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終焉の塔  作者: 空白ノ音
1章 〜入学試験編〜
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7話 E塔攻略へ

俺はいま、冒険者ギルドへ向かっている。


というのも、この世界の各国のギルドは、塔が出現するとすぐに魔力を測定し、塔の階級を判定する。そしてその情報は、ギルド内の掲示板に貼り出される。高ランクの塔が現れた場合には、フェリゼア王国で言えば剣士隊のような一流冒険者に討伐依頼が出されることもあるらしい。


冒険者が塔を攻略する際は、必ずギルドに報告しなければならない。登録された冒険者のランクと、目指す塔のランクがあまりにかけ離れている場合、出発が禁止されることもあるのだという。


そんな話を思い出しながら歩いていると、どうにも街の人々の視線が妙に冷たい。いや、違うな。これは畏怖だ。


……原因は、隣を歩くヴェリオスだろう。


彼がこの国で有名人なのか、それとも単純に目つきが悪すぎて皆が避けているのか……。

真相は分からないが、ミリスと一緒に歩いていた時とは明らかに空気が違った。人でごった返していた街道も、俺たちが通ると不自然に人が避けて、一筋の道ができる始末。


ほんとにこいつ、何者なんだよ……。


そうぼやきながら、冒険者ギルドに到着した。


「おい! リズナの森のE塔、まだ攻略されてねえじゃねえか。どうなってんだ!」


いきなり怒鳴り声。ヴェリオスが、ギルドの受付嬢に食ってかかっている。


おいおい……そんな口の利き方する奴、普通ならドン引きされるぞ。


「それが……すでにE級のパーティーが二組、D級のパーティーが一組向かったきり、戻ってこないんです。()()()()()()の可能性があって……」


「E級はともかくD級が帰ってこねぇだと? 

今から俺とこのガキで行ってくる。さっさと許可証を出せ」


「お二人とも、それは危険すぎます! この塔、明らかに様子がおかしいんです。せめてC級以上の冒険者が複数人でないと……」


「あ"ぁ!?ヴェリオス・エルフィリア。早く登録名確認しろ」


「ヴェリオス・エルフィリアさんですね……

冒険者ランク、A級……!?し、失礼しました! ぜひ、お力添えお願いします!」


受付の彼女は明らかに新人だった。最初に気づけなかったのも無理はない。


「えっと、もう一人の方は……?」


「僕はレイです」


「レイ…さん…冒険者ランクは……E級、ですか」


その表情、あからさまに不安げだ。


「こいつには俺がついてる。いいからさっさと許可を出せ」


「は、はいっ!」


言われるがまま、許可証が出され、俺たちはギルドを後にした。


──フェリゼア王国の城壁を抜け、リズナの森を目指す。


本物の剣を使うのは、今日が初めてだ。


これはミリスが、自分のお金で買ってくれた大切な剣。情けない姿は見せられない。気合いが入る。


道中、ヴェリオスは意外にもよく喋った。


「お前、適性が全属性なんだってな。通りで父様が気に入るわけだ」


「気に入ってもらえてる雰囲気ではなかったですけど……」


「バカ言え。エルフィリア家が他人を家に泊めたの、ここ数十年で初らしいぞ」


「え……そんなにですか?」


「まあ、誰もあの家に泊まりたがらないってのもあるがな!」


高笑いするヴェリオスに、俺は「はは……」と乾いた笑いしか返せなかった。あの家に泊まろうとする俺が異常なのかもしれない。


ヴェリオスは少し打ち解けてくれたのか、いろいろな話をしてくれた。


ギルドで言っていたE級・D級のパーティーというのは、それぞれのランクの冒険者が4人以上で構成されたパーティーのことらしい。


塔の攻略は、塔の階級と同等以上の冒険者が最低でも4人必要とされている。

それをたった2人──しかもEランクの俺を含めて出発が許可されたのは、ヴェリオスの”A級”という圧倒的な実績のおかげだった。


さらに、訓練で見たミリスとヴェリオスの剣技についても教えてくれた。


この世界では、「魔導剣士」という、魔術と剣術を併せ持つ戦士が主流らしい。


階級の高い魔物は属性魔術を使ってくる。それに対抗するために、自分の魔力を剣に纏わせ、魔術を打ち消す──さらには相性のいい属性の魔力をぶつけて有効打を与えるとのことだ。


