第01話 スリップに気をつけよう
壮年期のおじさんです。
色々と読ませていただいて、本当にありがたく思っております。
アニメ化されたものを見て、「あ、こうなったかぁ」みたいな確認作業が楽しく。
ただ、オッサンが40代という設定が、自分とはズレてきたなぁと思い、
だったら書いちゃおうかなぁとやっているわけです。
見せる仲間がいないので、Geminiに読みやすくしてもらってます。
邪道であるかもしれませんが、それはそれで。ひっそりと。
1月。
都心のオフィスビル、フロアの隅にあるデスクにて。
早生まれの私は、昨日50歳になった。なってしまった。
最終学歴は専門学校卒。
若い頃はゲーム制作しかしていなかったが、VBAが組めるという一点のみで、
この一流企業のオフィスに派遣として寄生させてもらっている。
VBAとは、Officeソフトをプログラムで自動操作するものだ。
暇つぶしに覚えたスキルだが、月末処理や集計にはそこそこ役に立つ。
とはいえ、作業は月末にボタンを押すだけ。
それ以外の時間は、画面の端でこっそりと「なろう系小説」を読み漁り、
寝落ちしないように努力するのが仕事だ。
そんな昼下がり、派遣元の担当営業から内線がかかってきた。
内容は簡潔だった。
『来期からの契約更新は、ありません』
わかっていた。
俺はいらない人間だ。たまに寝てるし。
それに今の時代、VBAなんて古臭い。
時代はクラウド、PythonやGAS(Google Apps Script)だ。
50歳のおっさんには、新しい言語を覚える気力も、それを許してくれる席もないのだ。
◇
というわけで翌日。
俺は傷心を癒やすためにキャンプ場へ向かっていた。
かつて震災の時、さいとう・たかを先生の『サバイバル(ワイド版)』を読んで目覚めたソロキャンプ。 YouTubeでヒロシの動画を見ながら少しずつ揃えたギアで、足元も背中のリュックも、
原付のリアボックスもパンパンだ。
都心から離れるにつれ、霧が出てきた。 濡れた上り坂に、中古の原付が悲鳴を上げている。 バックミラーを見ると、大型トラックがイラついたように車間を詰めてきていた。
(……怖いな。先に行かせるか)
俺はウィンカーを出し、路側帯へ寄ろうとした。
だが、そこには排水溝の蓋があった。
鉄製のグレーチング。霧で濡れた鉄板。
ブレーキを掛けてはいけないタイミングで、俺は無意識にレバーを握ってしまった。
世界がスローモーションになる。
タイヤが横滑りし、身体が宙に浮く。
白い霧の中へ落ちていく感覚の中で、俺は妙に冷静に思った。
(ああ、これが「先立つ不幸」ってやつか) (痛いのは嫌だなぁ……)
◇
目を開けると、そこに見知らぬ天井……は、なかった。
ただ白い空間が広がっている。
長年「なろう系」を読んできた俺には、ピンとくるものがあった。
「……もしかして?」
『お気づきですね。では端的に話しますが、一番理解がありそうな貴方が選ばれました。
もちろん私は、この世界担当の神です』
どこからともなく声が響く。姿は見えない。
「ありがとうございます。でも、期待しないでくださいね。魔王を倒して世界を浄化しろとか」
『いえいえ。最初はそのつもりで何人か送ったんですが、どうも上手くいかなくて……。
今はもう惰性で回してるんで』
「ありがたい。そういうのが一番助かります」
ブラック企業のノルマより、神様の惰性の方がマシだ。
『では、能力を渡して移住してもらいますが、何が欲しいですか?』
「【収納】と【転移】、あとは【言語理解】で」
『……即答ですね』
反射のように言葉が出た。15年間、妄想し続けてきたセットだ。
『もっとこう、ネット通販のスキルとか、強力な聖剣とかは?』
「そういう便利なものに頼るから、面倒事に巻き込まれるのが常です。派手な攻撃魔法もいりません」
神相手に、俺はきっぱりと言い切った。 おっさんの処世術を舐めてはいけない。
『そうですか。まあ、何もないのもアレなんで、おまけに初級魔法セットくらいは付けておきますね。
では、いってらっしゃ~い』
軽い。
寝そべっていた床(?)に、森の映像がワイプ画面のように表示された。
そして、身体が沈んでいく。
「あ、俺! 俺は、向こうでは何もしませんからねぇぇぇ……!」
俺の叫びと共に、意識は森へと吸い込まれていった。
◇
通称・魔の森、深部。
朝か昼かもわからない。
鬱蒼とした巨木が密集し、木漏れ日がチラチラと差し込んでいる。
その根元で、俺は目を覚ました。
「……はいはいはい。新たな人生の始まりですね。神様ありがとうございます」
パンパン、と両手を合わせて一応の感謝をする。
身体が軽い。
節々の痛みもない。
視点も低い気がする。 と
りあえず、お約束を確認しよう。
「では、ステータス・オープン」
目の前に半透明の板が現れた。
名前の欄に、四角いカーソルが点滅している。
「まずはここからだな。ふふ、入力する名前はずっと決めてあるのさ」
俺はキーボードを叩くような仕草で、空中に文字を走らせた。
板に『ショウ』と刻まれ、各項目に数値が流れるように表示されていく。
C:\> STATUS_CHECK.EXE
----------------------------------------
NAME : ショウ
AGE : 13 (Soul:50)
JOB : None (NEET w)
STATUS: NORMAL
HP : LOW (Energetic)
STR : LOW (E-rank)
MP : BLACK_DRAGON (Error:Too High)
SKILL:
> SWORD [D] (Average)
> SPEAR [S] (National Level)
> MAGIC
+ FIRE [v.1.0] (Elementary)
+ WATER [v.1.0] (Elementary)
+ WOOD [v.2.5] (HighSchool)
+ EARTH [v.1.5] (JuniorHigh)
+ VOID [v.99.9] (Doctor)
- Teleport
- Storage
- Language
----------------------------------------
C:\> _
「……DOS画面かよ」
黒背景に緑の文字。
50歳のおっさんだから分かる、Windows普及前のパソコン仕様だ。
懐かしさと共に、自分の年齢(肉体年齢13歳)とのギャップに苦笑する。
ウォオオオオン……
遠くで、腹の底に響くような獣の咆哮が聞こえた。
俺の「危険察知アンテナ」がビンビンに反応する。
「今タヒんだら、15年間溜め込んだ妄想を活かせないではないかッ!」
俺は近くの巨木を見上げ、猿のようにスルスルと登った。
50歳の時には考えられない身軽さだ。
地上5メートル付近。太い枝が二股に分かれている場所を見つける。
「よし。>収納<」
イメージする。
空間に立体的なワイヤーフレームの線が走り、指定範囲を囲む。
次の瞬間、邪魔な枝葉がごっそりと消滅し、【収納】魔法の中に吸い込まれた。
木の密集地に、ぽっかりと平らな空間が出来上がる。
「すんなり使えたわ。さすがバージョン99.9、博士級だ」
続けて、今収納したばかりの木材を加工し、その空間に並べていく。
無理やり感のあるウッドデッキが完成した。
ガタガタして不安定なので、土魔法で隙間を埋めて床を作り、簡易的な壁も立ち上げる。
これで寝返りを打っても落ちることはない。
「……だが、天井がないな」
空を見上げる。
雨が降ったら終わりだ。
俺の異世界生活、初日の課題は「屋根の確保」に決まった。
忍びます。




