第18話 上空からのハネムーン
この職場唯一の良いところは、帰り道にうまいラーメン屋があるという事だ。
それもまた、二〇系のようなやさぐれた感じでなく、穏やかな醤油系だしのラーメン。
何のだしなのか知らん。メンが柔らかなのでおじいちゃんのオラにやさしい。
あー優しくしてほしい。猫飼いたい。
魔王国の外交官として、異例の出世を果たしたフルトはご機嫌だった。
彼は地図を広げ、故郷である魔族の国――正式名称【ゾージルシ王国】の素晴らしさを語りだした。
「我が国の主な産業は魔石っすね。魔道具の動力として使われる鉱石で……」
「……魔道具?」
俺の脳裏に、ある男の顔が浮かんだ。
ゴボテン(松下ソニ雄)。 彼はエンジニアだ。
魔石の話を聞けば喜んで飛びついただろうに。
……まあ、いいか。忘れていたものは仕方ない。
「でも、土壌が悪くて作物が育たないんすよねぇ」
「なら、芋類を育てろよ」
横から口を挟んだのは、チークワンブーだ。
「痩せた土地なら根菜だ。それに光魔法と水魔法を組み合わせれば、屋内での水耕栽培も可能だぞ。
設備投資は必要だが、ペイできる」
「マ、マジっすか……!」
フルトが驚愕している。
パン屋だと思っていた男が、国家レベルの農業改革案を出し始めたのだ。
まさに知の巨人現る。
もしこの異世界に秩序があったら、チークワンブーは王になっていただろう。
魔族側の転生者が、このポンコツ(フルト)しかいなかったのが悔やまれる。
◇
フルトの話によると、ゾージルシ王国には手先が器用なドワーフが多く住んでいるらしい。
彼らは蒸留酒や特殊金属の加工が得意だが、魔族もプライドが高いため、冷遇されているそうだ。
俺は彼らをスカウトすることに決めた。
本店の近くに蒸留所を作りたい。
「よし。俺が龍族の使者として入国しよう」
「えっ、私も行く!」
ファミマが手を挙げた。
支店巡りを兼ねて、魔王国へ行きたいという。
……お? これは、実質的な「新婚旅行」になりえるのではないか!
同行するフルト(ガイド)とシリアル(付き人)が邪魔だが、まあ良しとしよう。
◇
位置関係からして、龍の山を下ればすぐにゾージルシ王国だ。
だが、ドラゴン姿で降り立てば戦争になる。
そこで俺たちは、特製のパラグライダーで優雅に下山することにした。
「ヒィィィィッ! ぅぅぅ!」
シリアルが白目を剥いて固まっていたが、絶景だった。
およそ2日で、首都【タイーガ】に到着。
国境で若干警戒されたが、龍王の親書と外交官フルトの案内により、VIP待遇で宮殿に通された。
魔王との謁見。
俺はサプライズとして、【転移魔法】で龍王ホエイパウダを呼び出した。
「「!!??」」
魔王と龍王、トップ同士の緊急会談だ。
俺は仲介役として、魔石と食料の貿易、および農業支援(チークワンブーの知恵)を提案した。
食い物がないから、戦争を仕掛けてくるのだ。
腹が満たされれば、争いは減る。
交渉は成立。
交流の証として、ドワーフの技術者たちを龍の山へ派遣してもらうことになった。
◇
一通りの外交を終えて、残りは観光だ。
フルトがニヤニヤしながら近づいてきた。
「へへっ、ショウさん。夜の繁華街、いい店ありますよぉ?」
「バカ言え。新婚旅行(という名目)なんだぞ。嫁(予定)を置いて行けるわけないだろうが!」
俺は丁重に断り、グルメツアーへと切り替えた。
ゾージルシは、豚肉料理が有名らしい。オーク肉だろうか?
フルト曰く、彼がソーセージと生姜焼きを普及させたそうだ。
「ほう。じゃあ、燻製もあるのか?」
「くんせい? なんすかそれ」
「……保存食としての価値が上がるだろ。あと、餌のビート(甜菜)から砂糖が取れることは?」
「えっ、砂糖になるんすかアレ!?」
俺は頭を抱えた。
転生者あるあるだろうが! そこは基本だろ!
やはりこいつは食への執着が足りない。
さらに北へ足を伸ばすと、海があった。
冬は流氷で閉ざされる極寒の海。
そこではカニ、タラ、アンコウなどが獲れるという。
「アンコウか。アンキモ(肝)は?」
「捨ててますよ。あんなグロテスクなもん、食えるわけないっしょ」
「……はぁ?」
俺は信じられないものを見る目でフルトを見た。
「貴様、『美味し〇ぼ』を読んだことがないのか?
アンキモは『海のフォアグラ』と称された至高の食材だぞ!」
「いや、知らないっすよ……」
「それに、捌けるやつなら知り合いにいるだろ。地下に」
居酒屋店主兼デザイナーのジャガだ。彼なら完璧に調理できるはずだ。
フルトの偏食のせいで、この国の食文化は未開のままだ。
こういう食材を、俺の食卓(と龍族)に回してほしいのだ。
俺は決断した。
首都タイーガに、【ソルビトール商会・タイーガ支店】を設立する。
表向きは貿易拠点だが、実態は「俺のための食材調達所」だ。
ついでに、フルトが自由に行き来できるための転移ポイントにもなる。
「……ショウさん、また勝手に支店増やして。ファミマさんに怒られますよ?」
「大丈夫だ。名目は『龍族のため』だからな。俺も一応、名誉龍族だし」
こうして俺たちは、ドワーフと新鮮なアンコウを土産に、転移で一瞬にして帰宅した。
ハネムーンらしい甘い時間は……まあ、アンキモが美味かったから良しとしよう。
タイーガ支店は誰が支店長になるのかな?
ショウタウン支店長も定めてないのに。バイトか契約社員かな。
商業ギルドに派遣してもらうんだろうね。
そうなると、いろいろバレちゃうんだろうね。
あのヌルヌルはアロエか!椿油か!とか。まぁカリスマがいるからいいけど。




