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3.三人寄れども

 ねえ、聞こえてる?


      ねえ、知ってる?


ねえ、誰か。



◇◆◇◆◇◆◇


 歩いても十分は掛からない距離にある、ディスカウントストア。

 元々あった中古ショップと料理店の二つを買い取り、新たに出来た店。店内は広く様々な商品がダンボールを加工した棚に高く積み上げられていたりと、視界は悪い。

 その上、今は部活動を終えた学生たちの帰宅時間とも重なり余計に人が多い。

 嵐はその人の多さに舌打ちを隠しながら、小柄なクリーム色の髪を目印に探すがやはり見当たらなかった。

 たかが買い物に出て一時間程度なのだが、お菓子作りを途中にしたままで他の買い物に没頭するのは修らくしない。

 一通り修が居そうな製菓売り場から、隅々まで探すがやはり姿は無い。

 念のため持ち出してきた修の携帯を確認するが、先ほどあった大月からの着信が最後のまま。

「あのヤロウ……」

 思わず口を吐いて出た悪態に近くに居た女子生徒がビクリと体を震わせ、そそくさとレジに並ぶ友達の傍へと逃げていった。

 大月と交わした約束の時間までまだ少し早く着きそうだが、他に思い当たる場所も浮かばず先に向かうことにした。


 外は既に暗くなり、待ち合わせた場所は近くにある店々の明かりだけで照らし出されていた。

 丁度、信号待ちとなりブレーキを掛けると、同じように大月も到着したようで自転車に乗ったまま通行の邪魔にならないよう、ガードレールの外側で止まる姿が見えた。

 通り過ぎる車が巻き起こす風に遊ばれる前髪を邪魔そうに掻き揚げ、信号が変わるのを待っていたその時、ふと朧気に光を放つものが見えた気がしてなるほどと唸った。

 そして、ようやく信号が変わり大月に声を掛けそのまま近くのコンビニの駐車場の端に互いに自転車を止めた。

「やっぱその様子だと修のヤツ戻ってないみたいだな」

 首筋を掻きながら溜息をつく大月に嵐は頷き返し、そのまま視線を道路の向こう側へと飛ばしていた。

「……なんか、このタイミングでそう視線を向けられると怖いんだけど」

「視たいか?」

 いきなり問いかけられ、大月は眉間に皺を寄せて少し考えてから頷いた。

 いつかの様にふらりと広がった風に一瞬目を閉じ、ゆっくりとその視界を開いた。

「兄としてはちゃんと天国に行っていて欲しかった」

 芝居がかったように涙を拭う仕草をする大月に、嵐は冷たい視線を返した。

 二人の目の前には朧気に向こう側の景色を映しながら見上げる幼い少女が立ち、何か怒るように大月へ詰め寄った。

「酷いだとよ」

「……前と違って声は聞こえないわけね」

「時間も悪いからな。それより麗菜、わざわざ如何した?」

「あれ、オレは置いてきぼりですか? そうですか……」

 妹の姿を見る事は出来ても、声を聞くことは叶わなかった大月は明らかに落胆して自転車から降りた。

「大月、ゼロティー頼むな」

「おごらねーからな!」

 事も無げに頼まれた物が嵐が最近気に入って飲んでいる紅茶だと直ぐに理解したが、大月がしっかり釘を刺すと、ずっと不安げな表情を浮かべていた麗菜が小さく笑みを零した。

 店内に入りふと外を見ると嵐は携帯へ視線を落としていた。

「なるほど、こっちじゃ麗菜の姿は見えないのか」

 雑誌コーナーのガラス越しに見えたのはいつもと何も変わらない風景だった。

 嵐と同じ紅茶のペットボトルを選び会計を済ませると、携帯が大きく鳴り足早に店内から出て画面を確かめた。

 非通知拒否設定しているはずなのに、その画面には非通知表示がされていた。

「うわ……嵐、頼む!」

 躊躇いもなく不審な着信に大月は自分の携帯を友達へと投げつけた。

 そして、いきなり投げ渡された嵐は一瞬だけその視線を麗菜に向けてから通話ボタンを押した。

 ザザッと広がるノイズに顔を顰め、沈黙のまま耳を傾けたが直ぐにブツリと切れてしまった。

「んで、誰からだった?」

 嵐の目の前にペットボトルを差し出し、代わりに携帯を受け取った彼は再び自転車に跨った。

「さぁな」

「何だよその反応」

「誰、と問われても思い当たるものがないだけだ」

 意地悪く返した嵐に、大月は眉間に皺を寄せて首を捻るがふむりと唸り、「なんだったんだ?」と問い直すと、彼はそう来たかと表情だけで返した。

 そして、一度目の前に佇む麗菜へ視線を向けなおすと彼女は思い切り首を横に振った。

『ダメ! お兄ちゃんに、危ない目にあってほしくないモン』

 幼い愛らしい声できっぱりと言い放った彼女に嵐も心の内で同意を示した。

「なんか、すっごい反対されてる?」

 能力(ちから)の影響がまだ続いていることを、麗菜は気がつき今度は泣きそうに瞳を潤ませて嵐を見上げた。

「されてるな。ここは妹の顔を立ててやるか?」

「お、そう言う事を言うか? 修が関わったことに心当たりあるのになぁ」

 互いに意地の悪い笑みで睨みあい、おろおろと二人を見比べる麗菜に先に根を上げたのは嵐だった。

「んで、なんだよ。その心当たりってのは?」

「まずは、そっちが情報提供するのが常識だろう?」

 あくまで先手を取らせないようにする大月に、今度こそ嵐は諦めた。

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