俺には5つの属性適性があるせいで魔力操作が難しいらしく、ミリスにまだ魔術について教えてもらっていないのはそれが理由だ。


そして、最も気になるのが「イレギュラー」という単語。


塔の出現時に計測されたランクとは異なり、突如として内部の魔物の強さが跳ね上がる現象──それがイレギュラーだ。


その原因は、「魔物の進化」だという。


パターン①【異喰種(いしょくしゅ)

魔力の濃い塔の中で密閉されたことで魔力に侵され、通常の魔物よりも凶暴化し、同種を食らい魔石を吸収することで進化する。


パターン②【群王種(ぐんおうしゅ)

群れで行動する魔物に稀に起きる進化。

集団の中で一際強い個体が進化し、群れの指揮を取るようになる。

群れの規模によっては2段階進化もある。


パターン③【順応種(じゅんのうしゅ)

周囲の属性魔力や人間の魔術攻撃を受けたことで稀に適応し、下級の魔物でも属性を持った魔術を扱えるようになる。



今回のリズナの森のイレギュラーは、このどれかのパターンらしい。


……いやいやいや、ちょっと待て。


ヴェリオス兄貴。俺、今回が初めての塔なんですが?


そんな危険な場所だと知ってて、どうして俺を連れてくるんですか!?


当然そんなことを本人に言えるわけもなく、心の中で全力で叫んだ。だがその想いが彼に届くことは、もちろん一切なかった。


そして──そんな話を聞きながら、俺たちはリズナの森の入り口にたどり着いた。


森の気配に胸がざわつく。かつてのトラウマが、胸の奥から蘇ってくるようだった。

だが、今の俺はあの頃のままじゃない。多少なりとも強くなっているはずだ。


鉄剣に鉄鎧。装備は万全。

ポーションの力もあって、たった一日とは思えないほどの訓練を積めた。

もう、あの頃の俺じゃない──

そう信じて、一歩を踏み出す。


慎重に森の中を進む俺をよそに、ヴェリオスは剣を片手にズカズカと進んでいく。

──ガサッ、と右側から茂みが揺れたかと思うと、何かが飛びかかってきた。


「な、なんだ──!?」


俺がその正体を視認した時には、すでにヴェリオスの剣はゴブリンの胸を貫いていた。

ゴブリンの身体は一瞬にして砂のように崩れ、紫の魔石へと変わる。


……え?


見てたのか? 聞こえてたのか?

油断してるように見えたのに、ノールックで仕留めたその姿に、俺はただただ唖然としてしまった。


その後も俺たちは塔へと歩みを進める。

そして──ゴブリンとの因縁の対決が、ついに始まった。


ヴェリオスの後ろについて歩いていた俺だったが、ふと背後でガサガサという音がした。

慌てて振り返ると、2匹のゴブリンがこちらへとじりじり近づいてきていた。


あの時と同じ──既視感のある光景に、足がすくむ。


ゴブリンはよだれを垂らしながら笑い、俺を喰らおうとにじり寄ってくる。

怖い。正直、めちゃくちゃ怖かった。


でも、ここで逃げたら、剣術学校どころか冒険者としての道すら閉ざされる。

──だったら、やるしかない。


先に走ってきた方のゴブリンに向かって、俺は鉄剣を思い切り振るった。

刃は左肩から右脇腹へと斬り下ろされ、ゴブリンは血飛沫をあげてのけぞる。

その隙を逃さず、腹部を剣先で突いた。


ブシュッ──!


人を刺す時ってこんな感触なんだろうか……

気味の悪い感触が腕を伝い、思わず体がこわばる。

だが、ゴブリンの身体は砂のように崩れ、足元に魔石が転がった。


──1体撃破。


「よし、残り1体だ!」


すぐさま剣を構え直し、もう1匹のゴブリンと対峙する。

ゴブリンは棍棒を振りかざして突進してきたが、俺はステップを踏んで横に躱し、その勢いのまま懐へ滑り込み──胸元へ剣を突き刺す!


