第26話 北半球と南半球
服は着ないことにした。寒い。
居酒屋の個室で、ファミマがテーブルに突っ伏して嘆いていた。
「……もう、嫌になっちゃう。私が新規オープンのイベントに行くとさ、
必ず邪魔してくる一団がいるのよ」
「アンチか?」
「『セレブのママゴトだろ』とか『肌こすって大儲けだな』とか野次ってくるの。
まあ、確かにエステだから肌は擦るし、儲かってるから否定はできないんだけどさ」
「……そうなんかい!」
ここは俺しかツッコめないだろう。
世界の美のカリスマも、根は素直なドラゴンなのだ。
「何か言ってるだけなら、睨めば止まるけど……この前なんか、ステージに矢が飛んできたのね」
「おい、危ないだろ」
「だから掴んで、投げ返して、舞台に上がってきた奴らを全員ボコボコにして、最後に歌って締めたわ」
「……ヒーローショーですか?」
完全に後楽園ゆうえんちのノリだ。
あるいはタワレコのインストアライブで暴動が起きた感じか?
……待てよ。
観客の前で戦って、最後に歌う?
シリアルだ。
あの敏腕事務局長が、襲撃すら演出として利用したに違いない。
やりおる。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと窓口に抗議してきてほしいのよ。
お客さんに迷惑がかかるのが一番嫌。もう~、全員シバきたい!」
「……」
俺はスルーして、焼き鳥を齧った。
◇
「まあ、人には『恨み・辛み・嫉み』があるからね」
チークワンブーが冷静に分析する。
「成功者への嫉妬。金さえ払えば実行してくれる『闇ギルド』がいる限り、依頼は後を絶たないよ」
「……需要と供給ってわけね」
クレメンス(ハシガミ)がため息をつく。
そこで、ジャガが壁の世界地図を指差した。
「それとな、最近増えてる闇ギルドの構成員は、『南半球』の流れ者が多いんだ」
「南半球?」
「ああ。俺はここに流される前、縁あって海の向こうの
『サンスコン自治領』に住んでいたから知ってる。
あそこは砂漠と密林だらけで、人々は魔法を使わず、比較的貧乏な土地だった」
地図の下半分、南側はぼかして描かれている。
クレメンスが頷く。
「未開の大地とは聞いているわ。交流もほとんどないし」
「理由があるんだよ。……チーク先生、解説を」
「うむ。地球が自転するように、この星では『魔素』の流れに偏りがある」
チークワンブーが黒板に図を描き始めた。
「我々の住む北半球には、大気中に自然の魔素が濃く漂っている。
それを取り込むことで、我々は魔法を発動しているんだ。
いわば酸素みたいなものかな」
「魔素……?」
勇者パーティの魔導士、紅はるかが熱心にノートを取り始めた。
「個体差はあるけど、魔族・龍族・人族の一部がこれを利用して文明を築いた。
季節によって魔素不足が起きたりするのは、気流の関係だ」
「ああ、冬場は魔法の威力が落ちるわよね」
ファミマが同意する。
ジャガが引き取った。
「対して、南半球に住む民族は、環境的に魔素を使えない。
その分、身体能力が異常に高いんだ。
さらに悪いことに、南は巨大な魔獣や蟲が多くてな」
「……蟲?」
「ああ。魔法がないのに敵は強い。
知識を学ぶ機関もなく、貧しさゆえに、北の『闇ギルド』の勧誘に乗ってしまう若者が多いんだ」
貧困と内戦。
開発しようにも、作ったそばから壊される。
援助物資を送っても、一部の有力者に搾取されるだけ。
それが南半球の現状らしい。
「……なるほど。見えてきたぞ」
俺は腕を組んだ。
「利用される者(南の貧困層)と、利用する者(北の黒幕)を同時に叩く必要がある。
……特に、これから始まる『鉄道開発』には、頑丈な人手が必要だ」
「……だとしたら、計画を詰めないとね。人員配置も含めて」
クレメンスがニヤリと笑う。
労働力の確保と、治安維持。
これをセットで解決する策だ。
「おいパラレル。例のプレゼン、うまくいったのか?」
「バッチリっす!」
テーブルの端で、パラレルが唐揚げを頬張りながら親指を立てた。
「父上(国王)もレスバ王子も、鉄道計画に乗り気です。予算も下りました!」
役者は揃った。
次は、この計画を邪魔する「闇」を炙り出す番だ。
普通にパラレルもいる、元日本人専用居酒屋
⭐︎4.2
アットホームな空間です。




