第16話 秘密を守るのは難しい
山田うどん食堂のそばが好きだ。
以前、袋を破って茹でているところをみたが好きだ。
バイトで働けば、半額で食えるのでちょっと考えている。
パンチも好きだし。
ただ、近くの山田うどんが8km先にある。
雨の日、原付で通うのがつらい。
ソルビトール商会・ショウタウン支店のはす向かい。
その地下に、我らが秘密結社「互助会」の拠点が完成した。
だが、入口には既にきらびやかなスタンド花が飾られていた。
『祝・開店! 秘密倶楽部・互助会様へ コンスターチより』
……バカか、あいつは。
龍の里への配送業務ばかりさせていたから、こちらの事情(隠密行動)を知らんのだろう。
秘密を守るのは難しい。
◇
ダンジョンでの定期素材回収(&テレワーク)を終え、俺は地下への階段を下りた。
扉を開けると、そこは完全に日本の「居酒屋」だった。
「へい、らっしゃい!」
威勢のいい声で迎えてくれたのは、マスターのジャガだ。
カウンターの中で、見事な手つきで刺し身の「舟盛り」を作っている。
元看板描きの芸術センスがこんなところで活きている。
客席には、揚げたパスタ(塩味)をポリポリ齧りながら、
レモンサワーで出来上がっているフルトがいる。
ここは〇民か? それとも笑〇か?
テーブル席では、チークワンブーが真剣な顔で地図を広げ、ショウタウンへの引っ越し先を探していた。
なお、エンジニアのゴボテンは、荷物をまとめるために一時帰国中だ。
「……フルトよ、仕事は?」
「ウィ~……俺ぁ、この都市と龍族の関係を調査するために潜入してるんすよぉ。
酒も経費(税金)で落ちるから平気ですって」
ダメだこいつ。
チークワンブーが呆れた顔で地図を見つめている。
「知ってます? あの『ギルガメッシュ・ライト』のバックには、龍族がいるらしいっすよ」
「ほう」
「ファミマって社長が怪しいんすけど、さらにその裏に……繁栄をもたらした『謎の人間』が
住み着いたって噂でぇ……」
鋭い。
酔っ払っている割に、核心に迫っている。
その時だった。
コツ、コツ、コツ……。
階段を降りてくる、軽快なヒールの音が響いた。
「へい、らっしゃ……い?」
ジャガの声が裏返る。
扉を開けて入ってきたのは、ビシッとしたスーツ姿の美女。片手には高級そうなケーキの箱。
ファミマだった。
「ショウいる~? 美容液の原料が切れかかってて」
一瞬、室内が凍り付いた。
世界的企業のトップが、こんな地下の怪しい店に降臨したのだ。
「……お前なぁ。ここは会員制の『秘密』倶楽部だって言ったろ」
「ずるいじゃん。ショウは1階(龍族専用VIPサロン)にも入れるのに、
私がここに入れないなんて不公平よ」
ファミマが頬を膨らませる。
すると、チークワンブーが眼鏡を光らせた。
「……入会、OKです」
「おい!」
オーナー(俺)の意向を無視して承認された。
ファミマは興味津々でカウンターを覗き込む。
「あ、これがお刺身? すごいキレイ! ねえ、これ1階のサロンでも食べたい」
「デリバリーします!」
「やったぁ!」
ジャガが即答した。
脆くも秘密倶楽部は崩壊した。
「……ファミマさんは、創業者であり、龍族の王女なんですね?」
ジャガが恐る恐る聞く。
ファミマはケーキの箱を俺に押し付けながら、満面の笑みで答えた。
「そうよ。そしてショウは私の……だ・ん・な・さ・ま。キャッ!」
ぶほっ!
フルトがレモンサワーを吹き出した。
魔族のスパイの前で、国家機密が垂れ流されていく。
「ショウは世界一の魔法使いなの。私、負けちゃったし。魔法だけじゃないわ。
商会だって、この街の発展だって、全部ショウの賜物よ!」
「……え?」
チークワンブーがバッと立ち上がり、俺を指差した。
「……お前だったのか!!」
見た目15歳(中身50歳)の少年が、この街の黒幕であり、日本文化の伝道師。
点と線が繋がった瞬間だった。
そして、もう一人。
フルトがゆっくりと立ち上がり、出口へと歩き出した。
「おいフルト、どこ行くんだ」
「いやぁ~、仕事(調査)が終わったんで。本国に帰って魔王様に報告しようかなって」
「待て待て待て! 座れ! ステイ!」
俺は慌ててフルトの襟首を掴んだ。
こんな情報が魔族に渡ったら、俺の「隠遁生活」は終了だ。
魔王軍が総出で攻めてくるか、ヘッドハンティングに来る未来しか見えない。
「……店じまいだ」
俺はため息をついた。
秘密倶楽部、のちの「個室居酒屋・互助会」は、本日の営業を終了する。
「全員、本店(龍の山)へ移動だ。……会長を交えて、じっくり話そうか」
俺たちは【転移門】をくぐり、逃げ場のない龍の巣へと移動することになった。
まず、魔族とは何かを考えたい。
魔族 - ピクシブ百科事典
魔物や悪魔など「魔」に属するものをひとくくりにした創作用語。
魔法が使えれば、魔族になるとしたら、龍族も魔族になるのではないか?
ソーセージは、ひき肉を皮に詰めた「総称」で、ウィンナーは羊の腸に太さが20mm未満のものだ。
つまり、魔族はソーセージで、龍族はウィンナー。
そう、みんな仲間だ!




