第25話 ところで帰れるの?
寒い。まだ服を着ていない。
■ショウタウン・居酒屋互助会
地下の秘密基地は、今日もカオスだった。
カウンターの隅で、エンジニアのゴボテンと、勇者パーティの賢者・紅まさり(妹)が
何やら熱く語り合っている。
「……だからさ、小型のゴーレムをドローン形状にして、フラッシュと電撃と
GPS(位置情報)をつければいいんだよ。
ヘリに『写ルンです』を搭載するイメージで」
写ルンです……? 何ですか、それ」
リーダーの安納(18歳)が首を傾げる。
ジェネレーションギャップだ。
使い捨てカメラの存在を知らない世代が来てしまった。
「なるほど! プロペラ部分を風魔石で作れば揚力を稼げますね!」
「そうそう! 粉にして塗布するのもいい。
特に軸受を魔石にすれば、静音化も速度調節も自在だ」
「本体に『隠密』を付与すれば、完璧な偵察機になりますね!」
魔道具屋と賢者。
技術オタク同士、波長が合ったようだ。
紅まさりの就職先は、ゴボテン工房で決まりだろう。
「……フルトよ。なんでお前、家族連れで来てるんだ?」
俺はテーブル席に目を向けた。
そこには、外交官フルトと、ガタイのいい魔族の奥さん、
そして5人の子供たちがパスタを食べていた。
「いやぁ、ここ飯美味いんで。福利厚生っすよ」
「秘密倶楽部だって言っただろ……」
もはやただのファミレスだ。
俺は気を取り直して、勇者たちに向き直った。
「とりあえず、君らは冒険者ギルドに登録して、ランクAまで上げよう。
住む場所は城の客室を使えばいい。衣食住は保証する」
「あ、ありがとうございます!」
「あと、装備が貧弱だから、この素材を使って防具を作るといい」
俺は【収納】から、例の「龍のウロコ(ピザサイズ)」を4枚取り出して渡した。
「はぁ、ウロコですか。ありがとうございます」
安納が軽く受け取る。
先月転移してきたばかりの彼らは、この一枚で城が買えることなど知る由もない。
まあ、知らぬが仏だ。
◇
一通り説明が終わったところで、クレメンス(ハシガミ)が核心を突く質問をした。
「……ところで、君たち。帰れるの?」
「え?」
「私たちは死んで『転生』してここにいるけど、
君たちは生きたまま『召喚魔法』で呼ばれたんでしょ? 元の世界に戻る術はあるの?」
勇者たちが顔を見合わせる。
「……聞いてないです。まあ、こちらの生活にも慣れましたけど」
「スマホも圏外ですしね」
諦めが早い。
現代っ子は適応能力が高いのか、それとも思考停止しているのか。
「ところで……『勇者』って何なんですか?」
安納がポツリと漏らした。
自己の存在意義。なぜ自分たちが選ばれたのか。
それに答えたのは、パン屋改め経済顧問のチークワンブーだった。
「……成長補正が異常に高いってことでしょうな。あと、おそらく『死に戻り』ができる」
「死に戻り?」
「目標を達成するまで、死んでも蘇る。勝つまで負けを許されない、永遠の特攻兵器……
それが勇者の定義かもしれん」
「……全然嬉しくないですね」
安納が顔をしかめる。
「もし暗殺されても復活できるってことだぞ? 便利じゃん」
「痛いのは嫌じゃないですか! 死ぬほどの痛み味わって、また生き返るとか地獄ですよ!」
もっともだ。
ゲームならリセットで済むが、リアルならトラウマものだ。
「それで、召喚された最終目標は何なの?」
「えっと……魔王の討伐、とか?」
安納が自信なさげに言う。問いを問いで返すな。
「魔王様は、いい人ですよ。第3皇子はバカですけど」
「ですよねー」
フルトがパスタを巻きながら即答する。魔族との戦争は、この街にいる限り起きない。
「じゃあ、強いと言ったら……龍王?」
「それだったら、龍族の王子の俺を倒してからでないとな」
「無理です! 見た目同い年なのにオーラが違いすぎます! 一生無理です!」
紅はるか(姉)が全力で首を振る。
詰んだ。倒すべき敵がいない。
「……とりあえず、召喚した張本人を責めるべきね。誰なの?」
「『アボーン』大臣です」
「名前からして終わってるわね。野心の塊みたいな顔が浮かぶわ」
クレメンスが吐き捨てる。
ジャガがとりなすように言った。
「まあ一応さ、クレメンス王女が誘拐された(と勘違いした)から、
助けるために呼んだわけでしょ? 呼ばれた方はたまったもんじゃないけど」
「そうだな。……とりあえず、君らが強くなったら、まずは『闇ギルド』を潰そうか」
俺は提案した。
城で俺たちを襲撃してきた連中だ。明確な敵意を持っている。
「実戦経験にもなるし、街の掃除にもなる。どうだ?」
「へぇー。面白そうじゃん」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、階段の途中にファミマが立っていた。
サングラスの奥の目が、獲物を見つけた肉食獣のように輝いている。
貴族焼き(モモ・タレ)食いたくなってきた。
行くか! やめておこう。




