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PARTⅠ カードカフェ 【4】進路

「たまにはみんなでおうちランチするか」

 お盆も終わり客の入りも落ち着いたある日、マスターが言った。弥生がみんなの都合を聞き、来週の月曜と決めた。

 週明け。〝定休日〟の店内に朝から明かりが。何卓かを集めたテーブルにクロスが掛けられ食器が置かれた。

「みんな揃った?」

 マスターが見渡した。

「通して顔出すのは俺と弥生だけだから。簡単な紹介から。水・木・金の箭内さんと女屋さん。土・日の美咲(みさき)ちゃんと真音(まのん)ちゃんと理来(りく)君と萌ちゃん。それと水・金の里夢さんこと芙美ちゃん」

 女子大生二人がさり気なくを芙美を見た。

「それじゃ。始めるか」

 弥生が運んで来たワゴンのケーキに主婦達は幸せ顔に。萌がコーヒーを淹れた。

「いい香りですよねぇ」

「こんな一杯を毎朝誰かに淹れてもらえたら……」

「夢の夢ですよねぇ」

マスターと理来は顔を見合わせ含み笑いを浮かべた。

みんながじっくり選ぶ中、芙美はさっさとパンプキンプリンとミルフィーユを取り、近くのテーブルへ。弥生もやって来た。

「ねえ弥生さん。レジ下の箱に入ってるの何ですか? あったりなかったりするけど」

 聞きながらミルフィーユにナイフを入れた。

「小袋のこと? あれは予約のクッキー」

 弥生はザッハにフォークを。

「クッキー?」

「そう。あそこに置き始めたんだけど、すぐなくなるから予約する人もいるのよ」

弥生はモグモグしながら、左手でドア近くの台を指した。

「奈津子さんが分けて欲しいって言ったのが最初なんですよ」

 隣のテーブルにいた箭内が身を乗り出した。

「ここ、来ない?」

 弥生が横にずれ、箭内が芙美の前に来た。

「あの人奈津子さんて言うの?」

 口元をナフキンで拭いながら弥生が聞いた。箭内は「はい」と答えてから「観ていただいた、あの人ですよ」と芙美に。

「奈津子さん、越したんだそうです。芙美さんに言わなくちゃって思ってたんですけど」

「コーヒーお代わりどうですか?」

 やって来た萌に箭内はカップを出し、続けた。

「御主人のお友達のMさんて方が『屋敷の陰と宅の陰が重なってしまっている』と言ったそうなんです」

「その人陰陽師か何か?」

 言って弥生もカップを萌に。

「いいえ。建築士さんです。何でも敷地内に古い側溝があってそこにヒビが入っていて。それに竹の根が何とかで外水道の管から水がしみ出していたとか。土止めのコンクリートにもヒビが入っていたそうで。それを聞いたら御主人が『すぐ移ろう』って。『あんまり簡単過ぎて信じられなかった』って奈津子さん言ってたそうです」

 芙美は、パンプキンプリンの最後のひと口を運びフォークを置いた。

「シュークリーム取って来るけど、芙美さんもどう?」

「いえ。もう十分です」

「じゃあ、フルーツ何か持って来るわね」

 弥生が立つと、箭内はまた話し始めた。

「そのMさんの紹介で。不動産屋さんもすぐ見つかったそうですよ。裏のお寺との境に狭い竹藪があったそうなんですが、そこも不動産屋さんが買ったそうです。だから側溝は埋めるんだとか。そうそう。奈津子さんのお家は旧家で物も多かったそうですが、御親戚の方がもらいに見えていろいろ持って行って下さったので『処分する手間が省けて助かった』って奈津子さん言ってたそうです。処分料代わりに御礼もしたそうですよ」

「陰極まって陽ってことか」

 後ろにマスターがいた。

「やだっ。マスター聞いてたんですかっ」

「箭内さん元気だから。みんなに聞こえてるよ」

 戻って来た弥生は箭内の皿にもメロンを入れた。

「芙美ちゃん。正月以来倫ちゃんに会ってないけど、元気にしてる?」

「はい。水・金は御飯作ってくれてますよ」

「変わらずマメだねぇ」

 二人が倫太郎話をしていると理来がやって来た。

「あの。芙美さん。僕も観てもらえますか?」

「進路のことかい?」

 テンポよくマスターが。

「はい。まあ」

「だったら、今観てもらえば。芙美ちゃんはどう?」

「いいですよ。じゃあ、十五分したら来てください」

 理来はペコリと頭を下げた。


 今日の二階に冷気はなかった。芙美は急いで空調を付け、静かに鏡の扉を開けた。ゆっくりとラピスを着けるとテーブルにクロスを広げ、そこにいつもの物を。シルバーにサッと赤みがさした。

