第26話 魔女友 2
祭りでお菓子を堪能したリリベル達は、気付けば夕方になってしまっていた。
隣領からやって来たレイチェルも今から帰るには遅くなりすぎだ。
「一緒の宿に泊まろうよ!」
「うん」
というわけで、リリベル達はジルモア領で一泊することに。
二人と一匹は二人部屋をチョイスし、今夜は一緒に眠ることとなった。
「夕飯どうする? 食べる?」
「もうお腹いっぱい」
夕方になるまでずっと屋台のお菓子を堪能し続けたリリベル達は、夕飯が入らないほどお腹いっぱいだ。
「お菓子だけでお腹いっぱいとか、私達ってば大人だわ~!」
二人からすれば、まさに夢のような一日といったところか。
「今日だけだよ。レイチェルもお菓子ばかり食べてるとお腹壊しちゃうんだからね!」
ベッドの上で丸くなるテオは二人を諫めるように吠える。
「なによう。テオだってずっと色んな種類のジャーキー食べてたくせに」
何を隠そう、テオのお腹もぽっこりしているのである。
お腹いっぱいで大満足だからこそ、早々にベッドの上で丸くなっていたのである。
「と、とにかく! 明日は魔女ミランダの元へ向かうんでしょう? レイチェルも一緒に帰るんだよね?」
「うん、そう」
「じゃあ、明日に備えて早く寝ないと! 朝一の馬車に乗らないと一日で辿り着けないんじゃない?」
リリベルとレイチェルは顔を見合わせて「そうね」と互いに頷く。
「まだ眠れないし、お喋りしてよ?」
「賛成」
まだ時刻は夜の七時になった頃。
さすがにまだ眠れないと、二人はベッドへ横になりながらも会話を始めた。
最初はお互いの私生活についてだ。
日々、どんな生活を送っているのかを語り合っていく。
まずはリリベルのターンから。
「私は最近まで師匠のお世話をしてたからな~」
ヴァレンシアが亡くなるまでの間、寝たきりになっていた彼女のお世話をしていたのはリリベルだ。
彼女の世話をしつつ、たまに森の奥へ行って異変がないかの見回り。
あとは森の外にある村『ヒャクレン村』で使う魔獣除け作りを少々と依頼として舞い込んできた薬の生成を少々。
ほぼ森から出ない生活を続けてきた。
「魔女ヴァレンシアの薬は魔女の間でも有名だった。お母さんも魔女ヴァレンシアからいくつか薬のレシピを教わったって言ってた」
「へ~。何の薬だろう?」
「水虫に効く薬」
「あ~、あれか~」
あれは簡単なのよね~、とリリベルは笑顔で頷く。
「……魔女ヴァレンシアは死んじゃったんだよね?」
「うん、そうだね」
しかし、リリベルにとって親に等しかったヴァレンシアとの生活は終わってしまった。
「……寂しい?」
「そうだね。寂しいね」
リリベルは悲しそうな表情を見せながら頷く。
「あのね、街にいると……。師匠に似たお婆さんを見るとあれって師匠かな? って思っちゃうこともあるわ。寝る前に何度も師匠の最後を思い出しちゃうこともあるわ」
死んだはずの魔女ヴァレンシアが街中にいるはずない。
だけど、どうしても錯覚を起こしてしまう。
もしかしたら、と思ってしまうのは――リリベルだけじゃなく、愛する家族を失った人なら誰でも思うことなんじゃないだろうか?
いつまでも癒えない。かさぶたになる一歩手前の傷口。
誰かを失った人はそんな悲しみを抱えながら、生きていかなきゃいけない定めなのだろう。
「でもね? 私にはテオもいるし!」
ただ、彼女はすぐに笑顔を浮かべる。
リリベルは上体を起こすと、傍で寝ていたテオを抱き寄せて膝の上に乗せた。
テオもリリベルの気持ちを理解しているからか、何も言わずに彼女の膝の上で丸くなる。
「それにね、師匠から自立しなさいって言われたの」
「自立?」
「そう! 自立して大人っぽい生活を送るのよ!」
大人っぽく好きに生きること。
「毎日好きな時間にお菓子を食べちゃったり、夜な夜な一人でお菓子パーティーを開いたりする生活よ!」
これこそが『自立』なのだと、リリベルは胸を張って主張する。
「おー……。夜な夜なお菓子パーティーとか、大人すぎ」
レイチェルも彼女の主張に激しく同意した。
自分も一人前と認められてから、夜な夜なお菓子パーティーを開こうとしたらしい。
しかし、家にいる母に止められてしまったと。
「私もいつか夜のお菓子パーティーを開きたい」
レイチェルは小さく笑った。
「レイチェルは? いつもどんな生活を送っているの?」
「うちは杖職人の魔女。いつも杖を作ってる」
南の魔女ミランダは魔女や魔法使い用の杖製作を主に行っており、日々家では木を削って杖を作っているとのこと。
杖といっても色んな種類があるらしく、同時に形や材質によって魔法を行使する際に使用する魔力のノリが変わるらしい。
「使う木の種類も大事だし、湿度管理や木が保有する水分量なんかも大事」
「はえ~。すごい専門的だわ~」
リリベルにとってはちんぷんかんぷんかもしれないが、レイチェルにとっては基本中の基本なのだろう。
スラスラと言葉で出る様子を見る限り、彼女は杖職人としても一人前と認められているようだ。
「ずっと前に魔女ヴァレンシアから杖作りのアドバイスを願う手紙が来たって言ってた」
「師匠から?」
「そう。たぶん、リリベルの持っている杖を作るため」
レイチェルはベッドサイドに立て掛けてあるリリベルの杖を指差す。
「すごく丁寧で良い杖。一生懸命心を込めて作ったんだって一目で分かる」
「えへへ」
レイチェルの評価を聞いたリリベルは自然と笑みを浮かべる。
きっと彼女は、この杖を渡された日のことを思い出しているのだろう。
「レイチェルのお母さんはどんな人?」
「うちのお母さんは美人」
レイチェル曰く、魔女ミランダは超絶美人な三十代の女性らしい。
「美人すぎて食費が掛からない」
レイチェルとミランダが住む家は街から少し離れた場所にあるようだが、食料を買いに街へ行くと店の人達がサービスしまくり。
特に男性からは毎回あれもこれも持って行けとお金を払わずに商品を持たされるんだとか。
気付けば両手いっぱいに荷物を抱え、一週間分の食料を買いに来たつもりが二週間分以上の食料を手にしてしまう。
ある意味、正しく『魔女』と言える女性なのかもしれない。
「はわ~。私もそんな魔女になりたいわ~。お菓子に困らないじゃないっ」
魔女ミランダのような超絶美人になり、街のみんなからお菓子を貰いたい。
リリベルの野望が叶う日は来るのだろうか?
「私もそうなりたい」
レイチェルの方が可能性が高いかもしれないが、彼女も彼女で今後の成長によるといったところか。
「ふわ~……」
お喋りを続けていたら、リリベルは眠くなってきたようだ。
「寝る?」
「うん~……」
とろんと落ちていたリリベルの瞼が遂に閉じてしまった。
レイチェルはリリベルに毛布を掛けて上げると、彼女も一緒に毛布の中へ潜り込む。
そして、リリベルの手を優しく握った。
「おやすみ、リリベル」
「うん、おやすみ~。明日は馬車の中でお菓子たべよーね」
リリベルは最後ににへらと笑って、夢の中へと落ちていった。




