PARTⅢ ダイヤのクイーン 【1】クラブのエース
クリスマスから休みに入った芙美は、一日ひと部屋のペースで年末の掃除をした。四日目。お昼を食べ終え冷蔵庫の中を整理していると、仕事を終えた倫太郎が帰って来た。
「今日は暖かいぞっ。庭掃除するか」
冷蔵庫はそこまでとなった。
先週植木屋が来たので枝は整えられていた。軍手をはめ、二人仲良く植え込みの根元へ。ガサガサと枯れ葉を掻き出しながら芙美が言った。
「保盛さんが、誠也にお嫁さんを世話してくれるみたいよ」
向かいのガサガサが止まった。
「会わせてもいいかなって」
「いいよ、いい、いい。で。お前は何て返事したんだ?」
「お願いしますよ」
倫太郎は「うん」と満足げに頷いた。
「それで、どこの娘さんだ?」
「さあ。誠也と年が近いって言ってたけど」
「年が……。なあ……」
ブツブツ言いながら、またガサガサに戻った。掻き出した葉は南の楓の方へ。『隅に集めて肥やしにする』と倫太郎が言うので、毎年こうしていた。
風が冷たくなってきた頃、作業は終えた。
「まあ、これで年が越せるな」
庭を眺める倫太郎を残し芙美は内へ。ココアでも入れようと、小鍋に牛乳を入れ火にかけた。ところが
――ブシュぅぅー――
作業着を洗濯機に入れて来る間に、ピカピカコンロがミルク泡に包まれた。
数分後。火加減を後悔しながら、芙美は熱すぎるカップをふうふう。そのうち、同じ失敗を別の場所でもしたのを思い出した。
支度を改め、倫太郎がやって来た。
「このカップ、使ったのか」
座りながら、眺めた。
「そう。今日は仕事納めでしょ。たまには、ね。……ねぇ倫太郎さん。マスターと建てた家、最近使ってる?」
「ああ。定期的に。って言うより使わせてる。貸してくれっていうのがいるから。保さんとは、二年くらい行ってないなぁ」
倫太郎は寿美子の旅館の方に、保盛と建てた二軒長屋の様な別荘を持っていた。
「あそこ。まだ建てて十年くらいよね」
「七、八年。誠也のことか?」
持ったカップを持ち替え言った。
「ううん。ただ、庭なんかどうなってるかなって」
倫太郎は「貸した奴に草むしりして来いと言ってはあるが」と言って、カップをクイっ。
「ふぇー、あっつっ」
噴き出しそうになりながら
「暖かくなったら行ってみるか」
と言った。
♢ ♢ ♢
節分明け。百合が、次女の佳和美を連れ寿美子の旅館を訪ねた。倫太郎から話をされていた寿美子は、誠也を伴い部屋へ出向いた。
翌月の、全国的に晴天となった日。芙美たちは別荘を見に出かけ、案の定の枯れ草を必至に始末。ワゴン車一杯にパンパン袋を積んだ。その帰り――。ふとした会話から保盛の名が出た。
「倫太郎さんは仲良しの御親戚でしょ? 保盛さんには、他にも親しいお友だちがいるんでしょ?」
前から聞いてみたかった。
「……」
倫太郎がワンテンポずれた。
「いる。ひとり」
後は続かなかったが十分だった。芙美の中で、いつも保盛に感じていたクラブのエースが〝ひとり〟と重なった。