 ――コンコン――

「どうぞ」

 理来は、衝立の矢印通りに入って来ると「よろしくお願いします」と言って座った。

「水金は学校ですもんね」

 ニコリともせずコックリ。

「では。一枚選んでください」

 里夢はカードを中央に置いた。

「選び方は?」

「自由です」

 すると束をサーっと横に崩し、一枚を返した。

 ハートの3。

「では。もう一枚」

 更に崩し中央からクラブの4を返した。

「次は二枚お願いします」

 依頼主はササっと返し、スペードのジャックとハートの4を。里夢は、左に置いていた二枚を右に移し、出された二枚をその下に並べた。

「ではまた一枚を」

 今度は左端を返しハートの8を。里夢はそれも右に置くと、広がったカードを集め全てのクィーンを除いて理来に渡した。

「これが最後です。一枚お願いします」

「見てもいいんですよね」

 里夢が頷くと、依頼主はしばらく見続けてからクラブの6を前に。

「先月会われた方が救いです」

 里夢が言うと

「どこで会ったか。出ていますか?」

 問い返した。

「再会なので。クラス会辺りですかね」

 ――カチャッ――

 弥生が入って来た。

「勝手にミントにしたんだけど」

「僕は平気です。何でも」

 背筋を伸ばしキッパリ言った。

「ハーブティーってよく飲むんですか?」

 トレーを前に置き、今度は里夢が。

「バイト先で。よく出されてました」

 さらりと答えた。

「今は行っていませんね」

「はい。資格の講座が夕方からあるので」

 一階(した)の笑い声が聞こえた。

「カードは。〝戻れ〟と出ています」

「根拠は? 理由はありますか?」

 並んだ6枚を睨んだ。

「〝逸脱〟とあなたが合わないからです」

「これのどこに……」

 制汗剤の香りが立った。

 その後しばらく、ピーターラビットのカップがソーサーの上を行き来した。


「これまでにも、僕みたいなケースありました?」

 クッキーを刺した。

「ありましたよ」

「みんな。こんな感じですか?」

 また刺した。イタリアンレッドのTシャツにチーズがパラリ。

「十人十色です」

 里夢も口に入れた。

「この部屋、静かですね。一階は結構車の音とか響くのに」

「窓が小さいからですかね」

 やがて、理来の小籠は空に。ミントも飲み干すと「お願いがあるんですけど」とポーチのファスナーを開けた。

「預かってもらえますか? そのうち反応しなくなると思うんで」

「その先は?」と聞くと「お任せします」と。里夢が食べ終えるのを待ち、理来は重ねたトレーを手に出て行った。


 降りて行くとオーブンの前にいた。

「マスターが、コイン受け取ってくれないんですよぉっ」

 ふくれ顔で芙美を見た。

「今日はこういう日っ」

 マスターが理来の肩をポン。

「そうだっ。マスターも観てもらったら?」

「なんで俺が」

「今日は〝こういう日〟だからですよっ」

 一本取ったと笑った。

「マスター。数字思い浮かべてください。目立つのは何ですか?」

「えっ? えぇーっと。2、だな」

「マークは?」

「ハぁートっ」

「お先にぃ」

 焼けたドリアを手に、芙美を見ながら抜けて行った。

「芙美ちゃん。ハートの2で何がわかるの?」

「今のマスターの状態。充実していますね」

 マスターは笑みながらホタテドリアをオーブンに入れた。


「ねえ。倫太郎おじさんは、どうして五十過ぎまで独身だったの?」

 久しぶりの助手席から弥生が聞いた。

「子どもだよ」

 マスターが言った。

「いるの⁉」

「どうだかな」

「何それっ」

「二十歳頃ワルい相手に引っかかって。別れてすぐ相手は結婚したんだが、子どもが出来たって噂で。それから何年かして、その女性(ひと)に会った知り合いから『お前そっくりの子を連れてた』って聞かされて。その時は顔から血の気が引くのが分かったそうだ」

