第25話 魔女友
「貴女も魔女?」
美少女が首を傾げながら問うが、彼女はリリベルが答える前に言葉を続ける。
「でも、なんか違う?」
魔女同士通ずるものがあるようだが、美少女的にはリリベルが不思議な存在に見えるのだろうか?
魔女だけど魔女じゃない、そんなニュアンスで彼女は更に深く首を傾げた。
「私、魔女だけど見習いなの!」
「見習い? 見習い魔女なの?」
「そう。師匠が一人前と認めてくれる前に死んじゃって」
リリベルは「てへへ」と困り顔を浮かべた。
「そう……。それは悲しいね」
「うん。だけどね、師匠に言われたの。南の魔女に会いに行きなさいって。たぶん、南の魔女が一人前だって認めてくれると思うのよね!」
だから、旅しているのよ。
リリベルは美少女にそう告げた。
すると、美少女はびっくりした顔を見せる。
「南の魔女って、魔女ミランダのこと?」
「ミランダ?」
リリベルは南の魔女の名前を知らなかったのか、テオに顔を向ける。
すると、テオはリリベルを叱るようにわふんと吠えた。
「そうだよ! 名前を覚えてなかったの!?」
「えへへ。お菓子のことで頭がいっぱいでした」
リリベルは「ごめんごめん」と笑いながら謝る。
「魔女ミランダに会いに行くなら丁度良いかも」
「丁度良い?」
美少女は自身を指差す。
「魔女ミランダは私のお母さん。私は魔女ミランダの娘だから」
「わぁ! すごい出会いね!」
リリベルは美少女の手を握ると「やったー!」と喜びを露にする。
「貴女、名前はなんていうの!?」
「私の名前はレイチェル。一人前の魔女、レイチェル」
眠そうな表情が通常らしい彼女だが、むふんと胸を張って自己紹介。
彼女はリリベルと違い、母親から『一人前』だと既に認められているらしい。
「はへ~。私と同い年みたいなのにすごい。南の魔女は進んでいるのね」
何がどう進んでいるのかは不明だが、リリベルは本気で感嘆の声を上げているようで。
同時にレイチェルの方も再びむふんと胸を張る。
余談であるが、同年代に見える二人の身長はレイチェルの方が僅かに小さい。
色んな意味で身体的な成長度合いはリリベルの方が進んでいそうだ。
「ところで、どうして貴女がここに? 南の魔女って隣の領地に住んでいるんだよね?」
リリベルはようやく気付いたのか、レイチェルがジルモア領にいることを問うた。
「お祭りだから」
レイチェルの答えは実にシンプルだったが、そこからズズイと顔を近付けて更に答えを続ける。
「お祭り中はたくさんお菓子が食べられるから」
しかも、何とリリベルと似たり寄ったりな答えが飛び出す。
「魚採り大会も優勝すれば賞金が出る。その賞金でお菓子をたくさん買う」
先ほどの水柱を上げての魚採りは、ただのパフォーマンスではなく本気で優勝を狙いにいった結果らしい。
「おー、私も一緒。私もお菓子をたくさん食べたいから寄ったの」
リリベルは「一緒だね」と笑う。
すると、レイチェルはリリベルの手をぎゅっと握って目を輝かせた。
「同志」
お菓子大好き仲間として認められたらしい。
「シュークリーム食べた?」
「まだ食べていないの! だけど、絶対食べたい!」
「あれは食べるべき。お菓子の革命」
両者共に鼻息が「むふー、むふー」と荒くなっていく。
「私がご馳走してあげる。優勝間違いなしだから」
「えー! 本当!?」
リリベルが「やったー!」と喜んだ瞬間――
「あの~。すいませんが、魔法は使用禁止です」
レイチェルにそう告げたのは、魚採り大会の実行委員を務める男性である。
彼が申し訳なさそうに「失格ですね」と告げると、レイチェルは口を開けたまま固まってしまった……。
◇ ◇