そして、ゴブリンは崩れ落ち、2つ目の魔石が地面に転がった。


こうして、俺のリベンジマッチは完勝で幕を下ろした。

魔石を2つ回収し、ヴェリオスの元へと戻る。



──しばらくの間歩いた後、ヴェリオスがふいに立ち止まった。


視線の先には、豚の顔をした斧を持つ人型の魔物。

2メートル近い巨体に、ぶよぶよと肥えた肉体。

──D級モンスターのオーク。

この森に棲む最強の魔物だ。


「ガキ、いけるよな?」


拒否権がないことは、ヴェリオスの目を見ればすぐに分かった。


死にかけたら助けてくれよ……!

そう心の中で叫びつつ、俺はじりじりとオークに近づいた。


5メートルほどまで接近した瞬間、オークが咆哮を上げて斧を振るってきた。

俺はすぐに後退し、攻撃を回避。だが、背後の木に斧がめり込み、バランスを失った幹が轟音を立てて倒れる。


──もし直撃していたら……死んでた。


オークの攻撃は、1発でも喰らえば致命傷だ。直感で分かる。


だが、攻撃は全体的に大振り。スピードはない。

ミリスとの訓練で磨いたステップを駆使して回避しつつ、俺は隙を見て何度も剣を振るった。


けれど──効かない。斬れない。ゴブリンとはまったく違う。


「クソッ、分厚すぎる……!」


ならば、“斬撃”ではなく”突き”だ。

懐に踏み込むのは危険だが、やらなきゃ勝てない。


オークの斧が大きく振り切られた瞬間、俺は渾身のスピードで懐へ潜り込み、腹部へと剣を突き刺した!


──手応えあり。貫通はしてないが、深く刺さった。


「よし、いける……!」


そう確信した矢先、オークが怒りの咆哮を上げる。

筋肉が膨張し、刃を挟み込んで離さない。


「嘘だろ……!? 抜けない!?」


その瞬間、俺の脇腹に拳がめり込んだ。

──バキッ、と鎧が砕ける音。血を吐き、俺は吹き飛ばされる。


視界がぐらつく。骨が折れた。息が吸えない。

朦朧とする意識の中、必死にポーションを取り出そうとする。


──しかし、オークはもう俺の目の前まで来ていた。


斧を高く掲げるその姿に、全身が凍りついた。

ああ、終わった。そう思った瞬間──


「ヴォオオラァァ!!」


声と同時に、オークは頭から真っ二つに裂けた。

閃光と共に、魔石が地面に転がる。


助かった……助かったんだ。


ゴブリンとは違い、オークの魔石は拳ほどもある大きさで、濃い紫の輝きを放っていた。

魔物の強さに魔石の質とサイズが比例しているんだろう。


冒険者はこの魔石をギルドに売ることで生計を立てているそうだ。


ポーションを飲みながら、俺はヴェリオスに向き直る。


「兄貴! 本当に、助かりました!!」


「まだオークも倒せねぇのかよ、雑魚が」


口は悪いが、助けてくれたことは事実だ。

それにしても──彼の足元には、オークの魔石と同じサイズのものが、すでに10個以上転がっていた。


「……ヴェリオスさん、何してたんですか?」


「何って……豚狩りに決まってんだろ!!」


いつもより明らかにテンションが高い。

笑ってる。……が、怖すぎて目を逸らした。

これが、“紅牙隊員”たる所以なのだろう…


俺が1体に苦戦している間に、ヴェリオスは”豚狩り”をしていたらしい。

足元の地面は血で真っ赤に染まり、いくつもの魔石が鈍く光っていた。


そして再び歩みを進め、ついに塔の前まで来た。


入り口には、淡い光が張り巡らされている。

ミリスが言っていた通りだ。

──魔力の結界。


ギルドから貰った許可証を、塔の監視に当たっていたギルドの職員に渡し、ついに俺は塔の闇の中へと足を踏み入れた。

二度と戻れないかもしれない、

冒険者としての第一歩。

──それが、今始まった。

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