第29話 告白
寒い。それは寒いのであろう。気にするな
一方その頃、ショウタウン駅でも開通式典が行われていた。
元村長であり、現在は名誉駅長のフロッピ爺さんが演説をしていたのだが……
感極まった住民たちによって、演説の途中で胴上げが始まってしまった。
「わっショイ! わっショイ!」
「ちょ、待て! まだ肝心なことを……!」
宙を舞うフロッピ。
その隙に、発車ベルが鳴り響く。
彼は「この鉄道が将来、山を登ってゾージルシ駅(魔王国)まで延伸する」という
超重要プロジェクトを発表する予定だったのだが、言う前に1番電車が出発してしまった。
まあ、パニックにならなくてよかったかもしれない。何もなかったことにしておこう。
◇
■ソルビトール商会・本店(龍の山)
俺は応接室で、捕らえた男と対峙していた。
男の名はゼネスト。
驚いたことに、彼は国一番の裏組織「闇ギルド」のギルドマスターだった。
「……なるほど。国への反逆というより、特定の貴族への私怨か」
ゼネストの話は意外なものだった。
彼が闇ギルドを作ったのは、社会で燻っている南大陸からの移民たちに、
仕事(食い扶持)を与えるためだったという。
主な業務は、工事の妨害やヤジ、集会へのサクラなど、いわゆる「嫌がらせ」レベル。
暗殺や誘拐などの重犯罪は、あえて法外な高値をふっかけることで、
実質的に受注しないようにしていたらしい。
「だが、前回の勇者襲撃と、今回の王の暗殺未遂は?」
「……隣国の貴族から、断りきれない額の依頼が来たんだ。断れば組織ごと潰すと脅されてな」
「隣国の貴族か……」
俺はニヤリとした。
よし、これで大義名分ができた。その貴族の領地を賠償として没収しよう。
あそこは平地だ。ちょうどいい車両基地ができるぞ。
「……あんたの作った鉄道工事のおかげで、俺の部下(移民)たちは真っ当な職に就けた。
それには感謝している」
ゼネストがポツリと言う。
あれほどの大規模公共工事で、末端の労働者にまで利益を分配する為政者など、
今まで見たことがないという。
「……じゃあ、なんで最後に王を殺そうとした?」
「個人的なケジメだ。
部下たちが幸せになった今、俺自身の過去を清算して、組織を解散するつもりだった」
そこで語られたのは、現王オワコンとの因縁だった。
かつて、青年時代のゼネストは王立研究所の研究員であり、ある画期的な発見をした。
長年の研究をまとめ、いよいよ大学で発表という当日。
家族に不幸があり、彼はレポートの提出を同僚に託した。
その同僚こそが、若き日のオワコン王子だった。
だが、ボタンの掛け違いが起きた。
レポートは提出されず、ゼネストは「発表をすっぽかした」として研究室を追放された。
失意の彼は商業ギルドの下働きに落ち、そこで自分より悲惨な境遇の南大陸の労働者たちを見て、
闇ギルドを立ち上げた。
数年後。
偶然再会したオワコンは、悪びれもせずにこう言ったという。
『あ、ごめんね。あの時のレポート、馬車の座席から出てきたわ』
そう言って、封筒を渡してきたそうだ。
悪気はない。
きっと本当に忘れていただけなのだろう。
だが、その「うっかり」が、一人の研究者の人生を完全に破壊したのだ。
「……ということなんだ。俺はボロボロになりながら生きてきたのに、あいつは……」
ゼネストが拳を握りしめる。
俺はため息をつき、部屋の仕切り(パーテーション)に向かって声をかけた。
「……だ、そうだ」
仕切りの向こうから、ジャガ、クレメンス、ファミマが姿を現した。
「……ごめんなさい。あんなダメ親父に人生を翻弄させてしまって」
実の娘であるクレメンスが頭を下げる。
ジャガも複雑な顔をしていた。
「実は、こいつが南の連中に慈善事業(炊き出し)をやってくれていたのは知ってるんだ。
俺の仲間達を守ってくれた恩はある」
「まあ、殴ればスッキリしたでしょうに」
「相手は一国の王だぞ、ファミマ」
ファミマの脳筋発言を諌める。
「……これが、その時のレポートだ」
ゼネストが懐から、茶色く変色した古い封筒を取り出した。
未開封のままだ。見るのも辛かったのだろう。
俺は許可をもらって封を開け、中身の羊皮紙に目を通した。
……数秒後。
俺の手が震えた。
羊皮紙って植物性の紙はないのか。
あ、パラレルの功績か。




