第30話 これからのために島流し
これで服が着れます。文明万歳!
■5日前:ソルビトール商会・本店(龍の山)
ゼネストが懐から、茶色く変色した古い封筒を取り出した。
未開封のままだ。見るのも辛かったのだろう。
俺は許可をもらって封を開け、中身の羊皮紙に目を通した。
……数秒後。
俺の手が震えた。
「……これは」
「なんだ? 大したこと書いてないだろ?」
ゼネストが自嘲気味に言う。
俺はバッと顔を上げた。
「……いや、これは許せないなぁ」
そこに書かれていたのは、現代知識を持つ俺ですら舌を巻くほどの、
この世界の理を覆す「ある発見」だった。
論文の題名は、『魔素と電気の可逆的変換について』。
「……ある媒体を通すことで、魔素は電気に、電気は魔素に、質量保存の法則を無視せずに変化する
……だと?」
「ああ。温度や湿度に関係なく、変換時の発熱ロスもなく、空気中で結合して副産物の発生もない。
完全なクリーンエネルギー変換だ」
ゼネストが遠い目をしながら語りだす。
「当時は電気が何の役に立つのか分からなかったが、骨董店で大金を出して入手した
『ある物質』を媒介にすると、実験は成功したんだ。
俺は化学界に革命を起こしたのだと浮かれて……
そして、あの王にレポートを託して、人生が終わった」
「その『媒体』についての化学式が書いてあるが……なんだこれ?」
「骨董屋が言うには、伝説の**『龍のウロコ』**だそうだ。
……絶望したよ。
そんなもの、二度と手に入らないからな」
ゼネストが乾いた笑いを漏らす。
俺は無言で【収納魔法】を開き、ピザサイズの円盤を取り出した。
ゴトッ。
「……あ、龍のウロコ」
「奥の倉庫1つ分あるわよ。ゴミ出しが大変なのよね」
ファミマが爪を研ぎながら言い放つ。
ゼネストの顎が外れた。
「……は?」
「これってさ、南大陸問題がクリアになったりしない?」
ジャガが地図を見ながら呟く。
「ああ。南には魔素がないが、電気(水力・風力)は作れる。
それを魔素に変換すれば、南の人々も魔法道具が使えるようになる」
「逆に、北半球もだよ」
俺は付け加えた。
冬場の魔素不足。
発電所で作った電気を魔素に変えたり、逆に余った魔素を電気に変えたりできれば、
エネルギー問題は消滅する。
つまり、あのジジイ(オワコン王)のうっかりは、
この惑星の文明レベルを20年も停滞させていたのだ。
万死に値する。
「……とりあえず、ゼネストさんは島でやり直そう。
ここと【転移門】で繋いであるから不便はないよ」
「島?」
「ああ。そこにゴボテンっていう技術オタクがいる。彼に会ってもらいたい。
……新たなエネルギー革命の始まりだ」
これが、裁判の5日前の出来事だった。
◇
■現在:行政都市アタオカ・特別裁判所
闇ギルドの実態が明らかとなり、迅速な判決が下された。
関わっていた貴族たちは領地没収・爵位剥奪。
被害者には没収した財産から慰謝料が配布された。
そして、首謀者のゼネストは、ショウとクレメンス王女の嘆願により、
極刑を免れ**「南の孤島への島流し」**となった。
閉廷後、控室にて。
俺はオワコン王を手招きした。
「オワコン様、ちょっとこちらへ」
「ん? なんだねショウ殿」
俺はゼネストの前に王を立たせた。
「この紳士をご存じですか?」
「え? ……誰だっけ? 何やってはる方ですか?」
王はキョトンとしている。
ゼネストの顔が怒りと悲しみで歪む。自分の人生を狂わせた相手に、記憶すらされていない。
「……クレメンス」
「はい。殴ってよし!」
娘(王女)の許可が下りた。
ドゴォォォォォン!!
ゼネストの渾身の右フックが、王の頬に炸裂した。
王が独楽のように回転して吹っ飛ぶ。
俺はすぐに【回復魔法】をかけた。
「……ありがとうございました」
ゼネストが深々と頭を下げる。
その顔は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。
「……なに? 痛くはないけど、なんなんだよ~」
オワコン王が頬をさすりながら起き上がる。
痛みは消えているが、打たれた事実すら理解していないようだ。
その無邪気さは、もはや可愛げを通り越して殺意すら覚えるレベルだ。
「……さあ、行こうかゼネスト。ゴボテンが首を長くして待ってる」
こうして、一人の復讐者は消え、一人の天才科学者が誕生した。
世界が変わる音がした。
次は海底トンネルについて調べないといけない。
それと、あれについても。
次の章が重い。中身というより勉強しないと書けない。
50過ぎて覚えるものって、脳細胞動いてくれるかな?
とりあえず飯食いに行きます。




