第37話 スタァ誕生
先週までこき使われていたのに、今日は放置されている。
シナリオが書ける喜び。
もう、ねか目が覚めちゃう。
眠れない午前二時、苛立ちがこたつを叩くのだ。
はやく書いちゃお。今月の付録は、春色チェック2WAYトートバッグ
なんの雑誌だよ。
各舞台で活躍する俳優たちを起用し、いよいよ本格的な映画撮影が始まった。
俺はてっきり、白い布にフィルム映写機で投影する「活動弁士スタイル」
から始めると思っていたのだが……。
「……なんだこれ」
アタオカの撮影所(兼・上映館)に設置されていたのは、壁一面を覆う巨大な黒いパネルだった。
スイッチが入ると、鮮烈な光が溢れ出す。
「……LEDスクリーン? しかもフルカラー?」
「ええ。あと音響は5.1chサラウンドシステムです。低音が腹に響きますよ」
ゴボテンが目の下のクマを擦りながら自慢する。
いつの間に「青色発光ダイオード(LED)」を作成していたんだ?
赤と緑は昔からあったが、青の発明は20世紀末のノーベル賞級の偉業だ。
光の3原色が揃えば、どんな色も表現できる。
できるが……何世代技術を超えていったんだ?
ブラウン管も液晶も飛び越えてるぞ。
「……ゴボテン。お前、寝てないな?」
「いやぁ、開発が楽しくて……」
「強制終了だ」
俺は無慈悲に【スリープ(睡眠魔法)】をかけ、さらに【ヒール】で体力を回復させながら、
2日間の強制休養を命じた。
◇
ハードウェアは揃った。これから「映像の時代」に入る。
ラジオで人気のデンプンおばさんは、「バーチャルアイドル(声のみ)」として売り出すにしても、
画面を牽引する生身の「スタァ」が必要だ。
「……ファミマ、やってみない?」
「イヤッ」
即答だった。
世界中に顔が売れているのに嫌がっている。
可愛い。
まあ、俺だけのファミマだからな。
公衆の面前に晒すのはもういいか。
世界を股にかけ、容姿にこだわりを持っている人物といえば……シリアルだ。
彼女とチークワンブーに相談すると、二つ返事で理解してくれた。
シリアルが「映像配信のスポンサー」となり、チークワンブーが「スター発掘イベント」を
仕切ることになった。
設立された配信部門の子会社名は――
【ギルライ・フリックス】
……まともな名前だが、なんかつまらんな。
◇
各支店にて予選が行われ、ショウタウンの大劇場にて決勝イベントが開催された。
題して、第1回ギルフリ主催**『君こそスタァだ! 決勝戦』**。
最終的に有力な劇団がプラカードを上げて交渉権を獲得するという、
ドラフト会議とオークションを混ぜたようなシステムだ。
結果、5人の合格者が決定し、それぞれを主役にした短編映画が作られた。
……が、演技はボロボロだった。
顔はいい。ブロマイドは売れそうだ。
見かねた美術監督のジャガが、なぜか演技指導までやっている。
そんな中、一つの映像が会場を震撼させた。
集団モブ役として参加していた 劇団**『ググレカス・アクション・クラブ(GAC)』**
所属の青年、ネタヒロユキだ。
ジャァァァン!
ギターをかき鳴らしながら崖の上に登場。
そこから飛び降り、群がる敵をアクロバティックな体術でなぎ払う。
最後は走ってきた馬に飛び乗り、夕陽に向かって去っていく。
「……なんだこいつ、カッコよすぎるだろ!」
動きが激しすぎて普通のカメラマンでは追えないが、
紅まさりが操作する「ドローンカメラ」が完璧に追従している。
よく見れば、甘いマスクのイケメンだ。
アクション、ルックス、そして謎のギター。
国境を越えたスタァが、綺羅星のごとく現れた瞬間だった。
◇
数日後、俺は「ごはん処・互助会(旧ファミレス)」で彼と会った。
シリアルは既に彼を唾につけ、「メンズエステ」の広告塔として契約していた。
「……初めまして。ネタヒロユキです」
映像の中の派手さとは裏腹に、彼は非常にシャイな青年だった。
聞けば、世界で活躍するために語学レッスン(南大陸語や魔族語)を受けているという。
意識が高い。
「すごいな。君なら世界を獲れるよ」
「ありがとうございます。……でも、僕はただ、身体を動かすのが好きなだけで……」
照れ笑いする彼を見て、俺は確信した。
こいつは売れる。
その後、彼は数々のアクション映画で主演を務め、国民的英雄となる。
数年後に共演女優との不倫スキャンダルで一旦どん底に落ちるが……
まあ、それも乗り越えて、渋い国際俳優として返り咲くだろう。
スタァの人生には、ドラマが必要なのだから。
おもわずベタなダジャレネームになってしまった。
シモウサシンイチや、シボミエツコでもよかったか。
まぁ、先を急ごう。




