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おかしな見習い魔女は自立したい ~約束の小さな旅 編~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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第22話 クレシュア家


 クレシュア子爵領は山の多い土地だ。


 ひと昔前までは希少鉱石である『魔鉄』が採掘できると有名だったが、現在はその採掘量もかなり低下してしまった。


 これはいかんと考えた前当主――ニーナの祖父が次の一手として打ったのが温泉を目玉にした観光業である。


 領主街には複数の温泉が整備され、平民貴族問わず人気の観光地として成功する。


 特に温泉の効能である『肌が若返る』というフレーズは女性客を虜にし、今では王族の女性陣もお忍びで訪れるほど。


「わ~! 人が多いわねぇ!」


 今日も観光客で賑わう領主街の様子をキャビンの中で眺めていたリリベルは驚きの声を上げた。


 メインストリートを歩く人達の数はガナン伯爵領領主街の二倍はいるだろう。


 道沿いには土産物屋や食堂が多く、道に流れる観光客が続々と店に吸い込まれていくのだ。


 街の入口があった東側を抜けると、中央区付近には巨大な公衆浴場が。


 他の領地と同じく低価格で入場できることができ、中は名湯と名高いクレシュア温泉と同じお湯が使われている。


 これによって平民も温泉を楽しむことができるので住民からの評判はすこぶる良い。


 温泉宿との住み分けとしては、静かな温泉を楽しめるかどうかだろうか。


 公衆浴場は良くも悪くも賑やかで落ち着かないという人もいるだろうし、旅行で訪れた貴族達も静かで優雅なひと時を過ごしたいと思うはずだ。


「ニーナの家にも温泉があるの?」


「ええ。もちろん。今夜は一緒に入りましょう?」


「うんっ!」


 リリベルの隣でお座りしていたテオはそっと目を逸らした。


 その後、メインストリートを北に抜けて遂にお屋敷へ。


 広い敷地は石ブロックで囲まれており、正面には鉄柵門と守衛の騎士が三人。


 敷地内には綺麗に整えられた石畳みの地面があり、大きく立派な三階建ての屋敷がドドーンと建つ。


 これぞまさしく、観光業で潤った金持ち貴族の家! といった感じである。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 玄関前で停車した馬車からニーナが降りると、待機していたメイド達が一斉にお出迎え。


