第24話 ジルモア領のお祭り
「お嬢ちゃん、そろそろ到着するよ」
「ふが」
ジルモア領を目指していたリリベルは馬車の中で昼寝していたが、御者に声を掛けられて目を覚ました。
「ふわ~」
まだ膝の上で眠るテオを一瞥しつつ、両手で目を擦りながら窓の外へ顔を向ける。
窓の外には大きな湖があって、湖沿いでは釣り竿を持った人達の姿が多数見られる。
既に湖には多数の船が浮かんでおり、釣り糸を垂らす船もあれば網を投げ入れている船も。
ジルモア領において最大の観光地でもある『ジルモア湖』では網漁体験や魚釣り大会が始まっているようだ。
「もうお祭りは始まってるの?」
「そうだね。今日で二日目かな?」
毎年、祭りは三日間行われる。
本日は祭りの二日目とあって、ジルモア領を訪れる人の数もピークに達する。
「領内に点在する村でも祭り気分を味わえるけどね。やっぱり豊漁祭といえば領主街さ」
メインストリート沿いには屋台が並び、街の至るところで美味しい匂いが漂っている。
他にも土産物屋や珍しい物を売る露店など、とにかく飽きない三日間が領主街では繰り広げられるのだ。
「楽しみだわ! 私、たっくさんお菓子を食べたいの!」
アレス達と行動していたこともあって、今のリリベルは金銭的余裕がある。
まさに彼女の理想とする「大人っぽいお菓子の食べ方」が実践できてしまうレベルだ。
「夢にまで見た食べ歩きが出来そう!」
お菓子だけじゃない。
屋台で売られる料理も片っ端から食べられそう。
リリベルは涎をじゅるりと垂らしてしまい、一滴がテオの鼻にぴとりと落ちた。
「ふわ~。もう到着?」
「もうそろそろだって。今から領主街に入るわ」
鼻に落ちたリリベルの涎を手でくしくしと拭いつつ、テオも目を覚まして窓の外に顔を向ける。
「わぁ……。すごい人の数」
「本当ね~」
領主街の中に充満する雰囲気はまさにお祭りといった感じ。
メインストリートを歩く人達は並ぶ露店に足を止めてしまう。
「この日のために他の街から行商人がわんさか来るんだ。中には外国から来ている商人もいてね。トリニア王国じゃ買えないような物も買えるかもしれないよ」
御者が語った通り、露店を開く商人の中には外国から持ち込んだ商品を売る物も。
祭りの雰囲気も相まって、観光客が握る財布の口はゆるゆるだ。
普段は見られない商品を見つけては購入してしまう者も多く、商人にとっては天国のような三日間だろう。
「リリベルも無駄な買い物をしちゃだめだよ?」
「分かっているわ。私が買うのはお菓子だけだもの!」
「僕のジャーキーや骨っこも買ってくれなきゃ困るよ!」
わいわいと盛り上がるリリベル達を乗せた馬車は、乗り合い馬車の停留所へ到着。
ここで御者とはお別れだ。
「それじゃあ、お嬢ちゃん。祭りを楽しんでね」
「うん。おじさん、ありがとう!」
御者と別れたリリベル達はさっそく街のメインストリートへ向かう。
「わぁ! どうしよう、どうしよう!?」
メインストリート沿いに並ぶ屋台を見て、リリベルは目を輝かせた。
「あっちはフルーツを売ってるし、こっちはクッキーとパンを売ってるわ!」
瑞々しいフルーツをカットして並べる露店に目を向けたと思いきや、今度はあま~い匂いを漂わせる出張パン屋に目を向けてしまう。
「む、向こうのあれはなに!? チーズ!?」
少し先にはとろ~り溶けたチーズをすくいとり、それを肉や野菜にたっぷりとかけて販売する屋台まで。
「リリベル! 向こう! 向こうだよ! 向こうにジャーキーが売ってる!」
珍しくテオも冷静さを欠いているのか、わふんわふんと吠えてアピール。
「ようし、片っ端から行くわよ! テオ、ついてきなさい!」
「わふん!」
遂にリリベル念願の食べ歩きが始まった!
