズブ濡れになったファミマが咳き込む中、俺は仕上げにかかる。
収納から、大理石の破片を360個取り出す。
龍王とファミマを取り囲むように、上下に【転移ゲート】を360セット展開。
石を落とす。
ヒュンヒュンヒュンヒュン……!
加速した石が、見えない檻のように彼らを包囲する。
「この石がもっと巨大だったり、あるいは爆発する岩石だったりします」
「……や、やめろ」
龍王の顔色が変わった。
俺は指を鳴らす。
360個の石が、彼らの周囲に出現させた土壁に一斉に着弾した。
ドガガガガガガガッ!! 岩盤が粉々に砕け散る。
もし壁がなければ、ファミマはミンチになっていただろう。
◇
「……とまあ、もしも戦うとしたらの、デモンストレーションでございます」
俺は深々と頭を下げた。
静寂が支配する。
龍王は冷や汗を拭い、問うた。
「……実際には戦わぬと言うのか。勝てる力がありながら」
「はい。勝っては意味がありません」
俺は営業スマイル(50歳の処世術)で答える。
「私は最強種族である皆様に『保護』されたいのです。
もし私が勝ってしまえば、貴方たちに守ってもらえなくなります」
「……」
「私は人族の社会が怖いので、ここに逃げてきました。ですから、
いざという時は貴方たちの『便利な武器』として共に戦います。
今の実演は、その採用試験だと思っていただければ幸いです」
龍王が呆気にとられていると、商会の奥からパチパチと拍手が聞こえた。
「カッカッカ! どうじゃホエイよ、この人間は面白かろう?」
前龍王ソルビトールが、好々爺の笑みを浮かべて歩いてきた。
先の尖った収納魔法を秒速50回(関西なら60回)on/offすることでカスも出さない電気彫刻刀に
なりやせんかという想像で成り立っております。
この粉を床に混ぜることによって高級感が。
突起が出てると大根おろしみたいになって危ないか。却下。




