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1.うわさばなし

  ねえ、しってる?


    ねえ、知ってる?


ねえ、シッテル?



 ねえ、ねえっ、ねえってば!!



◇◆◇◆◇◆◇


 昼休み、連休を前に教室の隅で女生徒たちが集まり、遊びに行く計画を立てる賑やかな声を遮るように携帯電話に入れていた音楽の音量を二つほど上げる。

 同時に、それは購買からの戦利品を手にして戻ってきたパシリ……もとい、友人の声も遮る結果になっていた。

「嵐、おい、竜堂嵐くんやーいっ!」

 本当に寝ているのか確かめるように大月は、机の上に頼まれたものを置き自由になった手で、うつ伏せになり自分の腕を枕にしていた彼の長い黒髪を引っ張った。

「……こわっ!」

 機嫌を悪くした嵐は眉間に皺を寄せ下から睨み上げるように顔を上げ、大げさに驚く素振りを見せ、手を離した彼はへらへらと笑いながら前の席に着いた。

「何しやがる」

「なんだよぉ、そう言ったって呼んでも返事返さなかったのお前じゃん」

 しれっと当たり前のように言い、自分用に買ってきていたカフェオレへと口をつけ嵐の前に改めて頼まれていた紅茶のパックジュースを差し出した。

 反論も特に返せず、イヤホンを外し音楽を止めると、ようやくまともに体を起こし、まだ騒ぐクラスメイトたちの方へ視線だけを向けた。

「なに、気になるの?」

「煩いだけだ……」

 からかう大月の言葉へ、剣呑な視線を向け返すが今度は怖がる素振りもなく彼は「あぁ、なるほど」と頷き返すだけだった。

「修の奴が……だろ?」

「それも、だな」

 いつもなら隣のクラスからわざわざ昼食を共にするためにやってくるのだが、今日に限ってまだ現れていないもう一人の友人立花修。

「朝も一緒だったんだろ? 全然来る気配ないな」

「あぁ、調理実習でいないんだろ」

 言ってなかったか? と、付け加えながら大月の手元からツナサンドを自然に奪い取っていた。

「そっか、どおりでいつも見る奴らが居なかったわけだ」

「おかげで静かで良い」

「んな事言ってたと報告、するまでもないなぁ」

 廊下の方へ耳を澄ませるよりも先に、修本人の声が聞こえてきた。

 急ぎ足でこちらに向かっているのか、謝る声が殆どだ。

「あっちゃーん、おーちゃん! 見てみて~!」

「おう、見せて見せて~」

 ふわふわの短いクリーム色の髪を跳ねさせながら、満面の笑みを浮かべて開いていたドアから飛び込むように入って迎えた大月は両手を広げて歓迎を示した。

 そして、嵐はその二人を見て他のクラスメイトに背中を向けて頭を抱え込んでいた。

「お前ら、そのノリどうにかしろよ」

 鬱陶しいと態度に示すだけ示し、溜息をつく。

「ダメだよ、あっちゃん。溜息つくと幸せ逃げるんだよ! 知ってた?」

「知るか」

「ひどいっ!」

 はぅ……と声を詰まらせ、へにゃりと落ち込んだ修に嵐は視線を合わせず、大月は宥めるように笑って修を促した。

「んで、修は何作ってきたんだ?」

「そうそう、クレープ作ったんだよ♪ 簡単なのばっかだけど、おいしいよ」

 自慢げに紙皿の上に乗せてあるクレープを二人の前に差し出し、中身の説明を始めた。

「イチゴ、ブルーベリー、バナナにあと先生に許可貰ってカスタードクリームも作ったの!」

「お菓子に関してはホントに凄いよなぁ、修は」

 プロ顔負けとまでは言わないが、大月は感心したようにたっぷり生クリームに綺麗にスライスされたイチゴが顔を覗かせるクレープを手に取った。

「えへへ~、でもおーちゃんも料理上手だよね。今度また、お弁当交換しようねぇ」

 絶え間なく笑顔の修に、友人も釣られるように笑顔を向けるが嵐はそのやり取りすら面倒と言わんばかりに視線を二人から外し外へと向けた。

「おやおや、嵐君は話に入れず不貞腐れたようですぞ?」

「う? そうかな? あ、あっちゃん用に桃クレープも作ったよ」

「うん。修……頼むからお前が流さないでくれ、ちょっと寂しいじゃないか」

 からかおうとして巻き込みたかった相手は全く気が付かず、もう一つ別に持ってきていたクレープを嵐の前に差し出していた。

「いらん」

「えー! 甘くないのでちゃんと用意したんだよ。食べてよ~」

 にべもなく突き放す彼に修は諦めずに紙皿ごと前に差し出し、嵐は大げさに溜息をついて受け取った。

「お前、どうせ家でも作って食わせる気だろうが」

 部活に所属していない修は家に帰ってから夕食までの空いている時間によくお菓子を作っている。それは構わないのだが、それを食べさせられる羽目になる本人は如何せん甘いものが得意ではない。

 そんな他愛もない話しがふと途切れた瞬間、誰かの話す声がやけに耳に付いた。



   ねえ、知ってる? 答えちゃいけないって噂。


   あ、知ってる! って言うか、その質問自体ヤバイッしょ~。


   でもさ、あの噂マジっぽいよー。



 きゃあっ、と悲鳴のような笑い声に顔をしかめた嵐を見逃さずに大月は修に同じ話題を振った。

「んー、聞いたことあるような? でも、詳しくは全然」

「くだらねぇ。お前もつくづく好きだな……」

「いやいや、でも情報(うわさ)は大事だと思うぜ」

 話したくて仕方がないといった風情の大月に無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「ちぇ、まあいいや」

「気になるなぁ……あ、放課後にまた教えて!」

 クラスの違う修は大月と同じように残念と呟き、浮かんだ名案に手を叩いて提案したが彼は「悪い」と先に謝った。

「今日はフジワで買い物しないといけないからさ。また明日にでも教えてやるよ」

「あー、そっか火曜市の日だもんねぇ。それじゃあ、明日約束だよー」

 にぱっと笑い空になっていた紙皿を片付け、そのまま大きく手を振って自分の教室へと戻っていった。

 

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