 ニーナとの挨拶が終わると一斉に動き出し、馬車に積まれていた荷物を下ろし始めた。


「さぁ、皆さんも中に。ハイネ副団長も一緒に来て下さいますか?」


「もちろんです、お嬢様」


 リリベル達はニーナとハイネの後に続き、大きな玄関を潜る。


 玄関の先にあったエントランスはまるで美術館のような内装だ。


 家の誰かが美術品コレクターなのか、絵画や彫刻品などが品良く飾られている。


 その中には銀色の鎧や剣などもあって、ジャンル問わず収集している様子が窺えた。


「はえ~。物がいっぱい。師匠の物置みたいね?」


「うちの物置と比べちゃ悪いよ……」


 とはいえ、森暮らしのリリベルには理解できなかったらしい。


 テオが呆れる中、東側の廊下に続くドアから中年男性と老人が現れた。


「ニーナ、おかえり」


「やはり戻ったか」


「ただいま戻りました。お父様、お爺様」


 彼らはニーナの父親であるカークと祖父のジョンだったようだ。


 父親は細身というか、歳の割には細すぎる印象を受ける。ただ、娘を出迎える笑顔はとても優しそうで穏やかだ。


 対し、祖父はスキンヘッドでカイゼル髭、杖をついて歩くも厳つい表情を崩さない。


 何とも対照的な親子、といった雰囲気だ。


「魔法学園には入学できなかったか。それに後ろの連中は誰だ?」


 眉間に深い皺を寄せながら言うジョンに対し、ニーナは「ふぅ」と一度深呼吸してから口を開く。


「お爺様。魔法学園には入学できませんでした。しかし、英雄の資質に目覚めました」


「なんだと!?」


「それと、後ろの方々は命の恩人です」


「命の恩人?」


 そう問うのは父親のカークだ。


 彼は娘の口から出た言葉に驚きつつも困惑した表情を見せる。


「道中、私の命を狙う輩に襲われました。その連中を退けるために助力して下さったのがアレスさん達です」


 王都からの帰り道にて発生した問題を端的に告げると、カークとジョンは揃って唸り声を上げてしまう。


「とにかく、リビングへ行こう。孫の恩人というならばもて成さねばなるまい」


 一行は屋敷のリビングへ移動すると、そこで更に詳しく事情を語る。


 ハイネを中心にして語られた出来事に父親であるカークは顔を青くし、祖父のジョンの眉間にある皺は地獄の谷の如くどんどん深くなっていく。


「なるほど、事情は理解した」


「皆さん、娘を助けて下さり本当にありがとうございます」


 カークとジョンは揃って頭を下げ、アレス達に「この礼は必ず」と強く言った。


「して、ニーナの隣にいるお嬢さんは魔女見習いという話だが……」


「あむ?」


 ジョンが視線を向ける先にいたのは、テーブルの上に置かれたお菓子をがっつくリリベルである。


 片手にクッキー。もう一方の手にはアップルパイ。


 お菓子の二刀流をキメるリリベルはジョンを見つめながら「なに?」と言わんばかりに首を傾げる。


「……本当に?」


「ええ」


「ワシも保証します」


 ニーナとカミ爺が本物だと肯定した。


「まさか魔女様がうちにやって来るとは……。しかも、ヴァレンシア様のお弟子様とお会いできるとは夢にも思わんかったな」


「師匠のこと知ってるの?」


「もちろん。東の魔女ヴァレンシア様と言えば絶世の美女と有名であり、霊薬の作り手として名高いお方だ」


 カミ爺と同じくヴァレンシアを絶賛するジョン。


 ジョンもカミ爺と同じ世代だからか、魔女ヴァレンシアに対して様々な想いを抱いているのだろう。


「一度、ガナン伯爵の伝手でお話したこともある。あまりの美しさに緊張してしまい、隣に居た妻から尻をつねられたこともあったな!」


 ワハハ! と笑うジョンは懐かしそうに思い出を語った。


 だが、すぐにその表情は曇ってしまう。


「しかし、ヴァレンシア様が亡くなられてしまったとは……。何とも寂しいものだ」


「左様でございますな。トリニア王国にとって大きな損失でもあります」


 ジョンはカミ爺の言葉に大きく頷く。


「ですが、リリベル君も凄まじい魔女でございますぞ。それはこの目で見た私が保証します」


「そうですわ! リリベルは凄い魔女ですのよ!」


 間に挟まれたリリベルは両者の顔をキョロキョロと見て、両手にクッキーを持ちながら「えへん!」と胸を張る。


「そうか、そうか。とにかく、本日はうちでゆっくり休んでいってほしい。まずは温泉にでも浸かってはどうかな?」


「温泉! 私、入ってみたかったの!」


 リリベルが「やったー!」と喜ぶ様子を見せると、ジョンは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「ニーナ、魔女様を温泉に案内して差し上げなさい。お前も長旅で疲れただろうし、一緒に浸かってきてはどうだ?」


「そうします、お爺様」


 ニーナはリリベルに「行こう」と誘う。


 リリベルは密かに逃げようとしていたテオを抱き上げ、彼女と共に温泉へと向かう。


 脱衣所へ向かうとリリベルはテオを小脇に抱えたまま器用に服を脱いでいく。


「……器用ですわね」


「こうしないとテオが逃げちゃうの」


 いつものこと、とリリベルは平然とした態度で服を脱ぎ続ける。


「僕は入らなくても平気。二人の護衛として脱衣所で待ってるよ」


「何言ってるのよ。前の宿でもお風呂に入らなかったでしょ? そろそろ本格的に獣臭いわ」


 リリベルはテオの顔を埋めると「スゥゥゥ」と匂いを嗅ぐ。


「臭い! 獣臭い!」


 そうは言いつつも、また顔を埋めて「スゥゥゥ」と匂いを嗅ぐのだ。


 獣臭いとは言いつつも、癖になる匂いなのかもしれない。


「私も! 私も嗅ぎたいですわ!」


 美少女二人に匂いを嗅がれつつも温泉へ。


「わぁぁ! 浴槽が外にあるのね!?」


「こっちは露天風呂なの。ちゃんと室内のお風呂もありましてよ」


 ただ、露天風呂の方が広い。


 温泉を堪能するなら広い風呂の方がいいだろう、というニーナの気遣いだろう。


「背中、洗ってあげますわ」


「ありがと」


 ニーナはリリベルの背中を洗い、リリベルはテオを洗う。


 一列に並んだ二人と一匹が体を洗い終えると、遂に広々した浴槽へ身を沈める。


「はひ~」


「ふぅ~」


 とろんとした表情で温まるリリベルと彼女に抱き抱えられたテオ。


 一人と一匹はこのまま寝てしまいそうなほど気持ちよさそうだ。


「ねぇ、リリベルはこの後どうしますの?」


 リリベルと肩を並べて湯に浸かるニーナは顔を見ずに問う。


「ん? 私は……。次は南の魔女に会いに行くよ?」


「そう……。せっかくお友達になったのに寂しいですわね」


 ニーナは空を見上げて呟く。


 ただ、リリベルは「へへへ」と嬉しそうに笑うのだ。


「じゃあ、帰り際にも寄ろうかな? また温泉入らせてくれる?」


 リリベルがそう言うと、ニーナは勢いよく彼女へ振り返った。


「もちろんですわ! 絶対! 絶対に、ですわよ!?」


「う、うん」


 ニーナはリリベルの手を取ると、ぎゅっと握り締めながら「絶対! 約束!」と何度も強く願う。


「お菓子パーティーも開きますわ! 滞在中、ずっと!」


「絶対寄ります」


 リリベルは今年一番の真剣な表情で頷いた。


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