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PARTⅠ カードカフェ 【3】ペイズリー

[茉莉花亭―る]は最初〝パフェ屋〟と呼ばれていたが、芙美が来てからは〝カードカフェ〟と呼ばれるようになった。緑のクィーンが着いて二年したある日、箭内が芙美に言った。

「次に来るの私の知り合いなんです。よろしくお願いします」

 ノートを見直すと、確かに〝箭内知人〟と添えられていた。


 その日。いつもより早く部屋に入った芙美は、鳩時計の埃を払うと窓に向いた。上向きのはねを水平にし久しぶりに外を。遠くの丘は少し前のちらほらピンクからこんもり緑になっていた。ドアがノックされた。

「どうぞ」

 はねを直し向くと

「失礼致します」

 明るい髪をきれいにセットした、色白で気持ちふくよかな女性が入って来た。

「そちらからどうぞ」

 里夢は手を添え(いざな)った。

 女性は座ると籐のバッグを隣に。ジャラジャラと座板に鎖が落ちた。

「箭内さんのお知り合いの方だそうですね」

「はい。お姉様と習い事が御一緒で。妹さんがいらっしゃると言うので、こちらへも何度も連れて来ていただいています。私、生クリームが好きなもので。特に、こちらのマロンパフェは。私的には大好きです」

「ありがとうございます。マスターが喜びます」

 里夢はゆっくりカードを持つと依頼主の前に置いた。

「こちらから四枚選んでください。選び方は自由です」

「あの。見て出してもいいのですか」

「はい」

 依頼主は10を四枚並べた。

「では。また四枚お願いします」

 次は2を四枚並べた。

 里夢は八枚を横並びに。

「また四枚ですか?」

「はい。お願いします」

 依頼主はクラブの3、4、5、6を出した。

「またですか?」

「いえ。今度は五枚。お願いします」

 クィーン四枚に赤のジョーカーが足された。

「御分家の方方には、心付けが効きます」

「……はい」

 里夢は九枚を二列目に。

「では。二枚お願いします」

「はい」

 依頼主はスペードのキングとクラブのエースを。

「また二枚お願いします」

 今度はスペードのクィーンとハートのジャックを。里夢はその四枚も二列目に。

テーブルに二十一枚が並んだ。

「残りのカードをこちらへ。お願いできますか」

 依頼主は束を置きながら横の絵札たちを凝視。里夢はゆっくりと二度切った。

「何番目がいいですか」

「えっ? あっ。じゃあ十八番目を」

 ハートのエースが出た。

「仏心がおありなんですね」

「そんな大そうなものでは。迷信好きなだけです。縁者にお寺が多いもので」

「御主人様の親しい方に建築関係の方がいらっしゃいますね」

「えっ? はい。はい」

「その方が――」

 依頼主は肘をつき身を乗り出した。

「何と話を切り出せば。あの……」

「水場と竹。ですよね。屋敷神様が乗っているコンクリートが乾かないとか。気懸かり事をお話しなさって屋敷周りまで見ていただけば」

 ――カチャッ――

 弥生が入って来た。


 里夢はカードを束ね席を離れた。

「どうぞ」

女性が座り直し、ガーネット色から上がるベリーの香りが香水と混じり合った。

「もっと別のことを、言われると思っていました。黒ずくめの。指に宝石が一杯の方を想像していたんです。でも……」

「こんな。ですよ」

 里夢は十指を見せた。

「そのブラウス、とってもお似合いです。シルクですか?」

「ええ。妹からお土産にもらったものです。海外に行ったのですが、適当な物が無かったとかで、空港で買ったと言っていました。ピンクとどちらが良いかと聞かれ。青はあまり着ないのですが、この水色はとてもきれいに見えたもので」

「柄のペイズリーも素敵ですね」

 女性は服に目を。ネックのプラチナが角度を変えた。

「嫁いだ頃は、まだ主人の祖母がいて。ある日、訪ねて来た男の人達と大姑の会話を聞いたのです。その人達は、閉めた会社の人達で。お金の無心に来ていました。そのすぐ後、ある店で女の人に声を掛けられたのです。『あんた〇〇さんちの嫁でしょ』と。上から下まで睨むように見られて。何か言いたげなその人を、一緒にいた人が急いで連れて行きました。それからしばらくして。その時はもう大姑はおりませんでしたが。義母が、以前(うち)で働いていた人の噂を聞いて来て。奥さんが仕事先の人と心中したと。お子さんの多かったお(うち)だそうですが……。一家離散ですよね。ああ。業の深い家だなと。私どもの家は少し高い所に建っているのです。だからバス通りから良く見えます。嫌だなと長らく思っておりました」

「それで思い切ってと」

 女性はうなずくとカップを手にした。

「ハイビスカスだけではないのですね」

「ストロベリー入ってませんかね」

互いに一口ずつ。

「個人的にはここに少し甘さが欲しいところなんです。でも」

「私も。でも、カロリー気になりますよね」

 二人で笑った。

「もう姑達もおりません。子ども達も『戻らない』と申します。でも叔父達が。家は本家なもので」

「いろいろありますね」

「ええ」

 里夢がクッキーを口にすると女性も口に。それからまたカップに手を伸ばした。

「〝水〟って。思い当たることがあるのです。寝室を裏角の和室に移してから、主人の調子が悪くて。退職して疲れが出たとばかり思っていたのですが、考えてみれば湿気っぽい部屋で。私何かの祟りだと思っていたので言い出せなくて。私のこと『非科学的だ』といつも相手にしてくれないのですよ主人。でも……先生の言われたようにMさんなら。Mさんの言うことなら、主人聞きます。私……お祓いしないとだめかと思っていたのですが。違ったみたいですね」

女性はティッシュで口元を整えると出て行った。一瞬、線香の匂いがツン。里夢はチェストから塩を出すと一つまみをティシュに包み、バックの置かれていた座板を拭いた。

「時には、こういうのもあるわね」

 ――ポッポゥポッポゥポッポゥ――

 鳩が出て引っ込んだ。


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