リリベルとレイチェルは街の中へと戻って来た。
「がっくり……」
失格になってしまったレイチェルは肩を落としながらリリベルの隣を歩く。
「お菓子食べ放題の夢が……」
どうやら彼女は優勝賞金でお腹いっぱいになるまでお菓子を食べる! と心に決めていたようだ。
魔女の力を使えば楽勝! とも思っていたに違いない。
「食べ放題は夢だよね~」
分かるわ~、と理解を示すリリベルは、未だ肩を落とす彼女を見て近くの屋台に駆け込んだ。
「はい、どーぞ」
「え?」
屋台で魚クッキーを買ってくると、一枚をレイチェルに差し出す。
「落ち込んでいる時はお菓子に限る! お菓子を食べれば笑顔になるもんね!」
こんな時こそお菓子だ! と。
そう言って励ますリリベルを潤んだ目で見つめるレイチェル。
彼女はパクッと一口クッキーを食べると――
「リリベル、好き」
小さく笑いながら愛の告白を口にした。
なんともチョロイ魔女である。
「ねぇ、レイチェルはお祭りに詳しい? 何度も来たことがあるの?」
「うん。何度も来てる」
その度にお菓子を食べており、家に帰っては「〇〇が美味しかった」と母親に報告しているんだとか。
「なら、私に美味しいお菓子を教えてよ! 一緒にお菓子食べよ?」
お菓子を買うお金が少なくとも、ひとつ買って二人と一匹で分ければいい。
そうすればたくさんの味が味わえる、とリリベルは名案を披露した。
「良い考え。賛成」
レイチェルは小さく笑うと、リリベル達を連れてメインストリートを行く。
「まずはリリベルも狙ってたシュークリームを食べる」
レイチェルが最初に連れて行った店は、ジルモア領で初めてシュークリームを販売した商会だ。
元々は自分の牧場で搾った牛乳を販売する商会だったらしい。
「搾りたての牛乳を使っているから美味しい」
リリベル達はシュークリームを一つ購入し、店先で三等分しようとしていると……。
「お嬢ちゃん達。これはおじさんからのサービスだよ」
なんと店のおじさんがシュークリームを追加で二つもくれたのだ。
「おじさん、ありがとう!」
リリベル達はお礼を言って、そのままの勢いでシュークリームをパクリ。
「おいひ~!」
リリベルは口にクリームを付けながらも、良い声で感想を口にする。
すると、どうだろう。
周りにいた人間はリリベルの声につられてシュークリームを購入していくのだ。
おじさんがこれを狙ったのかは不明だが、意図せずして店に恩返しできてしまった形である。
「次はチーズケーキを食べに行く」
「チーズケーキ!」
次はレイチェルおすすめのチーズケーキを食べにいき、そこで店先で美味しそうに食べる。
ここでも二人と一匹が美味しそうにお菓子を食べる度、それを見た通行人がつられていくという連鎖が行く先々で起きていく。
「あむあむあむ」
「あむあむあむ」
「わふんわふんわふん」
最後の締めはやはりシュークリーム。
浮いたお金で最後に三つ購入して店先で食べていると、やはりメインストリートを歩く人間を店に誘い込むのだ。
「いやぁ、お嬢ちゃん達のおかげでいっぱい売れるねぇ」
ホクホク顔のおじさんは更にドン!
リリベル達になんと二つずつもシュークリームを手渡してくるのである!
「あーん! 両手にシュークリームとか幸せすぎ~!」
「実質、食べ放題」
「クリームが癖になるかも」
両手にシュークリームを持ったリリベルとレイチェルが幸せそうな顔を見せる。
テオもテオでぺろりとシュークリームを完食してしまった。
「お祭り、最高!」
「さいこ~」
予想外にもたくさんお菓子を食べられたリリベルとレイチェルは、顔を見合わせて満面の笑みを浮かべてからシュークリームへ齧りついた。