「おばちゃん、ひとつ下さいな!」
「あいよ!」
手始めに購入したのは魚の形をしたクッキーである。
魚料理で有名な街だが、さすがにクッキーの中にまで魚は入っていない。
単なる魚の形をしたクッキーなのだが、サクッと一口食べてみるとリリベルが首を傾げる。
「チーズの味がする」
「うん。うちが作っているのはチーズクッキーだからね」
おばちゃん曰く、街の外に作られた牧場で作られたチーズを使った新作クッキーらしい。
「最近はチーズ料理も多くなってきたんだ。向こうでワインとチーズをセットで売る出張酒場もあるんだけど、お嬢ちゃんにはまだ早いねぇ」
トリニア王国でチーズといえば西部が有名であり、最近になって産業を始めたジルモア領は逆立ちしても勝てない。
だったら領内で消費しようと「酒のツマミに合うチーズ」の開発に乗り出したんだとか。
その試作品が祭りで試食できることになっており、街の酒場と協力して酒飲み達による品評会が始まっているようだ。
「向こうの屋台に行ってごらん。あそこでは外国料理のチーズフォンデュって料理が食べられるよ」
おばちゃんが指差したのは、リリベルも見つけた肉や野菜にチーズをかけて売っている屋台だ。
一日目はすごく人気だったらしく、客が少ない今のうちに食べた方がいいと勧められた。
「分かった! 寄ってみるわね!」
おばちゃんに手を振って、リリベルはチーズフォンデュを売る屋台へダッシュ。
肉か野菜かは客が選べるようになっており、リリベルは迷わず肉をチョイスした。
「ん~! 美味しい!」
びょい~んとチーズを伸ばしつつも、リリベルは次のお店へ。
次のお店はテオ待望のジャーキー屋さんである。
干し肉を中心に売るお店だが、ここで買ったのは少々お高めの牛肉ジャーキーである。
それを袋いっぱいに購入し、一枚、二枚とテオに差し出す。
「がじがじがじがじ」
テオは器用にジャーキーを嚙みながら歩き、店を出て次の屋台を物色するリリベルへしっかりとついて行く。
「次はあっち!」
そうして、リリベル達の食べ歩きはしばらく続き……。
「あーん! どうしよう! 食べたいけど持てない!」
見習い魔女リリベルが現在装備する物はこちら!
左手にりんご飴、右手に串焼き肉と魚の塩焼き。
「がじがじがじがじ」
テオは変わらず牛肉ジャーキーに夢中!
「ま、まずは肉を食べて、次に魚を食べて……」
どうしよう、どうしようと混乱までし始めてしまったリリベルが串焼き肉に齧り付いた時だった。
「外の湖に魔女様がいるらしいぜ!」
「見に行ってみよう!」
そんな会話が聞こえてきた。
「テオ、聞いた? 魔女だって」
「うん。南の魔女かな?」
だったらリリベル達にとって好都合。
こりゃ自分達も見に行くしかない、とリリベル達は街の外にある湖へ向かう。
魔女がいる噂に惹かれた人が多いのか、湖には人だかりができていた。
リリベル達は器用に人の合間をすり抜けていくと――湖に大きな水の柱が立つのが見えた。
大量の水しぶきを上げた水の柱は見た目的にもダイナミックなものであったが、同時に柱からは大量の魚がぴょんぴょんと飛び出してくる。
飛び出した魚は地面に置いてあった籠の中に入っていき、大量の魚を一度でゲットしてしまう。
「おおー!」
「さすがは魔女様だなぁ~!」
見物人達が感嘆の声を発し、同時に視線を送る者の正体は……。
なんと、リリベルと同い年と思われる少女だった。
ショートカットの青い髪は片目が隠れており、服装は白いシャツに白と黒のラインが入ったスカート。足にはニーソックスに茶色の靴を履いている。
手にはリリベルとは違ってステッキを持っていて、それを指揮者のように振りながら水を操っていた。
ただ、どうにも彼女の表情は眠そうに見える。
「あの子が魔女?」
リリベルがテオに問う。
その声は『魔女』本人にも聞こえたらしく、青髪の美少女が眠そうな表情と共にリリベルへと振り返った。
「魔女様? どうしました?」
近くにいた男性が問うも、美少女はそれを無視してリリベルへ歩み寄る。
彼女はリリベルの真ん前までやって来ると、じっとリリベルを見つめて……。
「貴女も魔女?」
こてんと首を傾げて問うてきた。




