第28話 ゲキオコプンプン鉄道・始動
服を着るという概念を越える。喝!
チーギュウ中央駅のセレモニー会場は、異様な熱気に包まれていた。
開業記念入場券(硬券・ナンバリング入り)が、既に定価の200倍で取引されているらしい。
アホか。
切符は電車に乗ってこそだろう。コレクターの心理は分からんでもないが、転売ヤーは滅べ。
さて、本日のメインイベントは、ググレカス国王・オワコンによる記念演説だ。
これは鉄道開通を祝う名誉ある場だが、同時に「餌」でもある。
急激な改革を憎む「闇ギルド」を炙り出すための囮だ。
だからこそ、血気盛んな第3王子レスバは参加させない。
「お前は次の『アタオカ国際空港』の開港式で主役になれ」と諭し、城で待機させている。
◇
壇上に、オワコン王がゆっくりと姿を現した。
その隣には、派手な衣装の男――ジャガが立っている。
彼は通訳兼、人間スピーカーだ。
俺が作った【風魔法・音響増幅システム】を使い、
王の言葉を南大陸の言葉に翻訳して叫ぶ手筈になっている。
「……えー、この鉄道は、国民の皆様、そして特に南大陸の人々によって、
ありえない速さで完成したことを感謝いたします」
『この鉄道は! 皆と! 特に南の兄弟たちのおかげで! 爆速でできたぜ! ありがとな!』
オワコンの厳かな声の後に、ジャガのファンキーな翻訳が大音量で流れる。
俺の耳には【言語理解】スキルがあるため、
単に同じ内容をキャラ変して2回言っているようにしか聞こえない。うるさい。
パチパチパチ……(北の人々の拍手)
……ドワァァァァッ!!(一拍遅れて、南の人々の歓声)
拍手が2段階で鳴り響く。
「このチーギュウ中央駅は、終点ではございません。
東西の都市に延伸し、国境を越えることを望んでおります」
『ここはゴールじゃねぇ! スタートだ! もっとデカく繋がるぞ!』
「さて、これは希望ではなく予定なのですが……鉄道はさらに南へ延伸し、海を越え、
200km先の大陸へ進出することが決定しました」
会場がざわめく。
海峡横断鉄道。青函トンネルの4倍近い距離だ。
「後ほど希望者を募ります。またしばらくお力を貸していただきたい。
……あなた自身の未来のために」
『海を渡るぞ! 故郷まで線路を引くんだ! 手伝ってくれ!
あんたらの未来のために!』
一瞬の静寂の後、爆発的な熱狂が会場を包んだ。
南の労働者たちが泣きながら叫んでいる。
故郷へ錦を飾るどころか、故郷への道そのものを作るのだ。
これ以上のモチベーションはない。
なかなかいいスピーチだ。
つい、これが「暗殺者を釣るための囮」だということを忘れてしまいそうだ。
◇
「……では、快適な旅を」
オワコン王が原稿を畳み、満足げに壇上を後にしようとした。
俺は舞台袖の影に潜んでいた。
その時、王の死角――舞台装置の裏に、見知らぬ男が立っているのが見えた。
スタッフではない。その手には、妖しく光るナイフが握られている。
(……来たな)
俺は無言で【転移】した。
男が王の背中に飛び掛かろうとした瞬間、俺はその背後に現れた。
「……っ!?」
男が振り返る暇も与えない。
首根っこを掴み、足元の床に開いた【転移ゲート(本店行き)】へ、ゴミ袋のように放り込んだ。
ヒュン。
男の姿が消える。
すべては一瞬の出来事。
オワコン王が振り返った時には、そこには俺が立っているだけだった。
「おお、ショウ殿。いらしてたんですね」
「……ええ。素晴らしい演説でした。歴史に名を残しましたね、陛下」
「ありがとうねぇ~。いやぁ、緊張したよ」
王は笑顔で汗を拭っている。
自分がたった今、暗殺されそうになっていたことに全く気づいていないようだ。
それは何より。平和ボケもここまで来れば才能だ。
「では、私は裏の片付けがありますので」
俺は一礼して、再び闇に消えた。
さて。
本店(龍の山)に放り込んだ「ゴミ」の処理だ。
じっくり締め上げて、依頼主を吐かせるとしよう。
ゲキオコプンプン丸になるのは、これからだ。
路線名を、チューチューにしようと思ったけど、文字数足りんと思ってさ。
チューチューで良かったなぁ。