「確かめたの?」

「相手には会ったそうだが『わからない』と言ったそうだ」

「わからない?」

「何人もと遊んでたってことだろう」

「それで……」

「陰から子どもも見たそうだ」

「女の子?」

「いや。男だって」

「似てたの?」

「そう言われればそんな気もするが、そうでない気もするって」

「認知は?」

「結婚した人の子になってるよ」

「なら。いいんじゃないの?」

「倫ちゃん流には良くなかったんだ」

「?」

「もしもその子が何かの理由で父親と離別したら、自分が見なきゃならないと思ったんだそうだ」

「……」

「そういう奴なんだよ、倫ちゃんは。芙美ちゃんには言うなよ」

「わかってる。でも、よく芙美さんと……」

「芙美ちゃんにも、そういうところがあるってことなんだろう」

 フロントに水粒が付き始めた。


 翌月の第三水曜。開店前のミニ休憩時に弥生が芙美に言った。

「理来君。先週までだったの。よろしくって言ってた」

「そうなんですか」

「今週末には家へ戻るって」

「家から通うんでしょうか」

 女屋が聞いた。

「そうみたい。だいたい二時間だって。三年だから朝からはないのかもね」

「じゃあ就職は? 地元ってことですか」

 箭内も聞いた。

「もったいないですよね。あんなハンサムな子が田舎に引っ込んじゃうなんて」

 女屋が言うと

「家業でも継ぐんだろう」

 カップの中を回しながらマスターが言った。


 二階に上がると芙美は、チェストを開けた。

「じゃあ、これは」

 そしてバッグに入れた。


♢  ♢  ♢


 ある日。食器を仕舞っている芙美に、ソファーから倫太郎が言った。

「なあ、そこにあるの。あんな携帯持ってたか?」

「預かったの」

「誰に? まさか。詐欺師さんか?」

「お店のバイトの子」

「何でっ?」

 芙美は500mLのルイボスティーを分けた

「渡されたのよ」

「誰にっ」

「家庭教師の依頼人」

 座ると倫太郎もやって来た。

「就職したら一緒に暮らすはずだったんでしょ。たぶん」

「若い方が熱上げたのか?」

「渡したのはどっちよ」

「あっ。そうか。それじゃあ。無事別れられたのか?」

「さあ」

「さあ?」

「家を教えてなければ」

「コワくねえのかな」

「だから預けて来たんでしょ」

「こっちに生き霊押しつけたってわけか?」

「やだもう。そんなの無理よ。でも、その子運強いって言うのか、いい()に遇ったの。だから大丈夫だと思う。たぶん、だけど」

「じゃあ。あれ、どうするんだ?」

 目がカウンターに。

「どうしましょ」

「〝落とし物〟ってことにでもしとくか」

 飲み終えた倫太郎は立ち上がると、携帯をジッパー袋に入れた。

「ねえ。生き霊っていると思う?」

「まあ、そりゃぁ……」

 言いながら、グラスを片付けようと芙美の脇に来た。

「信じる?」

「なんで?」

「私、初めて知ったの。それっ」

「ああ?」

「物凄ぉく怖い思いした」

「昔、誰かの恨みでも買ったのか」

「〝菅谷芙美〟になってからよ」

「なんだぁ?」

 恨めしそうな目が倫太郎に。

「俺が何したって……」

「寿美子さんの処に御挨拶に行った時……」

「御挨拶?ああ。あん時はこっ恥ずかしかったなぁ……」

「あれからしばらく『寝苦しい』って倫太郎さん言ってなかった?」

突如、真顔に。

「聞く?聞かない?」

 無言でグラスを両手に。しかし、ジト目に負けた。

「では、お話しします。御挨拶に行った晩から、私はよくトイレに起きるようになりました。その夜も目が覚めふと見たら、倫太郎さんの肩に手が見えました。錯覚だと思って戻ってきたら、それが首にまで来ていました」

「いいっ⁉殺されかけてたわけか?」

「もう、大袈裟なんだからっ。でも、何したか知らないけど、あの時そう思ってた人がいたのよっ。お陰でこっちは大迷惑。毎晩毎晩ほんとっ怖かったんだからっ」

手鞭が太ももへ飛んだ。 


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