表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

5.変則片時

「……手伝えってどうやってだよ!」

 手帳に新たに書き殴られていた文字を見て大月は思わず叫び、周りの視線に気がついてふぅ、と溜息をついた。

 時計を見れば十八時半だった。何かを調べに歩き回るには、些か足りない時間だと思い自然と妹を見れば、麗菜は小さく両拳を自分の胸の前で作って、応援するように笑顔を作った。

「頑張れって言いたいみたいだなぁ」

『うん、お兄ちゃん頑張って!』

 近くに感じ取れる距離にいても、兄には声が届いていない。それを知りながらも麗菜はもう一度笑みを浮かべていた。

「考えててもしゃーない、動くか」

 自分自身に気合を入れるように、両手を組み合わせ大きく伸びをしてから手帳へ目を向け驚いた。

 ほんの一瞬のことだと思っていたが、嵐が書き込んだと思われる文字は、いつの間にか増えていた。

「何だコレ……? AB9D5XE S/SY、9AKO18E9AK5XE……」

 乱雑に増えていく文字は今もなお、淡い緑色の光を浮かび上がらせ増えていく。

 場所も選ばず書き込まれていく文字は、時折重なり先に刻まれていたものを消してしまっていた。

「……さっぱりわかんねぇよっ」

 流石に大声こそ出さなかったものの、頭を抱え込み唸り声を上げているとふと違和感を感じてピタリと止まった。

「……何かおかしくないか、それ?」

 突然振って沸いたように聞こえた疑問めいた声は紛れも無く嵐の声。

 大月はガバッと顔を上げ、怪訝そうに向けられていた彼の顔をマジマジと覗き込んでいた。

「何だよ」

 紛れも無く、大月の前にいたのは空になったペットボトルを弄ぶ嵐だった。

「え、あれ? 何で?」

 確かに自分の目の前で姿を消した友人が目の前にいた。

 それに酷く混乱していると聞き慣れた溜息が聞こえた。

「お前、自分で話してた内容も忘れたか?」

 辟易とした声色で問われ、大月は再び頭を抱えて、もう一度時計を見た。十八時半少し前を映し出すデジタル時計に大月は再び違和感を感じた。

「あれ……? わ、悪い。何処まで話したっけ?」

 深呼吸しながら自分の頭の中を整理するために頷き、促した。

「だから、返事したらどこかに連れて行かれてある日突然帰って来る。記憶もなくして、だろ?」

 明らかに燻しがる嵐に、大月は何度も大きく頷いて「確かに言った」と呟き手帳へ目を向けた。

「……字が、消えてる」

「どうした?」

「ちょ、ちょっとマテ! 整理させろ! 麗菜は? 麗菜はそこにいるのか?」

「隣に居るが?」

 突然どうしたと眉間に皺を寄せながら嵐が答えれば、もう一度見えるようにしてくれと頼まれ首を横に振った。

「断る。他人にそう何度も使うものじゃない」

 そう含めて彼は麗菜の方へ目を向けた。

 幼い少女は不安げな表情を浮かべて兄を見つめていた。

「麗菜、お前も見たよな?」

 何処か縋るように問いかけてきた兄に、妹は嵐へ一度目を向けて首を捻った。

「何をだ?」

「……覚えて、ない?」

 同じ時間同じ場所にいて一人、取り残された感覚に大月は呆然と呟き二度目の時計を見た。

 時間は丁度十八時半を示していた。

「それより、説明の先はどうした?」

 苛立ちを含めた声色に大月は、肩を跳ね上がらせ手帳を開いた。

『まだ使ってくれてるんだ』

「ん?」

 嬉しそうに兄の手帳を見る麗菜へ目を向けると、少女は顔を赤らめて嵐へ伝えていた。

 それを視界の端で見ていた大月は、自分の記憶を辿ってニヤリと笑った彼と同じタイミングで口を開いた。

「「その手帳、大事に使えよ」」

 重なった声に驚いたように目を向けた嵐と麗菜に、大月はやっぱりと深く溜息をついた。

「お前、聞こえたのか?」

 当然のように問われ、大月は首を振り携帯を取り出した。

「もしかしたら、修の奴家に戻ってるかも……」

「どういう事だ?」

 彼はそれに応えるより先に携帯の発信履歴からもう一人の友人の携帯番号を呼び出し、通話を押そうとして、止められた。

「まて、修のケータイ、今俺が持ってる」

「そうなのか? なら、家に直接電話してみるか」

「おい」

 先に説明を求める嵐を押し止め、修の自宅の電話に掛けると容易に繫がり、修本人が出た。

 相変わらずのほほんとした、和やかな声は大月の携帯からも零れ出て嵐の耳にも届いていた。

「予想当りか……」

「説明しろ」

 明らかに低くなった友人の声に、いつもなら気圧されるところだったが何度か頷いてから、手帳を嵐へと手渡した。

「……?」

 受け取った彼はその手帳から僅かに感じたモノに、不思議そうに手を当て瞳を閉じた。

 感じたのは間違いなく自分の力の鱗片。

「一体何時、お前の手帳に触ってた?」

「連れて行かれる前だ」

 はっきりと言われ、嵐は一層眉間の皺を深くしたが目の前の友人が嘘をついているとは思えなかった。

 なら、何時だ……?

 宿らせていた力の欠片に今の自分の欠片をぶつけ、響かせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